こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

草の響き

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都会での激務に疲れ果て、心を病んで故郷に戻った夫。夫を支えるために見知らぬ土地までついてきた妻。夫は己の体調しか頭にない。妻は心配しながらもうんざりし始めている。物語は、そんな若い夫婦間に起きる些細な感情の齟齬を描く。夫は、狂ったように走るのは狂わないためという。妻は、夫の回復を喜んではいるものの、自分に対して気遣いを見せない彼に不満を募らせていく。毎日外に出る夫は地元の若者と知り合ったりもするが、妻の寂しさを癒してくれるのはペットの犬しかいない。外見は健康なのにちょっとしたきっかけでネガティブ思考に支配され錯乱するかもしれない男を、東出昌大が繊細に演じる。そして、小さな町で人間関係を築けない東京出身の妻が抱えるストレスを、奈緒がリアルに再現していた。

自律神経失調症と診断されるが、服薬と日々欠かさずのランニングで心身ともに回復させていく和雄。ランニングルートの駐車場でスケボーの練習をする高校生、彰と弘斗と知り合う。

会社を辞めて職を探すが、食堂の洗い場くらいしか働き口はない。それでも人とかかわらずに済む分、和雄の心理的負担は軽く笑顔も戻っていく。妻の純子は、元気になったのなら少しは家事の手伝いや妊婦に対する優しさを見せてほしいと思っているが、また和雄が不調になるのを恐れなかなか口に出せない。表面だってケンカしているわけではない。友人が訪ねてくると仲のいい夫婦に見えるよう振舞ってはいる。それでも本心では埋めがたい隙間が生じているのを感じている。そのあたり、純子のおなかが膨らむにつれ家の中の空気が少しずつ刺々しくなる過程が息苦しいほどの緊迫感を醸し出していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

高校を中退するという弘斗に対し、彰はバスケ部員とのトラブルを黙っている。お互いたったひとりの友人なのに、本心までは話せず不器用な距離感を縮められない。和雄と純子、彰と弘斗。彼らの人間関係は、どれほど一緒の時間を過ごそうとも所詮は他人、愛や友情など絵空事に過ぎないと教えてくれる。
監督     斎藤久志
出演     東出昌大/奈緒/大東駿介/Kaya/林裕太/三根有葵/室井滋
ナンバー     185
オススメ度     ★★*


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神在月のこども

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いつも一緒に走ってくれたやさしいお母さん。でも、目の前で突然倒れそのまま逝ってしまった。物語は、神の御馳走を集め奉納する役目に選ばれた少女の旅と成長を描く。お母さんの形見の勾玉を身に着けたとたんに世界が一変した。見えなかったものが見え、聞こえなかった声が聞こえるようになる。時間が止まったかのように感じるのに、自分の肉体は普通に動く。不思議な能力を手に入れた彼女は、ライバルに叱咤され仲間に激励されながら目的地を目指す。その間、変わらないのは母への思い。言えなかった謝罪や伝えられなかった感謝、神様ならきっと願いをかなえてくれると信じて進み続ける。映画は小学生向きでややこしい内容ではない。他者への思いやりとあきらめない強い心があれば未来は明るいとストレートに訴える。

先祖代々韋駄天の血を引くカンナは今年の大役を任される。白うさぎと夜叉を従え、東京からの道中、さまざまな神社に立ち寄って地元の神々から貢物を預かり、出雲で開催される祭りへと急ぐ。

雨粒が空中で静止し、動いていた人やクルマや動物まで固まっている。その空間で普段通りにふるまえるのはカンナと神と神にかかわる生き物だけ。だが究極の自由を味わう間もなく、カンナは800キロの道のりを自力で乗り越えなければならない。途中、夜叉が何度もちょっかいを出してくる。気難しい神をなだめたりもする。白うさぎはアドバイスしてくれるだけ。その過程でカンナは、自分で決断し行動し結果に責任を持つということを学んでいく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、画のクオリティには逆の意味で目を見張った。カンナが走るシーンは明らかに体格と歩幅があっておらず、背景も20世紀のアニメを見ているようなシンプルな出来栄え。龍神がカンナを前に話すシーンなど、下あごとヒゲしか動いておらず、もはやこれでは手抜きと呼んで差し支えない。新海誠細田守などの、画とサウンドに細部まで徹底的にこだわった作品ならば映画館で見る価値はあるが、この作品はTVの地上波鑑賞で十分だろう。

