こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

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器用な祖父は意匠を凝らした白い家をすべて己の手で建てた。そこにはこの地にやってきた最初の黒人の苦労と誇りが凝縮されている。だが白い家は人手に渡り、買い戻すには途方もないカネを払わなければならない。物語は、サンフランシスコの高級住宅街に立つ豪邸を取り返すために奔走する青年の葛藤を描く。犯罪に手を染めず真面目に生きてきた。世の中に不満もあるが、きちんと管理しない老夫婦に代って白い家のメンテナンスに励んでいる。しかし、不動産価格の高騰が旧住民を遠ざけ、金持ちしか住めない街にしてしまった。リベラルな土地柄ゆえか、白人たちは黒人への露骨な差別感情は示さない。一方で、主人公があいさつした白人の老人が笑顔の裏ですぐ悪態をつくシーンが、いまだに強く残る貧困層への偏見を象徴していた。

ジミーは親友のモントとともに白い家に押し掛けては勝手にペンキを塗ったり庭に手を入れたりする。ある日、持ち主の老夫婦が退去、ジミーは鍵を開けて侵入し、白い家に住み始める。

不法占拠なのはわかっている。それでもずっと夢に見ていた祖父の家。ジミーは家族の思い出が染みついた家財道具を持ち込み、つかの間の幸せに浸る。街頭ツアーの引率者が語る白い家の来歴とはまったく違う見解を示すジミーは、信じたいことだけを信じている。ところが、まだ健在の父も母も、白い家には興味を示さない。ジミーの白い家に対する過剰な思いは過ぎ去った良き時代へのノスタルジーなどではなく、施設しで暮ら失われた自分の存在意義を取り戻すための通過儀礼なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジミーは不動産管理会社に見つかって追い出される。再び行き場を失ったジミーの哀しみを、表現者でもあるモントは戯曲にまとめ、ひとり芝居の公演を催す。そしてモントが明らかにする白い家の真実。時の流れ、資本主義の理論、そうした大きな波の前ではジミーは無力。再開発される地域も景観を保存しようとする地区も結局は自由競争が優先される。加速する時代についていけない人々の背中は寂しそうだった。

監督  ジョー・タルボット
出演  ジミー・フェイルズ/ジョナサン・メジャース/ロブ・モーガン/ダニー・グローヴァー
ナンバー  177
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://phantom-film.com/lastblackman-movie/

ハッピー・オールド・イヤー

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友人がくれたCD、父が弾いていたピアノ、別れた恋人のカメラetc. ぜんぶ捨てようと思ったのに、やっぱり罪悪感はぬぐい切れない。もらったモノはひとつずつ贈り主に返却し、残されたモノは持ち主の許可を得てから売却する。物語は、自宅のリフォームを機に、たまりにたまった不要物を処分しようとする女の葛藤を追う。無駄なモノを所有せず必要最低限のモノだけで生活する。シンプルだけど心は解放される。ユニークな発想が湧く気がする。新しい自分に生まれ変われる予感がする。そう信じた彼女は大量のごみ袋に「ときめきを感じなくなったモノ」を躊躇なく放り込んでいく。ところが友人のひと言が、彼女を翻意させる。モノに染みついた記憶は彼女の人生そのもの、過去の清算にも思いやりを忘れてはならないとこの作品は教えてくれる。

北欧風ミニマルライフに憧れるデザイナーのジーンは実家をオフィスに改装しようとする。自室だけでなく事務スペースや兄の部屋もモノにあふれているが、ひと月少々で片づけなければならない。

貰い物・借り物は律義に返していく。ありがたがる者、迷惑がる者、拒絶する者、反応は様々だが、その過程を通じてジーンはこれまでの交友録を再確認し、これからもつながっていたい人ともうこれきりにしたい人をふるいにかける。そして、傷つけた元恋人・エムには直接カメラを返しに行く。新恋人と暮らしているエムはジーンを温かく迎え特に恨んでいない様子。このあたりの、元カレ元カノ今カノの微妙な感情は少し理解しがたいけれど、怒ったりしないのはタイ仏教の教えが浸透しているからなのか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、家を出た父のピアノを巡って母とひと悶着あるが、なんとかなだめる。その過程で、ジーンは他人の気持ちを想像することを学んでいく。相手の思いを受け止めた上で、誠実に向き合う。現実には、プレゼントを捨てられるのは悲しいが返しに来られても困る。答えは人の数だけあるけれど、それが煩わしい人間関係の断捨離にもなるとジーンの行動は訴えていた。

