こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

月の満ち欠け

BIGBOX、ロータリー、早稲田松竹etc. 忠実に再現された1980年代高田馬場界隈が懐かしい。よくあの横断歩道で知人とすれ違い声を掛け合った学生時代を思い出す。物語は、妻子を交通事故で亡くした男の元を訪ねてきた写真家が語る体験を描く。写真家は愛する女に先立たれていた。男の娘はその女の生まれ変わりだと仄めかす。確かに写真家の話は、男の家族しか知らない事実が含まれている。そんなあほな、おちょくられているのか? 悲しみに暮れた毎日を送っている男は、にわかに信じがたい展開に戸惑いを禁じえない。大切な思い出を汚された気がする。同時に完全に否定しきれていない自分に余計に腹が立っている。娘の親友からも同じような話を聞かされ、男のいら立ちは沸騰寸前になる。妻を演じた柴咲コウが驚異的に若見えしていた。

学生時時代の恋人・梢と結婚して娘の瑠璃を設けた堅は幸せな人生を送っていた。瑠璃が7歳の時、高熱でうなされた後で彼女の言動に変化が起きる。

どうやら瑠璃はアキラ君を探しているようだ。1人で電車に乗って遠くの中古ビデオ店に行ったりする。瑠璃自身は他人の記憶や感情を受け継いだことを自覚し、その思いをかなえてやろうとしているなど、彼女の中では2つの人格が入れ替わっている。高校生になった瑠璃は別の事情も重なってどうしてもアキラ君を見つけなければならなくなる。このあたり、少しずつ前世の因縁が解きほぐされていく過程はミステリー仕立てで非常に興味深い。名画座のシートが21世紀のものだったのは少し興ざめしたが。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに初代から数えて3代目の瑠璃が登場するにあたって、なんだか安っぽい構成になってくる。そもそも非業の死を遂げた人が生まれ変わるとして、親を選べるのか。もし子供が親を選べるのなら、今流行の「親ガチャ」という言葉はなくなるだろう。もっと言えば初代の瑠璃が自分を死に追いやったDV夫への復讐を誓っていたらこれはもうホラーの範疇、冷静に考えると怖い設定だ。秘蔵ビデオのシーンは思わず涙腺が刺激されたが。。。 

監督     廣木隆一
出演     大泉洋/有村架純/目黒蓮/伊藤沙莉/田中圭/柴咲コウ/菊池日菜子
ナンバー     228
オススメ度     ★★


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https://movies.shochiku.co.jp/tsuki-michikake/

戦慄のリンク

封印されたはずのリレー小説で、登場人物のモデルとなった人々が次々と惨殺される。カギになるのは顔の見えない男と髪の長い女。物語は、ウェブ小説の著者たちが、何者かが勝手に創作した追加章を読むうちに、その小説世界に引き込まれていく過程を描く。悪夢に誘い込むようなメロディが思考を乱す。モニターに映し出された文字が踊り出す。聴覚と視覚をコントロールされた脳はいつしか幻覚を見るようになる。人間の怨念の象徴をあえて長髪白衣の貞子風にした割り切りが、設定のわかりづらさを緩和していた。無限に拡散させるのも可能なネット空間を利用しながらも、狙った相手しか殺さない。その逆転の発想がユニークだった。幽霊が現実世界に存在してはいけないという制約は、いかにも現代の中国的発想だ。

「残星楼」更新の知らせを受けた書き手のタン・ジンは入力した覚えのない最終章を読み始める。小説の中でヒロインが惨殺されると、タン・ジンも同じような傷を負った死体になって発見される。

タン・ジンの従妹・シャオノアは学生記者のマー・ミンの助けを借りて事件の真相を追う。さらに「残星楼」の執筆者の男女3人が変死、加筆された最終章のプログラムに何らかの仕掛けがあると当たりをつける。このあたり、背筋に感じる視線や耳元でささやかれる名前など、Jホラーが得意とする描写がちりばめられ、思わず身震いさせてくれる。肉体を物理的に攻撃してくるのではなく、心の奥に潜む恐怖を直接わしづかみにされるような感覚に息苦しくなった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

