こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サンドラの小さな家

f:id:otello:20210409165429j:plain

暴力をふるう夫にはもう耐えられない。2人の娘を連れて家を出た彼女は住むところをなくして福祉の世話になるが、あてがわれたのはホテルの小さな一室。物語は、不安定な仕事に就くシングルマザーが、娘たちと一緒に暮らすための家を自分で建てようと奮闘する姿を描く。設計図や費用の算出はネットや図書館で独学。土地の提供者も現れた。あとは実行に移すだけ、と意気込んで資材を買いに行くが、細かいことは何もわからないと気付く。書類の提出も必須、何より人手がまったく足りていない。それでも彼女は伝手を頼りに少しずつ協力者を増やしていく。リアルな人間関係が希薄な現代、他人に必要とされることで自分の存在価値を再確認する、承認欲求の強い人々が進んで手を貸すのだ。住む家がないなら立ててしまえというヒロインの飛躍した発想に驚いた。

老人介護とパブの雑用をしながら子育てしているサンドラは、介護するべスから裏庭に家の建築許可をもらう。予算は35,000ユーロ、週末だけの作業だが、意外にもボランティアが数人集まる。

週に一度は夫に娘たちを預ける条件でサンドラに親権が認められている。夫は謝罪の言葉を口にして復縁を迫るが、サンドラにその気はない。さらに、次女のモリーが夫を恐れていると面会をキャンセルする。母親として必死で頑張っているけれど、経済的にもひっ迫し、夫との約束も守れないサンドラに対し、法は厳しい判断を下す。彼女の希望となっているはずの家づくりも、問題山積で全然楽しそうではない。このあたり、仲間と力を合わせて何かを成し遂げる達成感とは無縁な映像は、甘くない現実を前面に押し出して貧困層の実態をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後サンドラの願いはかない、新たな人生に踏み出す。ところがツキに見放されたサンドラには、絵に描いたようなハッピーエンドなど訪れない。“殴られる母を見て育った息子” が、結婚するとDV夫になる。そんな義母の言葉は、家庭内暴力の連鎖を断ち切るためには戦う勇気が必要だと教えてくれる。

監督  フィリダ・ロイド
出演  クレア・ダン/ハリエット・ウォルター/コンリース・ヒル/イアン・ロイド・アンダーソン/ルビー・ローズ・オハラ/モリー・マッキャン
ナンバー  61
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://longride.jp/herself/

トゥルーノース

f:id:otello:20210408095957j:plain

深夜押し入ってきた保衛局員に連行された先はこの世の地獄。過酷な強制労働でやせこけた人々はわずかな食料を奪い合っている。あてがわれた粗末な小屋は家族3人で暮らすには狭すぎる。文句を言えば制裁が待っている。物語は、北朝鮮の労働キャンプに収容された少年の苦難を描く。体の弱い者、心の弱い者はすぐに死んでしまう。理不尽な理由で処刑される者もいる。収容所長は生殺与奪の権を握る絶対的な存在、高圧的な看守たちにも服従を強いられる。使い捨ての奴隷のような扱いを受け、いつ釈放されるかわからない。それでも生き抜こうとする主人公一家。CGを使った精緻なアニメが主流の中、あえて初期のCGのようなカクカクした動きに違和感を覚えたが、やがて洗練されていないからこそ目を背けたくなるような悲惨なエピソードが中和されていることに気づく。

ピョンヤンで暮らしていたヨハンは、母と妹と共に政治犯強制収容所に送られる。母は希望を持ち続け妹のヒミは優しさを失わず日々過ごしてきたが、ヨハンは厳しい現実に少しずつ人間らしい心をなくしていく。

木の実や葉っぱ、草や小動物まで口にして飢えをしのぐ収容者たち。密告が奨励され告発された者には拷問が待っている。時々風船が運んでくる南からの支援物資はめったにないごちそう、だが雑誌やDVDは看守に献上する。そんな環境でも他人を思いやる母やヒミとは反対に自分を優先させるヨハン。人間としての価値が試される場面でも憎むべき相手を許す母の姿は、たとえ死んでも気高い理想は必ず誰かに受け継がれると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、収容者の間で練られた脱獄計画に参加するヨハン。太陽節の祝日に混乱を起こして実行に移し、母の遺志をまっとうする。その際、収容者に対し容赦なく接していた監視班長にも良心が残っていたことはわずかな救いだった。ただ、あのオチでは、ヒミがいないところでヨハンが経験したことはすべて伝聞と想像になってしまう。あえて観客をミスリードする必要はなかったのではないだろうか。