監督  ナワポン・タムロンラタナリット
出演  チュティモン・ジョンジャルーンスックジン/サニー・スワンメーターノン/サリカー・サートシンスパー/ティラワット・ゴーサワン/アパシリ・チャンタラッサミー
ナンバー  156
オススメ度  ★★★


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http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/

わたしは金正男を殺してない

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熟練の暗殺者か、利用されただけの捨て駒か。結論は最初から分かっている。だが、当事国がメンツを重んじたがゆえに、2人の女は拘束され運命をもてあそばれる。映画は、2017年に起きた要人暗殺事件の真実に迫る。大勢の人々が行き交い監視カメラの目が光っているスペースで堂々と行われた。残された記録では、実行犯は悪びれた様子もなく逃走や偽装もせず、自分が人を殺したなどとはまったく思っていない様子。一方で、一部始終を柱の影から見守っていた男たちはトイレで着替え速やかに撤収していく。入念に練られ時間をかけて仕込まれた計画、大規模な破壊や銃器を使用しなくてもテロは成功させられる。国家の後ろ盾があれば罪に問われもしない。そして外交上のパワーゲーム。独裁者の陰謀に人生を狂わされた彼女たちが哀れだ。

金正男殺害の容疑で逮捕されたインドネシア人のシティとベトナム人のドアン。弁護団は事件当日のモニター映像から8人の北朝鮮人の関与を疑うが、みな出国するか大使館に逃げ込んでいた。

金正恩体制になって以後、常に命の危険にさらされてきた正男。マカオに住んでいるうちは安全だが、マレーシアにバカンスに行ったタイミングで狙われている。シティもドアンも暗殺の数か月前から動画撮影の名目で接近してきた男たちに指示されて、ローションを見知らぬ人の顔に塗る行為を繰り返している。つまり北朝鮮工作員は正男のスケジュールを正確に把握していて、空港に現れる日時に合わせてシティとドアンをスカウト、ピンポイントで “暗殺者” に仕立て上げたのだ。その後の関係各国政府、特にマレーシア政府を手玉に取る作戦も計算通りに運んだはず。北朝鮮のしたたかな戦略がうかがえる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

弁護団の綿密な調査で、彼女たちはずっとイタズラ動画だと信じていたという事実が明らかになる。そして、人一人死んでいるのに誰も罰せられず、北朝鮮工作員もおとがめなし。金正恩の完全勝利に終わったこの事件、国際社会は手をこまねいているしかないのだろうか。。。

監督  ライアン・ホワイト
出演 
ナンバー  174
オススメ度  ★★★*


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https://koroshitenai.com/

異端の鳥

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殴られ蹴られ打擲され埋められ川に突き落とされ犯され肥溜めに放り込まれ吊るされても、決して生きることをあきらめない。少年は、どれほど卑劣な仕打ちを受けても感情を殺して耐え忍ぶ。物語は、独ソ戦の戦場となった東欧で、ユダヤ人孤児が過酷な運命に翻弄される姿を描く。どこに行っても異端視され、まともな人間として扱ってもらえない。引き取ってくれる大人がいても、粗末な食事と寝床の引き換えに重労働を課される。痛みや辛さはもう感じないように自制している。屈辱を受け流すしたたかさもいつの間にか身につけた。そんな彼に親切に接してくれる人もわずかだがいる。あらゆるショットが端正な絵葉書のごとく美しい詩情に満ちたモノクロームの映像は、少年の受難をより残酷に際立たせていた。

一緒に暮らしていたおばに先立たれた少年は村に行くがリンチにあい、呪術師に拾われる。病気に罹り捨てられるが、川に流されたところを水車小屋の夫婦に助けられ、雑用をこなすようになる。

