家では親兄弟に邪険にされ、学校では誰にも相手にされない。自己主張することもなく、ただ心を閉ざして日々をやり過ごしている。物語は、そんな少女が親戚の家に預けられ大切に扱われるうちに自我を芽生えさせていく姿を描く。叔母さんは自分に対し丁寧に接してくれる。少し気難しそうな叔父さんも一緒に働くうちに打ち解けた態度を見せてくれる。なにより怠惰な両親とは違い、日々働くことと生活することに気を配り、人生に対し真摯に向き合っている。やがて少女は彼らを信頼し本当の保護者のようになついていく。アイルランド農村地帯の短い夏、ヒロインが少しずつ笑顔を取り戻していく過程は、日常と人間関係を疎かにせず助け合ってい生きる大切さを教えてくれる。
夏休みの間、子供がいないショーンとアイリン夫婦に引き取られた9歳のコット。アイリンの家事とショーンの酪農を手伝ううちに、実家では味わえなかった幸福を実感していく。
酒とかけ事に夢中でコットに愛情のかけらもない父。食事を終えた皿にタバコの吸い殻を押し付けるあたり、この男の人間としてのレベルがうかがい知れる。母も子だくさんゆえにコットにまで目が行き届かず、きょうだいもコットとは一線を引いている。その原因は不明なのだが、コットが家族内で孤立しているのは確か。だがアイリンはコットにお古の子供服を着せわが子のように慈しみ愛おしむ。井戸水汲み、牛舎の掃除、スグリのジャムづくり、郵便物チェックetc. ひとつひとつは小さな体験、でも初めて大人からひとりの人間扱いされて表情を取り戻していくコット。信頼されるにはまず信頼するのが肝要と彼らの絆は訴える。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
そして明らかになる夫婦の過去。別に秘密にしていたわけではないが、もう二度と悲劇を繰り返したくないと願うショーンの微妙な振る舞いが、いかに彼らが深い悲しみに沈んでいたかを象徴していた。
監督 コルム・バレード
出演 キャサリン・クリンチ/キャリー・クロウリー/ アンドリュー・ベネット/マイケル・パトリック
ナンバー 19
オススメ度 ★★★