4人を自殺と決めつけていた刑事もマー・ミンの仮説を受け入れ、車いすの天才プログラマーを捜査対象にする。そこで明らかにされる衝撃の真実。決してウイルスなどではなく、特定の条件に当てはまる人にだけ効力を発揮する特殊なコードを埋め込んだウェブサイトで当該者の脳を遠隔操作する。個人的な恨みを晴らすために使う分にはホラーの題材になるが、本当に有効性があるのなら、中国政府が率先して自国民の統治に悪用しそうで怖かった。

監督     鶴田法男
出演     フー・モンポー/スン・イハン/シャオ・ハン/チャン・ユンイン/ワン・マンディ/ハン・チウチ/チョウ・ハオドン
ナンバー     188
オススメ度     ★★★


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https://qualite.musashino-k.jp/quali-colle2022/

ブラックアダム

部屋から移動する際に、ドアを使わずいちいち壁をぶち破る。手で顔を防御する素振りすらなく、圧倒的なパワーで見せつける存在感は主人公の断固たる決意を象徴していて非常に小気味よかった。物語は、古代遺跡からよみがえったスーパーヒーローが圧政者と闘う姿を描く。銃弾にも砲弾にもびくともしない。空中に浮かんだまま超音速移動する。通常の軍装備は全く通用しない高硬度の肉体と破壊力を備えた彼が敵を容赦なく殲滅するのが痛快だ。一方で、純粋な内政問題に介入してくる米国系ヒーロー軍団の “余計なお世話” ぶりが目に余る。自分たちの正義を押し付けようとする傲慢な彼らが主人公にぶちのめされるシーンには溜飲が下がった。世界中の紛争地域に派兵する米国の恩着せがましさは「有難迷惑」でしかない現実を見事に皮肉っていた。

魔王の王冠を探すアドリアナによって5000年の眠りから覚めたアダム。襲い掛かる兵士をなぎ倒しアドリアナを救うが特殊弾を受けて失神、彼女のアパートに匿われる。

アダムの覚醒を知った米国ヒーロー4人組はアダムを脅威と判断し逮捕に向かうが、まったく歯が立たない。しかも4人組は、圧政者の手先である軍人の命は救うといった人道主義を示すのに、街を瓦礫の山に変えるなど、現地の民衆にはまったく歓迎されていない。その間、アダムはアドリアナの息子・アモンから指導を受け、「神話の救世主」キャラを確立していく。ヒーローもイメージ戦略を間違えればただの厄介者でしかないことを熟知したアモン。彼の部屋に貼られたポスターがアダムに蹂躙されていく過程は、古い価値観からの脱却を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

王冠を手に入れたサバックは絶大な魔力を手に入れ、4人組を排除する。一度は能力を捨て封印されたアダムも復活し、4人組に加勢する。ここで示されるのは民主主義の敗北。強大なカリスマ的リーダーに導かれた国家こそが、21世紀における国際社会の主流になるとこの作品は訴える。もちろん指導者と指導部には高潔な人格が求められるのだが。

監督     ジャウム・コレット=セラ
出演     ドウェイン・ジョンソン/オルディス・ホッジ/ノア・センティネオ/サラ・シャヒ/マーワン・ケンザリ/クインテッサ・スウィンデル/モー・アマー/ボディ・サボンギ/ピアース・ブロスナン
ナンバー     227
オススメ度     ★★★


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https://wwws.warnerbros.co.jp/blackadam/

あのこと

妊娠してしまった。今は産むわけにはいかない。誰にも相談できない。医者は手術してくれない。どうすればいいのかわからないまま時間だけが過ぎていく。物語は、中絶が禁止されていた時代のフランスで、予期せぬ事態に戸惑い、追い詰められ、苦悩しながらも、あきらめずに解決策を探す女子大生の葛藤を描く。夢をかなえるチャンスを棒に振りたくない。両親と同じ労働者階級で終わるのは絶対にイヤ。もはやおなかの子は足かせ、憎たらしくさえもある。学位は能力を生かす仕事に就くためのパスポート、未来の可能性を広げる万能薬でもある。あくまで自分の事情を優先させようと奔走するヒロインの、女に生まれた不幸を恨む焦燥感。そんな感情が圧倒的なリアリティと臨場感で再現されていた。母性など感じさせない割り切りに彼女の孤独が凝縮されていた。

生理が止まったアンヌは大学での勉強を続けたいと願うが、医師はみな堕胎を拒否する。友人にもBFにも協力を断られ、人づてに教えてもらったもぐりの中絶屋のアパートを訪れる。