監督  清水ハン栄治
出演  ジョエル・サットン/マイケル・ササキ/ブランディン・ステニス/エミリー・ヘレス
ナンバー  54
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
https://www.true-north.jp/

劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班

f:id:otello:20210407100919j:plain

過去とつながる1台の無線機、スピーカーからは現在起きている事件の発端ともいえる未解決事件を捜査していた刑事の声が聞こえる。腐りきった今を変えるために過去に手を加えること選んだ現在の刑事は、過去にいる刑事に指示を出す。物語は、要人暗殺事件の捜査に関連する未解決事件を発掘した刑事たちが、その未解決事件を未然に防ぐことで連続した時の流れを断ち切ろうとする姿を描く。幾重にも張り巡らされた秘密と嘘。それを暴くための壮大な陰謀。立ちはだかる官僚組織の壁。そして過去と現在をつなぐ細い糸。連続するアクションはスリリング、一枚ずつ皮をむくようにテロリストの謎を解き明かしていく過程はミステリアス。2台のバイクに追い詰められた主人公が一瞬の機転で危機を乗り越えるシーンは手に汗を握った。

政府高官が毒ガスで暗殺される。犯行に使われた毒ガスが2009年にも使われた形跡があることを知った三枝は、大山と連絡を取る。大山は2009年の事件を担当していたが、もみ消されていた。

要人を乗せるようなハイヤーなら踏み違い防止などの安全装備を備えているはずだが、ハイヤーはなぜか暴走し高速道路から交差点に転落する。狙いは要人のはずなのに、運転手まで殺してさらに一般市民まで巻き添えになる可能性がある暗殺の仕方はとても理解できない。実際、2009年の事件では同じ手口で多数の死傷者が出ているなど、これでは無差別テロと同じ。毒ガスを使うなら金正男暗殺のように、ターゲット以外に被害者を出さないのが最小限の配慮ではないか。犯人の目的が復讐なのはわかる。だが私怨を晴らすために無関係な犠牲者を出すのはまったく共感も同情もできなかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

犯人は意外な人物で、三枝は犯人が雇った殺し屋たちをひとりずつ倒して大規模テロを阻止しようとする。もういくら声明を出してもむなしく響くばかり、警察庁のキャリア組がこの程度の見識で務まるのかと開いた口がふさがらない。タイムパラドックスを忘れさせるディテールを作りこんでほしかった。

監督  橋本一
出演  坂口健太郎/北村一輝/吉瀬美智子/木村祐一/池田鉄洋/青野楓/杉本哲太/奈緒/田中哲司/鹿賀丈史/伊原剛志
ナンバー  59
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://signal-movie2021.jp/

ゾッキ

f:id:otello:20210406092807j:plain

あてのない旅に出た男は漁港で伝言を頼まれる。やっと親友ができた高校生は嘘をつき通さなければならない。深夜の高校に盗みに入った父に付き合った少年は恐怖の体験をする。レンタルDVD店で働く若者は世界とのつながりを知る。映画は、小さな町に住む普通の人々のありふれた日常に潜む秘密と嘘、そして不可解な出来事を探り、人間の本質に迫ろうとする。誰もがたくさんの秘密を抱えて生きている。秘密がすべてなくなってしまうと死んでしまう。ここでは秘密こそが人生のモチベーションなのだ。ところが順不同に構成されたバラバラなエピソードは何らかのつながりがあるわけでもなく、訳ありげに張られた伏線も回収される見込みはない。かといって笑いを作りこんでいるわけでもなく脱力系のユルさもない。ただただ退屈な作品だった。

寝袋だけを荷台に括り付け自転車の旅に出た藤村は、隣町の漁港でおっさんに声をかけられおっさんの誕生日パーティに飛び入り参加する。そこに刑務所出所したばかりの男が顔を出す。

