こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブリング・ミー・ホーム 尋ね人

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どこにいるのか。何をしているのか。どれだけ成長したか。最愛のわが子の身の上を案じなかった日は1日もない。仕事の合間にビラをまき、NPOの助けを借り、手掛かりを探し求める。物語は、行方不明になった息子を取り戻すために胡散臭げな一家と対決する母親の葛藤を描く。夫は騙されて死んだ。信頼度の高い情報をカネで買った。警察は当てにならない。社会のはみだし者が幅を利かせ違法労働がまかり通っている。それ以上に何かを隠している。調べれば調べるほど深まる疑念に、彼女は確信を強めていく。わが身を罰するように息子の消息を追う母親の執念を、鋭いまなざしのイ・ヨンエがほとんどノーメークで髪を振り乱しながら演じる。生死すらわからない状況では、親は子供の生存を信じるほかはない。そんな母親の切実な感情がリアルに再現されていた。

身内の裏切りにあいながらも、失踪した息子・ユンスと特徴が一致する少年・ミンスの存在を知ったジョンヨンは、ひとりで現地に向かう。そこは怪しげな家族が経営する海辺の釣り場だった。

子供が2人、昼間はこき使われ、夜は監禁されている。ミンスは粗野な男の慰み者にされていている。ここを実質的に仕切っている汚職警官・ホン警長が狩りに出るシーンで、彼は鹿の母子を仕留め得意げになる。もちろん解体して食うのだが、彼の目にはむしろ動物の命を奪うことへの快感が浮かんでいる。釣り場の男女はホンには逆らえない。児童虐待の発覚を恐れたホンはジョンヨンを体よく追い返す。ホンたちも決して恵まれた生活を送っているわけではなく、カツカツの暮らし。経済至上主義、弱者がより弱い立場の者を搾取する構図が、現代韓国の格差を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ミンスは釣り場に来る以前の記憶はあいまいなのだろう。尋ね人のビラを見た彼は、自分がユンスと思い、釣り場を脱走する。そして居合わせたジョンヨンと対面を果たすが、すぐに悲劇が襲う。もはや救いなどない、それでもあきらめずにユンスの所在を追い続けるジョンヨンの姿にわずかな希望が見いだせた。

監督  キム・スンウ
出演  イ・ヨンエ/ユ・ジェミョン/イ・ウォングン/パク・ヘジュン
ナンバー  94
オススメ度  ★★★*


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リトル・ジョー

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その香りを嗅いだだけでハッピーになれる花。気持ちが穏やかになり、他人への思いやりに満ちた気分にさせてくれる。ところが、心はいつの間にか失われていく……。物語は、遺伝子操作で新種の花を開発した研究者が、その花を息子に贈ったことから生じる悲劇を描く。きれいに整列して温室に植えられた真っ赤な花、1本1本が人の気配を察知している。室温を上げ、水をやり、話しかける。愛情を注げば注ぐほど花は成長し美しい花弁を開く。タイミングを見計らって花粉を飛ばしている。だが、研究所の人々は生命の本能に気づき、花の本当の意図を知る。まるで意思があるかのごとき反応をヒロインは気にしているが、功名心が先走りしてこの花の欠点を認めようとはしない。そんな、じりじりと花に追い詰められていく人々の恐怖がリアルに再現されていた。

バイオ企業に勤めるアリスは息子のジョーに研究中の花をプレゼントし世話をさせる。その花は安全性が確認されておらず、同僚からも危険だと警告を受けるが、アリスは聴く耳をもたない。

花が出す花粉を最初に吸った犬は、飼い主から違う生き物になったと殺処分される。熱心に花を育てているジョーも目立った変化はないけれど、母親の目から見ると何か隠し事があるかのよう。やがて企業の研究者たちにもほんの少し雰囲気が変わっていく。静謐な映像に和楽器が奏でる雅楽をかぶせ神経をかきむしるような緊張感を醸し出す演出は、アリスの周りに漂う違和感と精神の奥深いところに到達する邪悪を体感させてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アリスの花は賞を取り、商品化される。しかしそれはすべて子孫を残せないように改良された花自身が仕組んだ罠。花粉を吸っても異常は感じない。他人が見ても病気には見えない。感染者は無自覚無症状、誰が感染しているかはもはや誰にも分らない。いつの間にかあらゆる人間が花の目的通りにコントロールされている。洗脳しているようにも思える花の魔力は、緩やかに全体主義が浸透していく21世紀の世界を暗示しているようだった。