未婚の母への偏見は強く、当然学業と子育てが両立できるような支援制度はない。心が落ち着かず講義は耳に入ってこない。成績は急降下で教授に注意される。頼れる人はいない。鏡に映した裸の身体は徐々に変化し、もう隠しきれなくなっている。絶望的な気持ちが広がっていく。それでも、歯を食いしばった運命と闘うアンヌの姿は、女が甘受しなければならないこの世の理不尽に対する怒りに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

下着を脱ぎM時開脚し膣鏡で拡張しゾンデを挿入する。麻酔はなく痛みに耐えなければならない。声をあげてはならないと注意されたが、一度だけ悲鳴を上げてしまう。処置時間はわずか2~3分だろう。だがそのシーンは瞬きを忘れ息をのみ身を乗り出すほどの緊張感にあふれ、己の人生を生きる難しさを暗示していた。そして子宮から下りた胎児とつながったへその緒を断ち切ってトイレに捨てるアンナは、母という役割を振り当てられた性の哀しみを象徴していた。

監督     オドレイ・ディワン
出演     アナマリア・バルトロメイ/ケイシー・モッテ・クライン/ ルアナ・バイラミ/ルイーズ・オリー=ディケロ/サンドリーヌ・ボネール
ナンバー     226
オススメ度     ★★★★


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https://gaga.ne.jp/anokoto/

散歩時間 その日を待ちながら

楽しいはずの新婚生活なのに、早くも溝ができている。修復しようと妻に気を遣う夫。本音で話さない夫にいら立ちを募らせる妻。物語は、結婚式を挙げられなかった夫婦のためのパーティに集まった友人たちが、ずっと抱えてきた現状への不満と未来への不安を吐き出すうちに希望を見出していく過程を描く。コロナ禍であらゆる行動が制限されている。それでもささやかなお祝いはうれしい。なのに些細なことで妻は不機嫌になる。夫は彼女に向き合わず無難な対応でやり過ごそうとしている。そんな夫婦の関係を友人たちは見抜いている。酒の勢いで指摘してさらに気まずくなったりする。平凡な人生を平凡に生きる、夫婦や友人、家族といった身近な人間関係を維持するにもお互いに努力が必要と、彼らの会話は訴える。

真紀子の家に集合した亮介・ゆかり夫婦と、稲田、圭吾の5人は飲み始める。夫婦の仲が微妙に険悪なのを他の3人は感じるが口に出せない。そんな時、稲田が電話で自分の妻と口論を始める。

亮介のバイト仲間だった3人に対し人見知りするゆかりを置いてコンビニに逃げる亮介。真紀子は気を遣って話しかけたりするが、稲田と圭吾はゆかりと共通の話題がない。さらにゆかりは聞いていなかった亮介の秘密を3人が知っていることにショックを受ける。恋人だった時はお互いのいい面しか見ていないのに一緒に暮らし始めると欠点ばかりが目に付く。結婚生活の理想と現実のギャップ、さらに世の中の停滞。感染者数の増減に一喜一憂し、やり場のない怒りやあきらめを心に溜め、それでも明日を信じようと懸命になっていたあの時期の空気がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

他にも、オーディションに向けて練習する配達員や妻子と離れて暮らすタクシー運転手、しし座流星群を観測しようとする中学生男女など、コロナ禍ゆえの事情を抱えた人々が人生に様々な疑問を持ちながら同じ空の下で同じ時間を過ごしている。こんなご時世、肩肘張って頑張るより力を抜いてみるのも大切だとこの作品は教えてくれる。

監督     戸田彬弘
出演     前原滉/大友花恋/柳ゆり/中島歩/篠田諒/めがね/ 山時聡真/川村鈴/アベラヒデノブ片岡つむりアベラヒデノブ/高橋努
ナンバー     189
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://usaginoie.jp/theater/?id=sanpojikan

メイヘムガールズ

人生で一番輝いていなければならない時期なのに、マスク生活を強いられている。楽しみにしていた学園イベントは全部キャンセル、フラストレーションばかりがたまっていく。物語は、コロナ時代に生きる女子高生4人が突然超能力を手に入れ、倫理や正義感と葛藤する姿を描く。授業は退屈。クラスメートとの関係はぎこちない。先生は高圧的。両親は無理解。そんな状況で身についた不思議な力に、最初は戸惑い、徐々に慣れ、やがて使いこなしていく術を学んでいく過程は英雄譚にも似てテンポがいい。だが彼女たちを導く賢者はおらず、暴走を止められない。その動機が格差社会や環境汚染への抗議とかいじめっ子への仕返しという手垢のついたものではなく、ボーイフレンドの借金返済というのが、思慮の浅いイマドキのJKらしい。

