こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

昨日より赤く明日より青く

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港湾地域の工場で加工する原材料や廃材を管理している2人の若者。直径2mほどもある大きなタイヤをつけた大型の重機を尻目に彼らは清掃作業に従事する。まだ触らせてもらえない、彼らの扱えるのは自転車ぐらい。兄弟仲良く暮らしているけれど将来に夢や希望はない。それをうすうす気づいているからこそ今を精一杯楽しもうとしている。コンクリートと土砂と狭い海、殺風景な彼らの職場を照らす夕日が印象的な1話目だった。映画は20分ほどの短編6本、それぞれ21世紀を生きる若者たちの日常を切り取り、ちょっとした出会いやハプニングが彼らの人生を変えていく過程を描く。今日は昨日よりましだったのか? 明日は今日よりいい一日になるのか? それはわからない。それでも今日一日を何とか必死で生きている。そんな当たり前のことが瑞々しかった。

親友と柊子との板挟みになったあゆむが、複雑な気持ちを抱えながら柊子と一日を過ごす第2話。あゆむのやさしさは優柔不断の裏返し、己の気持ちに素直になれない彼の繊細さが草食系男子を象徴していた。

3話ではフードデリバリーの青年が中国人美女との人間関係をAIにサポートしてもらう。仕事も私生活もあらゆるシーンでなくてはならないパートナーとなったAIが、生身の人間との恋を橋渡しする未来は確実にやってくるだろう。あと、外国語を学ぶ必要もなくなる。4話は200年前の女の幽霊に取りつかれた板前が “妊娠” する。死者を怖がらず正面から向き合って気持ちを理解してあげれば、幽霊も怖くないとこの作品は教えてくれる。5話はコロナによって分断された日米の恋人たちの葛藤。恋人をシカゴに残し帰国した日本人のノーテンキさは、コロナ禍初期の楽観が暗転する瞬間を鋭く切り取っていた。6話はバス停で出会った男女が東京中をふらついて一夜を明かすという「恋人たちの距離」の焼き直し。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

スタジオ外で撮影された映像はどの作品も躍動感に富み刺激的。ただ、兄弟の絆を描いた1話以外は似た趣向。監督の個性が際立つ映像が見たかった。

監督     SABU/新城毅彦/山下敦弘/森義隆/真利子哲也/久保茂昭
出演     佐野玲於/醍醐虎汰朗/関口メンディー/阿部純子/白濱亜嵐/門脇麦/中務裕太/山田真歩/片寄涼太/藤井武美/小森隼/ルナ
ナンバー     220
オススメ度     ★★*


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http://www.akakuaoku.toeiad.co.jp/

ダ・ヴィンチは誰に微笑む

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巨匠の手による真作か、それとも彼の工房で弟子が描いたのか。期待は憶測を呼び、売値を釣り上げていく。カメラは、レオナルド・ダ・ヴィンチ作とされる肖像画をめぐるマネーゲームを追う。米国の田舎町で見つかった絵は、最初廉価で落札される。だが自らの直感を信じた美術商は、手間暇かけて修復する。それがレオナルドの作品と確信した彼は、研究者や有名美術館の学芸員などに鑑定してもらう。そこで得たお墨付きは、絵の運命だけでなくかかわった人々の人生にまで影響する。来歴はわからない。鑑定書もない。権威あるプロが出した答えだけが独り歩きしていく。今や投資対象と化したアート、買い手はババをつかまされたのか? そしてそれを誰かに押し付けたのか? 虚々実々の駆け引きは今にも血が流れそうなほどスリリングだった。

2017年、オークションで4億5千万ドルの値が付いたレオナルドの “救世主”。存在自体が幻だったその絵は、“真作” として、ロンドンのナショナル・ギャラリーに展示される。

鑑定した専門家たちが疑念を完全に払拭していないにもかかわらずナショナル・ギャラリーがレオナルド作と認めたため、“救世主” は世界の注目を浴びる。まあこのあたりまではアート界隈のよくある話。ところが値上がりを期待したロシアの富豪が触手を伸ばしてきたことから一転きな臭くなってくる。仲介したフランス人はいかにも忠実な執事という雰囲気を醸し出しながら、ロシア人を手玉に取り莫大な手数料を懐に入れる。保管場所も「テネット」に出てきた非課税の空港倉庫。富豪に群がって暗躍する男たちの姿は強欲と呼ぶにふさわしい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ルーブル美術館が懐疑的な鑑定結果を出した一方で、今度はアラブの王子が関心を示す。資金力に物を言わせて “真作” の太鼓判を欲するが、ルーブルの態度は変わらない。このあたり、そもそも極秘に進められていたプロジェクト現場の撮影許可をどうやって取ったのか? ぜひともそこが知りたい。高い買い物だったことを認めない王子の複雑な表情が印象的だった。