監督  ジェシカ・ハウスナー
出演  エミリー・ビーチャム/ベン・ウィショー/ケリー・フォックス/キット・コナー
ナンバー  125
オススメ度  ★★★


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#ハンド全力

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頑張るとか努力とか根性とかは、あの震災でどうでもよくなった。今興味があるのはSNSでの発信。物語は、たまたまアップした過去の写真が誤解され、フォロワーが爆発的に増えた少年の煮え切らない日常を描く。ネット上では懸命にリア充自慢をする。予想をはるかに超える反応があると、さらなるネタを仕込んでインフルエンサーを目指す。話題が話題を呼びTVまでが取材に来ると、もはやスターになった気分。それでも偽りの自分を演じることに疑問を感じない。打ち込める目標が見つかった高校生の情熱とか復興のために汗を流す姿とかいった手あかのついた定番の青春モノとは一線を画し、あくまで主人公は困難に立ち向かおうとせずラクして手に入れられるものばかりを追い求める小ずるい設定。大きな夢や希望が持てなくなった被災地の若者の思いがリアルに再現されていた。

中学時代のハンドボール写真にたくさんの “いいね” が付いて気をよくした熊本の高校生・マサオ。岡本と組んで新たな写真をアップし続けるうちに、廃部寸前のハンドボール部からスカウトされる。

「ハンド全力」とハッシュタグをつけたのが原因で、世間はマサオがハンドボール選手だと勘違いしている。マサオは気にせず、ひたすらバズる方法を考える。一応ハンドボール部の練習には参加するがテキトーにこなすだけ。女子部の同級生にきつい言葉を浴びせられても馬耳東風を貫く。このあたり、全国から寄せられるネット住民の応援に、被災地の人々は期待にこたえなければならないプレッシャーにうんざりし、押しつぶされそうになっている現実があると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

初めての試合で惨敗しても、女子部のエースのひたむきさを見せられても、昔の親友に会っても、マサオにはハンドボールに対するやる気は起こらない。“ほんとに全力出しているやつは全力とは言わない” と言われても目覚めないマサオ。虚構をはがされてやっと心の底から熱くなる彼に、誠実に生きる大切さをもっと早く気付かせ、彼が成長していく過程を見たかった。

監督  松居大悟
出演  加藤清史郎/醍醐虎汰朗/佐藤緋美/坂東龍汰/鈴木福/岩本晟夢/磯邊蓮登/篠原篤/仲野太賀/志田未来/安達祐実/ふせえり/田口トモロヲ
ナンバー  124
オススメ度  ★★


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http://handzenryoku.com/

君が世界のはじまり

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父親なのか母親なのか友達なのか恋人なのか。どれかが欠けている。何かがもの足りない。充たされない気持ちを抱えながらも、とりあえず学校に通い日常生活を送っている。物語は、生きる方向性を見失いそうになった高校生たちが様々な体験を通じて希望を取り戻していく過程を描く。己は何者なのか、必死でもがきながら答えを追い求めている。きっと見つかると信じていたいのに、見つけられないと理解していく。そんな中、成績優秀で家庭環境にも恵まれた女子は、ますますこのままでいいのかという思いを強めていく。映像からはひりひりする緊張感が漂ってくるのに、会話からはボケてはツッコミを入れる大阪人特有のノリがあふれ、奇妙なアンバランスが絶妙のミスマッチを成功させている。切ないのにおもろい、ユニークな感覚が満載の作品だった。

優等生のえんはイケイケ系の親友・琴子に振り回されっぱなし。ある日、琴子は業平に一目ぼれして告白、付き合い始める。ところが業平はえんに興味を抱き、ふたりは帰宅途中に言葉を交わすようになる。