クラス内のトラブルで念動能力を使った瑞穂はテレパシーを持つ環に声を掛けられる。そこに瞬間移動のあかねとプログラム改変力を持つケイが合流、4人は能力の使い方の研鑽に励む。

能力のことは隠しておかなければ大変なことになるのはわかっている。でもせっかく授けられたのだから何かに役立てたい。配達員として苦境をしのぐBF・祐介のために、はじめのうちは超速移動能力を使って配達を手伝う瑞穂だったが、手っ取り早く銀行強盗で彼の金銭的問題を解決しようとする。その意思決定の理由が “少年法に守られている” というのはあまりにも安易にすぎないか? 「選ばれし者」と自覚して世界を救うという大それた行動はしなくてもいいが、この程度のことにしか能力の用途が見つからない彼女たちの意識の低さは、凋落著しい21世紀日本のどっぷりとぬるま湯に浸かった若者を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

1度だけと約束したのに、その後も銀行強盗を続ける瑞穂を阻止しようとする他の3人。東京上空で繰り広げられるバトル映像は20年前のクオリティだった。特殊効果に走らなくてもいい、彼女たちの恋や友情に寄り添い喜怒哀楽を再現するなど、共感できる設定がもっとほしかった。

監督     藤田真一
出演     吉田美月喜/井頭愛海/神谷天音/菊地姫奈/木戸大聖/生稲晃子/大浦龍宇一/カンニング竹山
ナンバー     224
オススメ度     ★★


↓公式サイト↓
http://mayhemgirls.jp/

グリーン・ナイト

王位を簒奪しよう、などという野望はない。人生の目的がわからず葛藤している、わけでもない。運命に選ばれ世界を救う発想など毛頭ない。ただ淫蕩にふけりその日を楽しみたいだけ。物語は、魔力を持つ騎士の挑戦を受けた若者が騎士との約束を果たす過程を描く。一人前の騎士になるための通過儀礼といえるのかもしれないが、苦難を共にする仲間も貴重なアドバイスをくれる賢者も登場しない。中世初期のイングランド、冬の空は陰鬱で光に乏しく、室内は蝋燭と松明の灯りしかない。それらは当時の環境をリアルに再現しているのかもしれないが、打ち捨てられた骸骨が象徴する「死」以外、ちりばめられたメタファーの意味はよく理解できず、ひたすら退屈で魅力のない主人公の冒険に付き合わされる。五感に訴えるような躍動感が決定的に不足していた。

御前会議に闖入してきた緑の騎士の首を刎ねたガウェインは、一年後のクリスマスに騎士の礼拝堂を訪ねる旅に出る。それは魔女でもあるガウェインの母の差し金だった。

森の中で追いはぎにあったガウェインは馬と緑の騎士から預かった大斧を奪われる。疲れ果て小屋で眠っていると女の幽霊が現れ、彼女の願いをかなえてやる。その後も、立派な城に客人としてもてなされ、主人夫婦の誘惑と闘ったりする。そのあたりの映像もクリエイティビティに欠け、想像力を掻き立ててくれることはない。ハラハラするようなスリルもドキドキする恋もなく、低調な展開がだらだらと続くばかりだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてガウェインは緑の騎士が待つ礼拝堂にたどり着く。約束を果たすためにガウェインは騎士に首を差し出すが、直前になってやめると逃げ腰になる。思い直して覚悟を決め、騎士が剣を振り上げたら、またやっぱりやめると情けない態度を取る。一応、旅の苦難を乗り越えてきたはずなのにまったく成長していないガウェイン。ちょっとばかり危険な目にあったくらいでは命がけの勇気が身につかないのは当然で、そのあたりはガウェインの心の弱さにむしろ共感すべきだったのか?

監督     デビッド・ロウリー
出演     デブ・パテル/アリシア・ビカンダー/ジョエル・エドガートン/サリタ・チョウドリー/ケイト・ディッキー/バリー・コーガン/ラルフ・アイネソン/ショーン・ハリス
ナンバー     223
オススメ度     ★★


↓公式サイト↓
https://transformer.co.jp/m/greenknight/