監督     四戸俊成
出演     蒔田彩珠/坂本真綾/入野自由/柴咲コウ/井浦新
ナンバー     184
オススメ度     ★★


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プリズナーズ・オブ・ゴーストランド

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追跡するために与えられたスポーツカーをあっさり乗り捨て、道端に止めてあったママチャリにまたがる男。大きな体に合わない車体、背中を丸めてぎこちなくペダルを踏む姿は滑稽かつシュールで、何か新しい体験をさせてくれるのではと期待させる。物語は、獄中の元銀行強盗犯が街の支配者の情婦を奪還する過程を描く。淫靡かつサイケデリックな色彩に満ちた遊郭から、文明が後退した廃墟の街までたどり着かなければならない。道中、残忍な力を持つ山賊の縄張りを越えなければならない。情婦を見つけるまで3日、連れ戻すまで5日の猶予しかない。さらに爆弾付きスーツを着せられ、逃亡や命令違反は許されない。ところが、主人公を取り巻く世界観は凡庸でディテールも安っぽい。全体的に作りこみが甘く、ため息しか出てこなかった。

サムライシティのガバナーからバニース探しを命じられたヒーロー。ほどなく事故にあい、怪しげな男たちがリヤカーでゴーストシティまで届ける。そこは時間を無理やり止めている街だった。

爆撃にさらされたかのような崩壊した建物。街の中心部に立つ時計台の時刻が進まないように、男たちはロープで秒針を引っ張っている。人々の身なりは貧相で、生産的活動はなされていない。硬質な薄板で全身をマネキン状に加工された人間の中で、ヒーローはバニースを見つける。だが彼女は声が出ず、ガバナーが仕掛けた生存確認装置が作動しない。やがてヒーローはゴーストシティの住民こそがガバナーの圧政から解放されるべきと知る。その際、原発問題などを強引に絡めているがそこに必然性はない。争いの原因となるものを明示していれば違った印象になったはずだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

バニースを無事保護してサムライシティに戻ったヒーローだが、爆弾スーツの解除鍵を渡してもらえずやむを得ず抗争となる。刀剣から拳銃、果てはガトリング銃まで使っての大殺陣が繰り広げられるが、ここでも凡庸なアクションに終始する。結局、最後まで演じる側の熱量が客席まで伝わってこなかった。

監督     園子温
出演     ニコラス・ケイジ/ソフィア・ブテラ/ビル・モーズリー/ニック・カサベテス/TAK∴/中屋柚香/渡辺哲
ナンバー     182
オススメ度     ★★


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ディナー・イン・アメリカ

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誰に対しても不貞腐れた態度で下品な言葉を口にする男は、危険な香りを漂わせ、ある種の女にはモテる。少し頭の回転の鈍い女はいつも周囲からバカにされ、パンクバンドの絶叫に体をくねらせてはストレスを発散させている。物語は、そんなふたりが出会い行動を共にするうちに、真実にたどり着くまでを描く。世間の「普通」から大きくはみ出してしまった。自己チュー過ぎて仲間とも喧嘩別れ。行く当てのない男は職を失ったばかりの女の家に転がり込むが、そこでも白い目で見られる。平和な郊外の町、両親と子供たちという典型的な中流家庭の一軒家では、彼は異端者でしかない。一方で女も、どこにいても居心地が悪かった。彼と過ごした時間を「人生で最高の1日」と喜ぶ彼女の笑顔が、さえない人生を象徴していた。

治験施設で知り合った女の家に放火して逃亡中のサイモンは、ペットショップをクビになったばかりのパティの家に匿ってもらう。パティが自分のファンだと知ったサイモンは彼女に特別な感情を覚える。