監督     アントワーヌ・ビトキーヌ
出演     
ナンバー     219
オススメ度     ★★★*


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https://gaga.ne.jp/last-davinci/

ミラベルと魔法だらけの家

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家族みんなが授かっているのに、なぜか自分だけは与えられなかった。明るく振舞ってはいるけれど、やっぱり寂しかった。物語は、代々魔法を受け継ぐ家系に生まれたのにひとりだけ能力が発現しなかった少女の繊細な気持ちを描く。母も叔母も姉たちもいとこたちも、魔法を使って村人の生活を守っている。なのに、どれだけ頑張っても役に立つどころか足を引っ張るばかり。家長である祖母には怒られてばかりでいつの間にか距離ができてしまった。考えすぎないように気を付けているけれどやっぱり劣等感にさいなまれてしまう。そんなヒロインの屈折した思いが、表情と動作がデフォルメされたアニメで再現されていた。家一軒を持ち上げるほどの怪力を持つ姉が、人々の期待にこたえ続けなければならないプレッシャーを歌うシーンは、魔法など呪いでしかないと訴える。

おばあちゃんと一族が守ってきた家にひびが入り始める。消息を絶った叔父・ブルーノが解決のヒントを握っていると知ったミラベルは、彼が隠れ住む秘密の部屋で未来を見てもらう。

予知能力を持ち予言がすべて現実になってしまうが故、ブルーノは忌み嫌われ人前から姿を消した過去を持つ。ブルーノの予言でも家を壊すのはミラベル。でも運命はきっと変えられると信じたい彼女は、なんとか方策を探る。その過程で、魔法を使えるようになった姉たちも、実はその魔法を使えることで自由が制約され、人々が期待するような行動をとらなければならない苦悩を告白する。結婚してNYに渡った元プリンセスなら彼らの気持ちをリアルに理解できるだろう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

予言が現実になり始めるが、もはや止められない。だが、予言の先にある未来までは誰も知らない。ミラベルの絶望、おばあちゃんの失望、ブルーノの奮起。目まぐるしい展開は非常に情報量が多い画で再現され、そのスピードには視覚がついていけない場面もあった。後半以降はミラベルやブルーノ、おばあちゃんの行為や心情の変化を考える間もなく、その力技に押さえ込まれた。

監督     バイロン・ハワード/ジャレッド・ブッシュ
出演     
ナンバー     218
オススメ度     ★★★


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https://www.disney.co.jp/movie/mirabel.html

ディア・エヴァン・ハンセン

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息子の自死という悲しみの中で希望を見出そうとする母親を前に、真実を言い出せなかった。彼女を失望させたくなくて話を合わせただけだった。だが主人公がついた嘘は独り歩きし社会現象になってしまう。物語は、コミュ障少年がちょっと絡んだだけの男子生徒の “親友” 演じるうちに、本当の自分を見出していく過程を描く。クラスメートだけでなく、SNSに群がる無数の人々は皆、心温まるエピソードを求めている。彼らの欲求を満たすために、話を盛り、己の記憶を脚色して周囲に披露する。拡散するほど良心は疼くがもう引き返せない。決してひとりじゃないと訴えるメッセージは瞬く間に共感を呼び、彼はいつしかヒーローに祭り上げられる。リーダー的存在の少女が抗うつ剤に頼っていると告白する歌が、ポジティブ信仰の現実を物語っていた。

エヴァンが自分あてた手紙がコナーの遺品として発見され、コナーの母はエヴァンがコナーと親しかったと思い込む。その後もエヴァンはコナーからのメールを偽造してコナーの母に見せる。

