こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファイアバード

好意を寄せる女とはイマイチ距離を詰められていない。そんな時異動してきたイケメンの上官。女は上官の気を引こうとするが、自分もまた彼に特別な感情を抱いていることに気づく。物語はソ連支配下エストニア、空軍基地で知り合った一兵卒と士官の性愛を描く。同性愛は重罪だった時代、内務監査が目を光らせ風紀を取り締まっている。決して知られたはいけないふたりの関係、女を間に挟んで巧みにカムフラージュするがやがて少しずつほころびをせ始める。相互監視と内部告発・密告が当たり前だった時代、必死で己をコントロールしようとする男たちの繊細な感情がリアルに再現されたいた。波にもまれながら男同士で愛し合うシーン、同時に絶頂を迎えた瞬間を並行して上空を飛行すロケット弾で表現するあたりエスプリが効いていた。

二等兵のセルゲイは新たに赴任してきた大尉・ローマンの豊かな教養とセンスに共感する。ある日、セルゲイはローマンにバレエ「火の鳥」の全体稽古を見せられ、感動する。

ローマンもまた演劇志望のセルゲイには軍隊では味わえない知的な興奮を覚えていて、写真を口実に接近していく。“運命を決めるのは星ではなく自分自身” という言葉をセルゲイに贈ることで彼の気持ちを推し量ろうとするあたり、たとえ相手が同性でもちょっとした言動の裏にメッセージを含ませるという恋の駆け引きが有効であると示す。圧倒的に男が多い軍隊の世界、少数の女を巡って争うよりも男同士で性欲を処理し合う方が合理的と考える人間がいてもおかしくない。そのあたり、ホモセクハラ・パワハラにならないように気遣うローマンの理性はエリートパイロットらしいやさしさに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

除隊したセルゲイはモスクワで演劇に転身、ローマンはかつてセルゲイが好きだった女と結婚するが、その後も彼らはは密会を繰り返す。セルゲイもローマンも基本的には異性愛者、なのに彼らは同性愛に目覚める。そのトリガーとなるのは「美と芸術」に対する理解なのは大いに説得力があった。

監督     ペーテル・レバネ
出演     トム・プライアー
ナンバー     211
オススメ度     ★★★*


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