刺々しいサイモンに周囲の人々は不快感を隠さない。それでも許容してくれる人にだけ心を開くサイモン。ところが、パティの弟にマリファナを勧めて仲良くなるなるなど、駆け引きもうまい。大人は信じないが自分より年下には理解を示す。そのあたり、わがままなアホとしか思えなかったサイモンが少しずつ魅力的に見えてくる。小道具やファッションから時代設定は1990年頃前後ろう、とんがった生き方をする若者がすっかり少数派になってしまった21世紀には、まだ自由を叫んでいられる彼らが非常に魅力的に映った。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

不器用なパティの背中を押し、今まで彼女をいじめてきた連中への仕返しの手助けをするサイモン。さえない日常が急に輝き始めたパティは、何度もサイモンに「これはデート?」問う。言葉を濁していたサイモンもいつしかパティといるのが楽しくなる。お互い、相手に必要とされているのが分かっていて期待に応えようとする。その信頼こそが愛だとこの作品は教えてくれる。

監督     アダム・レーマイヤー
出演     エミリー・スケッグズ/カイル・ガルナー/グリフィン・グラック/パット・ヒーリー
ナンバー     183
オススメ度     ★★★*


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https://hark3.com/dinner/

PITY ある不幸な男

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大きな声を上げて泣く男。悲しみは深く、肩からは絶望が漂っている。誰もが彼を不憫に思い、心配し、親切にしてくれる。物語は、昏睡状態の妻を持つ弁護士の奇妙な日常を追う。仕事中も妻の容態が気になって仕方がない。先立たれた後のことを考えると頭が真っ白になる。そんな彼を見かねて、階下の主婦は毎朝ケーキを差し入れてくれる。クリーニング店では値引きしてくれる。友人は愚痴を聞いてくれる。秘書はやさしくハグしてくれる。いつしか彼は、“悲劇の夫” であることで享受している周囲の人々の心遣いと親切を当然の権利だと思い始める。泣き声を上げていないとき以外はいつも仏頂面、だが音楽で歓喜を代弁させているところを見ると情動はあるのだろう。いい年したオッサンの異常な「かまってちゃん」ぶりは、非常にユニークだった。

息子と2人で朝食を食べたのち出勤、仕事をこなして妻の見舞いに行き、友人と遊び、老父を訪ね、クリーニング店に行くというルーティンを繰り返す弁護士。ある日、妻が目を覚ましたと連絡が入る。

朝、喪失感からの号泣で始まる1日は、本来避けるべき非日常のはずなのに、いつしか彼にとってはなくてはならないものになっている。ところが、妻が健康を取り戻し近親者が祝福してくれると違和感を覚え始める。もう悲しまなくてもいいのに、余計な心配もしなくていいのに、関心が自分から遠ざかるのが我慢ならない。家族の問題も解決したのに、知人の興味が薄れていくと彼の苦悩は以前より深いものとなっている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

職業柄、社会的地位も高いのに、何故それほどまでに同情を引きたいのか。彼にはどんなトラウマがあるのか。妻の事故以来生まれた欲望なのか。階下の主婦にオレンジケーキを要求する目つきはすでに正気を失っている。嘘がばれたクリーニング店主に対しても開き直っている。そして妄想は飛躍し、さらなる悲劇へと暴走する。感情と理性のボタンをどこで掛け違えたのだろう。真面目な人間ほど狂気の反動は大きいとこの作品は教えてくれる。

監督     バビス・マクリディス
出演     ヤニス・ドラコプロス/エビ・サウリドウ/マキス・パパディミトリウ
ナンバー     181
オススメ度     ★★★


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https://pity.jp/

キャッシュトラック

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平凡な男のはずなのに、ひとりで強盗団全員を倒してしまった。別の武装強盗団は、彼の素顔を見せた途端に尻尾を巻いて逃げ出してしまった。彼はいったい何者なのか、何が目的なのか。物語は、現金輸送専門の警備会社に加わった警備員の復讐を描く。不愛想で眼光鋭く感情を見せない。行動に無駄がなく特別な訓練を受けていることをうかがわせる。身の上話は一切しない。銃を向けてくる者に対しては躊躇なく弾丸をぶち込むのに、家族への愛は誰よりも強い。一度決めたことは何があってもやり通す鋼鉄の意志。謎だらけの過去が少しずつ語られていくなかで、彼の本当の目的が明らかになっていく過程は驚きの連続だ。そんな主人公はまさしくジェイソン・ステイサムのために創造されたキャラクター、期待通りに活躍するが予想を裏切る展開に、思わず息をのむ。