唯一、高校生同士の友情と信頼が生んだ奇妙な運命を描いた牧田と伴のエピソードが興味を持てた。変わり者の伴は会ったこともない牧田の姉に恋し執拗に牧田に付きまとうのだが、実は牧田に姉はいない。伴を失望させないために牧田は様々な嘘をつくが、その嘘が伴を幸せにする。牧田は結局自らの嘘に縛り続けられるのだが、彼もまたそのおかげで貴重な出会いをする。ディテールはまったくリアリティを無視しているが、一途な伴と必死な牧田の思惑が複雑に交差する展開は少しだけ笑えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その他のエピソードにも教訓やオチがあるわけでもなく、冗漫なシーンが繰り返されるばかり。校舎に現れる白塗りの幽霊をマネキンで代用するなど、もはや素人レベルだ。サンドバッグを吊るすのに物干しざお台では強度が足りないことくらいボクシング経験者ならわかるだろう。漫画で読むときは気にならないのかもしれないが、映像化するのならもっと脚本の段階で細部を検討してほしかった。

監督  竹中直人/山田孝之/齊藤工
出演  吉岡里帆/鈴木福/満島真之介/柳ゆり菜/ピエール瀧/森優作/九条ジョー/木竜麻生/竹原ピストル/潤浩/石坂浩二/松田龍平/國村隼
ナンバー  58
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://zokki.jp/

Eggs 選ばれたい私たち

f:id:otello:20201117123657j:plain

ハワイやマレーシアに行って処置を受けたら後はのんびりとバカンスを満喫できる。費用は相手持ち、謝礼ももらえるうまい話。だが、本心では出産から距離を置いた自分でも血のつながった子孫を残したいと思っている。物語は、卵子提供者に応募した女たちの葛藤を追う。結婚に興味を持てないOLは代わり映えのしない日常を変えたい。恋人にフラれたばかりのレズビアン女は自意識過剰。同居を始めた2人はお互いに心の壁を低くしようとはせず、息苦しい思いを抱えたまま狭い部屋で寝食を共にする。卵子提供者になるためにはさまざまな条件をクリアしなければならないが、応募者にできることはない。それでも、選ばれようと前向きになる彼女たちに、夢を持って生きられない現代社会の閉塞感が凝縮されていた。

卵子提供者面接会場で再会したいとこ同士の純子と葵。行く当てのない葵は純子の部屋に転がり込む。純子はレズビアンの葵に警戒心を隠せないが、それ以上に葵のだらしなさが不満だった。

プリンを勝手に食べる。トイレの照明を消さない。一応社会人としてきちんと生活している純子は、葵の「選民意識」が鼻につく。そんな変化も純子にはいい刺激なのか会社の同僚に肌がきれいになったと言われたりする。だが、居候なのにナプキン代30円を請求する図々しさにはあきれ返る。ところが葵への不快さを少しでも態度に出すと彼女は敏感に嗅ぎつけ、「やっぱり差別している」と無敵の言葉で純子を黙らせる。“レズビアンは特別な存在” と優越感に浸り、指摘されると被害者ぶる。レズビアンがなぜ白眼視されるのか、女性監督ならではの視点が新鮮だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

便器に広がるどろりとした経血。ナプキンを張り付けた下着。頭痛や腹痛といった不快感。女である以上、まだしばらくはその面倒くささから逃れられない。一生の間に生理用品にかかるコストを葵は計算する。その総計が高いか安いかは別にして、生理について男がきちんと理解することがジェンダーギャップ解消の第一歩であると感じた。

監督  川崎僚
出演  寺坂光恵/川合空/三坂知絵子/新津ちせ
ナンバー  57
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://www.eggs-movie.com/

きまじめ楽隊のぼんやり戦争

f:id:otello:20210402111833j:plain

住宅街を練り歩く楽隊の音楽で目覚め、8時過ぎには家を出て出勤、9時から始まる戦闘に備える。5時になると兵舎に戻り、煮物を買って帰り夕食のおかずにする。まるで判を押したような規則正しい生活、でもこれは戦時下という非常事態の日常なのだ。物語は、兵士として川岸の前線で対岸の敵を攻撃する仕事に就いた男の葛藤を描く。情報はほとんど与えられず、何をするにも非効率な手順が必要とされる。上司の命令には従順でなければならない。一番大切なのは、自分の頭で考えないこと。プログラムされたロボットのような規律正しい行動が求められる。人々の表情からは喜怒哀楽は欠落し、もはやその意味さえ忘れているよう。食堂のおばちゃんが喪失感に打ちひしがれるシーンに、わずかに人間的な感情が感じられた。