一方で、父子家庭のじゅんと父の再婚で東京から来た伊尾は、親との複雑な関係を持つ者同士気になっている。そして、お互いの心には踏み込まないまま傷をなめ合うように体を重ねる。好きとかいった恋愛感情など彼らの間には存在しないかのよう。それでも相手を必要としている。恋とか友情とか目標に向かって走るとかいった、まっとうな青春のきらめきに満ちた世界の裏を行く彼らは、夢を見出だせない2010年代の若者を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

えん・業平・じゅん・伊尾に体育会系の岡田を加えた5人は、閉店後のショッピングセンターで雨宿りをしているうちに一夜を明かす。店内には彼ら以外誰もいない。くすぶっていた感情を思いきり爆発させる。こんな街にいたくない。もっと刺激が欲しい。でも、自分も親たちと同様ここで結婚し子供を育てやがて年を取る。やりきれない閉塞感に折り合いをつけるためにブルーハーツを熱唱する姿は、ほんの少しだけ輝いていた。

監督  ふくだももこ
出演  松本穂香/中田青渚/片山友希/金子大地/甲斐翔真/ 小室ぺい/江口のりこ/古舘寛治
ナンバー  123
オススメ度  ★★★


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https://kimiseka-movie.jp/

いけいけ!バカオンナ~我が道を行け~

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部屋に帰ったら速攻でジャージに着替え寝転んでくつろぐ女。学生時代からの習慣は社会人に出た後も変わらない。世間ではイケてる部類に属しているのに、奇妙な潔癖症ゆえ男性経験は乏しい。でも、親友は何よりも大切にする。物語は、不器用だが一生懸命に生きている女の10年に及ぶ友情と恋を描く。圧倒的スペックに気おされた初対面。思わず見てしまった恥ずかしいところと古い映画で意気投合した一夜。社会に出て違う道を進むようになっても連絡は取り合い、着実に大人になった姿を認め合う。夢を追う彼女を尻目に順調にキャリアを積んでいるのに、恋愛に関しては理想が高すぎて、やっと捕まえたのは同僚のダサ男。そんな彼女が繰り広げる騒動の数々をコミカルに再現しようとするが、ちょっとこの作品のセンスにはついていけなかった。

共通の友人の紹介でセツコと知り合った大学生の結子。美人でハーフでモデルまでこなすセツコにトイレを貸したのを機に打ち解ける。その後、結子はアパレルに就職、セツコは女優を目指すと宣言する。

男を切らさないセツコ、一方でいまだまともに付き合ったこともない結子。せっかくできたサラリーマンの恋人に迫られてものらりくらりとかわしているうちに処女と見抜かれてしまう。失恋の傷も癒えないまま就活に翻弄されるが、苦労してもぐりこんだ会社で仕事の面白さに目覚める。虚勢ばかり張って自分を大きく見せようとする結子だが、それは自信のなさの裏返し。ルックスに恵まれリア充自慢に余念のないセツコの方がよほど自身を客観視し冷静に自己分析をしている。そのあたりの対比が、己にない性格や資質を親友に求める女心の繊細な複雑さを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アラサーになりやさしさだけが取り柄のカレシができた結子は、結婚を決めたセツコに対し披露宴の招待状を破り捨てて反対するという暴挙に出る。ただ、その理由があまりにも独善的かつ飛躍しすぎていて、付随するドタバタぶりも笑えない。もっとぶっ飛んだ世界観を作構築してほしかった。

監督  永田琴
出演  文音/石田ニコル/真魚/小野塚勇人/田中要次
ナンバー  122
オススメ度  ★★


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https://gogo-bakawoman.jp/

はりぼて

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廊下から階段を歩く間つきまとい、マイクを突き出してコメントを取ろうとするレポーター。ずっとごまかしてきたネコババを糾弾され一瞬表情がこわばるが、すぐに思い付きの嘘でその場をやり過ごそうとする議員。カメラは地方TV局のレポーターと記者に密着、市会議員たちによる政務活動費流用事件の顛末に斬り込む。不正について直撃されると、とりあえず知らぬふりをする。証拠を突きつけられると最初はとぼけ、責任転嫁しようとし、もう逃げられないと観念すると苦しい言い訳を並べ立てる。果ては記者会見を開いて土下座パフォーマンスまで披露する。膨大な文書資料のコピーを精査する記者の粘りと、舌鋒鋭く質問を繰り返すレポーター。2人が“税金を盗む”ことに慣れてしまった老人たちを詰問し遣り込める姿は小気味よい。