入社試験をぎりぎりでパスしたHだったが、現金輸送車が襲われると圧倒的な戦闘能力を見せる。彼はFBIの捜査対象になっている一方で、左目の上に傷のある男とその組織を探していた。

他人のカネより命の方が大切とばかりに、強盗団に包囲されるとすぐに同僚は逃げ出す。それを尻目に、Hは表情一つ変えずに襲撃してくる強盗を処刑していく。自分に歯向かう者は絶対に許さない、いや生かしてはおかないという固い決意。実戦経験豊富なアフガン帰りの強盗団を相手にしても一切ひるまずにひとりまたひとりと血祭りにあげる。次々と繰り広げられる銃撃戦はスリリングかつエキサイティングで、銃器の扱いに長けた男たちの洗練された所作がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて警備会社に集められる大金を狙った計画が実行に移される。裏切り者がいる。探し続けていた仇がいる。真実を知るためにHは一つ間違えれば殺される状況に飛び込み、逆転のチャンスをうかがう。ギャングよりも狡猾でスパイよりも偽装がうまく傭兵よりもスキルは高い。決して善人ではない、なのに神が宿っている。矛盾しているのに納得してしまう、Hは21世紀の新たなヒーロー像を提示していた。

監督     ガイ・リッチー
出演     ジェイソン・ステイサム/ホルト・マッキャラニー /ジェフリー・ドノバン/ジョシュ・ハートネット/スコット・イーストウッド/ナニアム・アルガー
ナンバー     180
オススメ度     ★★★★


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https://cashtruck-movie.jp/

サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ

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くぐもった雑音を感じるだけ。人の言葉は判別できない。静寂とはいいがたい、不快なノイズの世界。物語は、突発性難聴に陥ったドラマーの再生を描く。まだ大丈夫だと自らに言い聞かせてスティックを握る。自分の思いは声にできても、文字に起こしてもらわなければ相手の意図はわからない。失った聴覚は戻らない。手術すれば “聞こえる” ようにはなるが莫大な費用が掛かる。恋人とふたりキャンピングカーでの全米ツアーの途中、そんな現実を受け入れられず夢にしがみつく主人公の、怒りと焦燥、不安と絶望がリアルに再現されていた。「音」は振動、それを感知するのは耳だけではない。すべり台を手で叩いてリズムを伝える。ピアノの屋根に手を置いて演奏に触れる。音の輪郭はつかめても細部はわからないからこそ、想像力が必要とこの作品は訴える。

難聴者のコミュニティを訪問したルーベンは、一旦ボーカルのルーと別れて共同生活を始める。リーダーのジョーが面倒を見てくれるが、ルーベンはなかなか素直に従えない。

ルーベンが暮らす宿舎だけでなく、コミュニティには小学校まである。外部との連絡は禁止されているが、慣れるにつれルーベンは手話を覚え始める。難聴者だけが集まって食事するシーンでは、誰も食器が立てる音や咀嚼音を気にしない。聞こえないから当然なのだが、マナーを気にして上品に食べるよりもはるかにおいしそうだった。一方で、ルーの動向が気になってこっそりネット検索するルーベン。意心地はいいがこのままここで埋もれてしまっていいのかという疑問に苛まれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

補聴器を耳の後ろに埋め込んだルーベン。だが以前とは違い、頭にこだまするような高音が常に混じり、心穏やかではいられない。望んだものとは違う、もう未来には音楽もルーの存在もない。確かに踏ん切りをつけるのには勇気がいる。だが前に進むのが無理だとはっきりとわかったときは、一度立ち止まる。そして心を整理すれば新たな道が見えてくると、ルーベンの吹っ切れた表情が教えてくれる。

監督     ダリウス・マーダー
出演     リズ・アーメッド/オリビア・クック/ポール・レイシー/ローレン・リドロフ/マチュー・アマルリック
ナンバー     179
オススメ度     ★★★★


↓公式サイト↓
https://www.culture-ville.jp/soundofmetal