毎日自宅から戦場に通う兵士の露木は、1日130発発砲するノルマを守り続けている。ある日、泥棒の三木が同じ隊に配属になるが、三木は何かと質問し、社会に対する疑問を投げかける。

兵舎の受付の女、煮物屋のおっさん、町長、楽隊長etc. 登場人物のほとんどは前例踏襲と現状維持を最優先させる。特に受付の女が傷痍軍人と延々と繰りひろげる押し問答は旧社会主義国官僚主義を見ているよう。思考停止に陥った人間の思考回路をカリカチュアライズし、さらに自分の職を奪いそうな相手には攻撃的になる。人生を管理されているような制度だからこそ変化を嫌う、そんな人間の自己防衛本能はまだ残っているあたり、完全には洗脳されていない。それはわずかな希望だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

キャラクターの造形をはじめセリフの話し方や歩き方まで完全にコントロールされた映像は「1984年」を想起させ、その作りこまれた世界観は全体主義・強権国家の恐ろしさを象徴していた。ただ、それを寓話的に表現しようとする試みは、この映画自らが作った枠組みから決してはみ出さず、単調な展開は冗長さを禁じえなかった。まあ、そうやって人間の自由な心を定型にはめ込むのが全体主義国家の狙いなのだが。

監督  池田暁
出演  前原滉/今野浩喜/中島広稀/橋本マナミ/矢部太郎/片桐はいり/嶋田久作/きたろう/石橋蓮司
ナンバー  56
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://www.bitters.co.jp/kimabon/

テスラ エジソンが恐れた天才

f:id:otello:20201214141901j:plain

歴史に名を遺した偉大な発明王から金星を挙げた発想力の持ち主。無謀で危険な実験を繰り返すうちに資金に行き詰まった狂気の科学者。後世の評価は様々だが、天才的なひらめきを実用化するための努力を誰よりも惜しまない男だったのは間違いない。物語は、社会に電気を普及させた研究者の数奇な半生を描く。旧世界から米国にやってきた。カリスマを前にしても臆せず自説を曲げなかった。友人の助けを得て出資者の前で慣れないプレゼンもした。エジソン、ウエスティンハウス、JPモルガンといった20世紀米国繁栄の礎を築いたビッグネームを前に、主人公はひたすら己の信じた道を突き進む。常に眉根にしわを寄せ思考を巡らせている姿は、夢を追っているというより得体のしれない何かに追われているようだった。

エジソンの下で働き始めたテスラは電源に交流を主張するが、直流を本命と考えるエジソンと対立、袂を分かつ。その後開かれたシカゴ万博では交流が採用され、テスラは一躍時の人となる。

死刑を確実に成功させるには直流がいいか交流がいいかなどという現代では考えられない論争が19世紀末にはあった。死刑囚も同意して、自ら電気椅子に座る。そして交流で実験された死刑は、死刑囚の即死という結果は得られず、残酷なショーとして新聞に報道される。まあ、世界の夜を明るくするという目標の前で死刑囚の命などは誰も顧みないのだが、そのあたりに当時の人権意識がうかがえる。さらに、映画創世期のスター、サラ・ベルナールと親交を結んだり、ナイアガラに水力発電所を建設したりとテスラの快進撃は続くが、彼が笑顔になることはない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、コロラドの荒野で無線通信の実験にのめりこむあたりから映画は混迷を極め、テスラの行動も支離滅裂になる。理解不能の映像の連続は、テスラの脳内に次々と湧き上がる “斬新ではあるが脈絡のないアイデア” を象徴していた。テスラの人物像を理解しないまま撮影が始まり、彼を演じたイーサン・ホーク仏頂面で通すしかなかったのだろうか。

監督  マイケル・アルメレイダ
出演  イーサン・ホーク/カイル・マクラクラン/イブ・ヒューソン/エボン・モス=バクラック/ジム・ガフィガン
ナンバー  55
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://cinerack.jp/tesla/