コナーは心の病が重く、妹や継父にまで嫌われている。キレやすく学校でもはれ物扱いで生前の評判はすこぶる悪い。ところがエヴァンはコナーがいい奴だったと吹聴し、彼の人生を勝手に創造していく。深い人間関係を避けてきたエヴァンがコナーのことで注目を浴び、さらに自らの孤独をさらけ出した魂の叫びがネット経由で世間に影響を与えていく。エヴァンが作ったコナーの “感性豊かで思いやりに満ちた少年” 像は瞬く間に神話となる。このあたりの展開の速さは、人は信じたいことを信じると訴え、デジタル社会における人々の関心の熱しやすく冷めやすい実態をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてエヴァンの話の不自然さに疑問を持ち始める者が現れ始める。問い詰められるうちにエヴァンは告白する。そして崩壊していく栄光の日々。嘘は時に人を救う。しかし、ネットの住民は決して嘘を許さない。正直者が損をしてはいけないが、善意の嘘が完全に否定される世の中はやっぱり生きづらい。

監督     スティーブン・チョボウスキー
出演     ベン・プラット/ジュリアン・ムーア/ケイトリン・デバー/エイミー・アダムス/ダニー・ピノ/アマンドラ・ステンバーグ/コルトン・ライアン/ニック・ドダーニ
ナンバー     217
オススメ度     ★★★


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https://deh-movie.jp/

モスル あるSWAT部隊の戦い

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捕虜を処刑する。重傷の敵はとどめを刺さずに放置して苦しませる。狂信者どもには一切の慈悲をかけない。物語は、ならず者組織がはびこる町で単独の救出活動を展開する特殊部隊の戦いを描く。警察官としてきちんと取り調べたかったのに、特殊部隊は容疑者をあっさり殺してしまう。成り行きで彼らに加わった若き警官は、裏切りと欺瞞に満ちた戦場で何をすべきかを学んでいく。廃墟と化した石造りの古い町並み。あらぬ方向から狙撃してくるスナイパー。巧妙に仕掛けられた爆弾。そんな場所でも市民は生活を続けなければならない。ドローンやタブレット端末といったハイテク小道具は一応出てくるが、およそ現代の戦争とは思えない緊迫した戦闘シーンの連続は、最前線での掃討作戦は結局マンパワーが頼りだと教えてくれる。

テロリスト取り調べ中にIS軍の襲撃を受けたカーワはSWAT小隊に救出される。その場で隊長からSWAT入りを命じられたカーワは、目的も教えられないまま彼らと行動を共にする。

SWAT入隊条件は、ISに家族を殺された者であること。ISは憎いが、有無を言わさず彼らに銃弾をぶち込むSWATに違和感を覚えていたカーワは、相棒の裏切りで、非情にならなければこの世界で生き残っていけないと知る。一方でSWATは正規軍の命令に背き単独で行動している。カーワはSWATの隊員たちから学び行動し自らを成長させていく。そして、果てしない憎しみの連鎖の先にあるものを探し始める。警官らしい正論を吐く青二才だったカーワが、わずか数時間で戦闘マシーンに変貌していく。その成長(?)の速さに目を見張った。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

道中、子供を救出したり、ISと交戦したり、イラン軍と交渉したりしながらSWATは目的地を目指す。隊長が指揮権を放棄するなど首をかしげたが、それは巧妙な伏線。一般市民を戦闘に巻き込むだけでなく、脱出しようとする人々を射撃の的にし、さらに女性は人身売買の対象にする。そんなISの悪行の数々をリアルに再現された映像は、イスラムの原理とはいったい何なのかを改めて考えさせられる。

監督     マシュー・マイケル・カーナハン
出演     ヘール・ダッバーシ/アダム・ベッサ/イスハーク・エリヤス/クタイバ・アブデル=ハック/アフマド・ガーネム/ムハイメン・マハブーバ/ワリード・エル=ガーシィ
ナンバー     216
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://mosul-movie.jp/

囚人ディリ

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殴る蹴る投げる頭突きする関節をキメる押さえ込む踏みつぶすetc. 束になって襲ってくる数十人の荒くれ者たちをたったひとりで迎え撃つ主人公の大活躍は爽快だ。物語は、警察と麻薬組織の抗争に巻き込まれた元囚人の激闘を描く。数時間以内に多数の患者を町の病院まで運ばなければならない。おんぼろトラックで山道を突っ切ろうとするが、あちこちでギャングが待ち伏せている。味方はけがをした署長とデリバリーボーイのみ、役に立つどころか足を引っ張っている。圧倒的不利な状況で、男は唯一の願いをかなえるために決死の覚悟を決める。主人公だけでなくサブキャラの心情まで丁寧に解説する映像はいかにもインド映画らしい。もどかしさもあるが、細かい矛盾をねじ伏せるような力強さがこの作品にはあった。