冒頭、いきなり数人の子供に襲われ持っていた動物を焼き殺される少年。その後も、往く先々で凄惨な暴力を体験する。少年を迫害するのは普通の村人たち、その容貌が不吉さを直感させるのだろう。まだ電気も水道もない農村部では排他的保守的な一方で、コミュニティに属さない人々は少年に寛容である。鳥刺し男が白ペンキを塗った鳥を空に放つと、群れの他の鳥たちが白い鳥を集中攻撃する。均一な集団に異質な者が紛れ込んだときのヒステリックな反応は、人間社会を象徴するわかりやすいメタファーとなっていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ドイツ軍占領地域では少しは文明の香りがする。少年はSS将校のブーツを磨いて命拾いしたり、ドイツ兵に逃がしてもらったり。ソ連軍兵士からは初めてきちんと対応してもらう。独ソ両国に国土を蹂躙された被害者であると同時に、より立場の弱い者に対しては加害者だったこの国の住民たち。戦争のせいにはできない、人間の邪悪な本性がコントラスト鮮やかに浮き彫りにされていた。

監督  ヴァーツラフ・マルホウル
出演  ペトル・コラール/ニーナ・シュネヴィッチ/アラ・ソコロワ/ウド・キアー/イトカ・チュヴァンチャロヴァー/ステラン・スカルスガルド/ハーヴェイ・カイテル
ナンバー  173
オススメ度  ★★★★


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http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/

望み

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たとえ人殺しであっても息子の無事を願う母。犯罪者となって逃げ回っているよりもむしろ被害者になったほうがマシと考える父。両親の胸中がわかるがゆえに複雑な感情を持て余しストレスをためる妹。物語は、殺人事件にかかわった息子に心を痛める家族の葛藤を描く。息子の友人が惨殺された。一緒にいた息子をはじめ、犯人は行方不明。警察は肝心なことを知らせてくれない。マスコミは容赦なく私生活に踏み込んでくる。ネットは中傷誹謗であふれかえっている。雑誌記者は知らなかった息子の素顔を教えてくれる。周囲の知人は興味本位で噂をばらまき、それを信じる人もいる。次々にもたらされる情報は家族の希望を奪うものばかり。そんな状況の中で、冷静さを失う母とあくまで理性的に振舞おうと努める父が対照的だ。

高校生の息子・規士が無断外泊した翌日、彼の友人が死体で見つかる。現場から逃走した2人組のひとりが規士である可能性が高まり刑事が訪ねてくるが、父も母も現実を受け入れられない。

被害者の交友関係から規士が容疑者扱いされるが、一方で彼もまた殺されたのではないかと疑念が持ち上がる。どちらに転んでも結果は最悪、両親は眠れぬ夜を過ごす。最近の規士は明らかにグレていて、世間は彼らに同情するどころか、面白がっている。それでも、規士を擁護してくれる女子クラスメートもいる。もう自分たちではどうにもならず藁にもすがりたいという状況で、父と母の言動が男女の思考回路の違いをリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

雑誌記者から規士の普段の評判を聞き、母はさらに頑なになっていく。極力抑制してきた父にも限界が近づいている。そして明らかになる真実。反抗的な態度をとっていても、子供はきちんと親を観察している。愛情を持って接すれば、思いはちゃんと子供に届いている。やる気をなくしていたんじゃない、心配をかけまいとしていただけ。子育て方法は間違っていなかった。両親の気持ちと規士の気持ちが相互に伝わっていたのは、この耐えがたい悲劇の唯一の救いだった。

監督  堤幸彦
出演  堤真一/石田ゆり子/岡田健史/清原果耶/加藤雅也/ 市毛良枝/松田翔太/竜雷太
ナンバー  172
オススメ度  ★★★


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https://nozomi-movie.jp/

82年生まれ、キム・ジヨン

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ずっと疑問に思っていた。なぜ女だけが家事をしなければならないの。男の子を産めと言われ、育児のために仕事をやめなければならないの。でも、それを口にすると非難される。男よりもむしろ年配の女に。。。物語は、妻や母の役割を期待される女の葛藤を描く。子供のころから男が優先されてきた。父がいちばん偉く、次女であるヒロインのランクは弟よりも下。優しい夫は一応理解してくれるけれど、まだまだ伝統的な考えも抜けきらない。いつしか彼女はひとりで世間と闘っている気になり精神状態が不安定になっていく。実母や慕っていた先輩に “憑依” され、心に溜まった澱を吐き出すのだ。そこには長年の慣習に抑圧されてきた女たちの怨念がこもっていて、儒教を道徳の基礎に置く世界の息苦しさを象徴する。