自民党会派が圧倒的に主流を占める富山市議会。議会のドンと称される自民党・中川の政務活動費疑惑を調査する五百旗頭と沢田は、綿密な取材を重ねて次第に中川を追い詰めていく。

議員報酬引き上げ案で議会と市長・第三者委員会に根回ししていた中川は、一方で領収書を改ざんし架空会合や印刷物の経費を計上している。開示された領収書の日付と金額をチェックして矛盾点を衝き、五百旗頭たちは中川を辞職に追い込む。また、カラ出張を指摘された議員の子供だまし的な言い逃れはもはや失笑すら催す。支援者からは先生と呼ばれ市役所職員の前ではふんぞり返っている。なのにせこい犯罪に手を染める議員たちの “小物ぶり” が人間の本質を見ているようで非常に滑稽だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、中川の後を継いだ五本をターゲットにする五百旗頭と沢田。しかし、五本は彼らの追及をのらりくらりと躱す。他の不正議員たちも居直る術を身につけ、詐欺等で刑事告発されても刑が確定するまでは辞めないと宣言する。そして人事での露骨な報復。これはジャーナリズムの敗北なのか、五百旗頭や沢田にもっと大物の醜聞を狙えという天の配剤なのか。ふたりの今後の活躍に期待したい。

監督  五百旗頭幸男/砂沢智史
出演 
ナンバー  120
オススメ度  ★★★*


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https://haribote.ayapro.ne.jp/

プラド美術館 驚異のコレクション

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16世紀に日の沈むことがない帝国を築き上げたスペイン。歴代の王はカトリックに帰依し、公の目に触れる美術品には神の栄光を背景にした自らの威光を称えさせた。一方で、プライベートで雇った宮廷画家たちには裸婦像から静物画まで比較的自由に描かせた。画家たちはベネツィアやフランドルで最新の理論を学び、光と影のコントラストでモデルをリアルに描写する技法をより洗練させていく。カメラは、マドリードにあるプラド美術館の収蔵品にフォーカスし、王家と深く結びついたスペイン絵画史を紐解いていく。ルネサンスを経たのちのアートは思ったほど宗教とのかかわりは薄く、むしろ人間そのものに肉薄する作品や、果物や調理用の鳥といった日常生活で目にする静物を対象としている作品が多いのが意外だった。

ジェレミー・アイアンズのガイドで始まったプラド美術館巡り。スペイン王国の黄金期に君臨したカルロス1世の治世から16世紀のエル・グレコ、17世紀のベラスケス、18~19世紀のゴヤへと時代を下っていく。

植民地収奪による莫大な富をバックにコレクションに加えた絵画のみならず、王家では独自にアーティストたちを育てていく。特に注目したいのはクララ・ペーテルズの静物画だ。細密に再現された花とお菓子と飲み物の静物画の中で、磨き上げられた銀のポッドに自らの姿を映し込ませる。まだ女性画家が珍しかった当時、あまり女性が目立つのは許されなかった。にもかかわらず、見る人が見ればわかるような形で足跡を残す。彼女が自己顕示欲を満たすにはこうするよりほかなかったと思わせる苦心が当時の女性の地位の低さを象徴し、非常に興味深かった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、美術品の紹介の方法が総花的で一貫性がなく、この美術館の特徴がよくつかめなかった。8700点に及ぶ収蔵品全体が数世紀にわたる数多くの王たち趣味を反映しているがゆえに、際立った傾向や特色がないのは仕方がない。それでも、もう少し切り口にエッジを利かせ、“これぞプラド美術館” というべき強烈なアピールが欲しかった。

監督  ヴァレリア・パリシ
出演  ジェレミー・アイアンズ/ノーマン・フォスター/ ミゲル・ファロミール
ナンバー  121
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
http://prado-museum.com/