郊外の別荘でパーティに出席した警察官が毒を盛られ、隊長のビジョイ以外が意識不明になる。5時間以内に治療しなければ命がないと知ったビジョイは手錠で繋がれた男・ディリに輸送を依頼する。

娘の元に急ぐディリだったが仕方なく患者を乗せたトラックのハンドルを握る。最初に現れたギャング一味を次々と素手で瞬殺していく過程は、洗練された格闘術ではなくすべて自己流のケンカ殺法。アクションとしてのスリルはないが、体重が乗った攻撃はまさしく相手を “ぶちのめす” という表現がぴったり。ナイフで切られ石を頭にぶつけられても怯まずに前進する姿は鬼神のようだった。背後から刺され戦闘不能に陥っても、娘への思いがエネルギーとなって奇跡の復活を果たすなど、非常に古臭い価値観をいまだ引きずっているあたりも、なんか憎めない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で、ギャングは押収された麻薬の奪還のために別動隊を派遣、新任警官と学生たちが警察署に籠城して麻薬を守る。そちらの攻防戦でも、煮え切らない態度の者や、腹をくくる者、なかなか動かない者などさまざまな人間模様が交錯する。田舎町とはいえ、警察官が市民に対してすごく偉そうにしているのは、まだそういうお国柄だからなのか?

監督     ローケーシュ・カナガラージ
出演     カールティ/ナレーン/ラーマナー/ジョージ・マリヤーン
ナンバー     215
オススメ度     ★★*


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https://shuujin-dilli.jp/

ミュジコフィリア

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「未聴感」。新たに作曲された音楽において、それを聞いた者が斬新さを覚える旋律なり曲想をいうのだろう。全体としては耳になじむメロディでそれなりにまとまっているけれど、過去の名曲のいいとこ取りで作曲者のオリジナリティが感じられない作品は、やはり現代音楽として評価されない。物語は、芸術大学の音楽サークルに入った新入生が奇天烈な先輩や理解ある先生、恋や異母兄弟との葛藤を経て成長していく過程を追う。もちろん音楽の基礎は叩き込まれるが、その後の応用は自分次第。正統派の交響曲から音楽と呼べるのかどうかわからないパフォーマンスまで、音楽を自由に解釈する若者たちの、まだ実績もないのに己の才能を信じて突っ走る姿は、青春モノの定番とはいえとても楽しい。たおやかな賀茂川の流れはアートとの親和性がいい。

京都の芸術大学に入学した朔は現代音楽研究会に勧誘され、封印していたピアノの才能に火が付く。一方、博士課程在学中の異母兄・大成は新曲でコンクールにエントリーする。

美術専攻なのにいつの間にか音楽にどっぷりはまっている朔。単位はとか転部してはとか心配するが、本人も周囲も全く意に介さない。芸大らしい “やりたいことは突き詰めてやれ” という方針なのだろう、朔は変人の青田に引きずられるままに音楽の世界に浸っている。他の登場人物もそれぞれが課題と創作に打ち込む。ピアノ、弦楽器、作曲、歌唱と表現方法は様々だが、共通しているのは聞く者の心に少しでも爪痕を残そうという工夫と努力。まだアーティストとも呼べない彼らの感性は未熟だが情熱にあふれていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

朔と大成は過去の因縁から距離を置いている。現時点では圧倒的に大成の方が洗練されているが、音感に恵まれた朔は即興で人を虜にするメロディを紡ぎだしたりする。天才も変人も努力家もエゴイストも、みな自らの感性を信じ無限の可能性に向かって進む。そんな若者たちの背中は希望に満ちていた。ありふれた設定でぎこちない展開ながら、若いエネルギーがほとばしっていた。

監督     谷口正晃
出演     井之脇海/松本穂香/山崎育三郎/川添野愛/阿部進之介/石丸幹二/濱田マリ/神野三鈴/辰巳琢郎
ナンバー     214
オススメ度     ★★★


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https://musicophilia-film.com/