夫の実家に帰省したジヨンは、女は男に尽くすべきと決めつける姑から散々イヤミを言われ気分を害する。それ以降、少女の頃からの、女に生まれて損してきた苦い経験を思い出す。

母親の世代は、女は将来の夢を持つことも許されず、男きょうだいの学費稼ぎのために働いた。母はジヨンに同じ思いをさせまいとするが、父や弟はいまだ家庭内ではふんぞり返り、片付けを手伝おうともしない。大卒の学歴も専業主婦には何の価値もなく、保育園の高学歴ママ友と愚痴を言い合うばかり。会社員時代も重要な案件は男に回され、結果を残しても評価されない。もはやジヨンの眼差しは憎しみすら湛えている。セルフカフェでジヨンに皮肉を言う独身男女にきっちり言い返すシーンは、あらゆる子育て中ママの怨嗟と怒りを代弁していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

男社会に負けず起業した先輩女社長に連絡を取ると、ウチに来ないかと誘われるジヨン。その気になりベビーシッターを探すが見つからず、夫が育休を申し出たにもにもかかわらず、なかなか準備は整わない。女が “自分らしく生きる” ためにクリアしないといけないハードルはいったいいくつあるのか。ギリギリで踏ん張って走り始めた彼女は、すべてのワーキングマザーの希望だ。

監督  キム・ドヨン
出演  チョン・ユミ/コン・ユ/キム・ミギョン/コン・ミンジョン/パク・ソンヨン/キム・ソンチョル
ナンバー  171
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/

泣く子はいねぇが

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幼馴染の美女と結婚した。かわいい赤ちゃんもできた。だが一人前の社会人として自立する覚悟はない。誘われると断れず、酒を飲むと我を忘れて迷惑行為に走ってしまう。物語は、何事も全うできない男が、別れた妻と娘に会うために生まれて初めて必死になってもがく姿を描く。深く考えず引き受けてしまう。押しに弱く後で後悔する。誰かに尻拭いをさせたことは自覚している。そして、そんな精神的弱さに嫌気がさしているのになかなか直せない。カメラは、もういい年なのにいまだに大人になり切れない主人公の日常に寄り添い、彼の苦悩を赤裸々に再現する。狭くて濃い田舎の人間関係、待っていても何も変わらない。家族にはあまり頼れない。結局、自分の居場所は自分で見つけなければならないとこの作品は訴える。

ナマハゲ生中継中に全裸で走り出したたすくは、妻のことねに愛想をつかされ東京でひとり暮らしを始める。ある日、友人の志波からことねがキャバ嬢をしていると聞かされ故郷の男鹿に帰る。

ナマハゲ保存会には大きな借りを作っている。市役所勤務の兄や地元で働く母の立場も悪くした。それ以上にことねを傷つけた事実が心に重くのしかかる。関係各所にきちんと詫びを入れ、ことねや娘ともう一度やり直せないかと期待を抱いて男鹿に帰るが、みなが顔見知りという田舎、地元の人々はそれほど甘くない。一方で、追い詰められているけれど命の危険まではなく、実家にいるので食う寝るところの心配もない。切実なのに切迫感がない、ぬる~い世界で送るぬる~い人生。一応、夜の街でことね探しをして、何もしていないわけではないと己に言い訳するあたり、中途半端なはみ出し者の気持ちがリアルだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ことねとの再会を果たしたたすくだったが、再婚するので二度と会わないと宣告される。未練は、断ち切るどころか募るばかり。清水から飛び降りる決意だったのだろう、たすくは「泣く子はいねぇが」とナマハゲの面をかぶって叫ぶ。それを許すことねのやさしさにわずかな希望を覚えた。

監督  佐藤快磨
出演  仲野太賀/吉岡里帆/寛一郎/山中崇/余貴美子/柳葉敏郎
ナンバー  154
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://nakukohainega.com/