こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ハニーランド 永遠の谷

無人の荒野を歩き岩山を登り、切り立った崖の中ほどにある岩の隙間にできた蜂の巣から蜜を取る。人工的ではない、栄養がたっぷりと詰まった蜂蜜。映画は、森や山に蜜蜂が自発的に作った巣から蜜を採取・販売する女の日常に密着、資本主義によって侵食されて…

デッド・ドント・ダイ

地軸がぶれ月が奇妙な輝きを増す夜、死人たちは墓場からよみがえる。生前の記憶はわずかに残っているが心はなく、人に噛みついては肉を貪り食う。物語は、小さな田舎町に突如現れたゾンビに対峙する警官の奮闘を追う。老齢の警官は未曽有の事態に目を丸くし…

グランド・ジャーニー

鳥になる。それは孵化を見守って “親” と認識されることから始まって、餌を与え、連れまわして歩いて危険なものを認識させ、水に導いて泳ぎ、一緒に空を飛んで進むべき方向を覚えさせるまで鳥と共に生活して、初めて成し遂げられる。物語は、渡り鳥の保護活…

無敵のドラゴン

幼い日に見た九つ頭の龍。自分こそはその力と権威を継ぐ者と自負する男は胸に九頭龍のタトゥーを彫り、強く正しく生きると誓う。物語は、香港警察の捜査員が経験した絶望と再生を描く。連続殺人事件を追ううちに婚約者を失ってしまった。未解決のまま時間が…

人間の時間

銃を持つ者が権力を握り、弱者はただ死を待つしかない。正論を吐く者は疎んじられ、沈黙を守る者だけが賢者。物語は、異次元に迷い込んだクルーズ船で起きるサバイバルを描く。セックス、ドラッグ、賭博、喧嘩、集団レイプetc. 出港したとたんに無法地帯と化…

弥生、三月 -君を愛した30年-

走り出したバスを強引に止め乗り込む。それは運命に流されるのではなく、自分の力で未来を引き寄せると宣言する行為。物語は、高校時代に知り合った一組の男女が紆余曲折を経験しながらも初恋を成就させようとする姿を描く。女は正義感が強く曲がったことは…

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒

大きなお目目に真っ赤な唇、ツインテールをなびかせて颯爽と町を練り歩く。気に食わない奴はブチのめす。邪魔する奴は誰もいない。だって大悪党の彼女だから。物語は、恋人の権威を笠に着てやりたい放題やってきた女が、失恋して庇護を失い、命を狙われるう…

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実

乱闘もいとわない1000人の左翼学生が舌なめずりして待ち構えている。敵の本丸にたったひとりで乗り込んだ男は一歩も引かず、言葉だけを武器に彼らの挑発を受けて立つ。圧倒的なアウェイ戦、だが彼は攻撃を受け止めた上で、相手の力を利用した反撃に出る。映…

悲しみより、もっと悲しい物語

一緒にいるととても楽しい。同じ思い出を共有すると充足感を覚える。お互いだけがたったひとりのかけがえのない人。でも長い間同棲しているのに、素直に胸の内を打ち明けられない。物語は、高校時代から付き合い始めたカップルが秘めた思いを遂げようとする…

アントラム 史上最も呪われた映画

曰く、上映した映画館が焼失した。曰く、出品した映画祭の関係者が変死した。曰く、観客が暴動を起こしたetc. 結果、その映画を見た者は必ず死ぬという伝説だけが広まり、長らく行方不明になっていたフィルムが発見された。物語は、そんな設定の下で呪われた…

星屑の町

温泉旅館の宴会場や田舎の小学校の講堂など、一応レコードデビューはしたものの、実際にマイクを握って歌うのはショボいステージ。物語は、プロとは名ばかりのグループが芸能界に憧れる娘と出会ったことから新しい道を歩みだす過程を描く。歌い始めて最初の1…

シェイクスピアの庭

遺したかったのは財産なんかじゃない。生涯をかけて磨き上げてきた文学的才能こそ、受け継いでほしかった。物語は、晩年のシェイクスピアにスポットを当て、若き日に息子を失った彼の苦悩を浮き彫りにする。20数年ぶりに戻ってきた故郷では、妻も娘たちも家…

コロンバス

非対称なのにバランスが取れている教会が立っている町。東洋人の男と地元生まれの白人女、2人ともこの町から離れたいと思っているのに、なかなか思い通りにはいかない。それでも年齢も境遇もまったく違うのに奇妙に釣り合っている2人は、町を散策するうちに…

ジョン・F・ドノヴァンの死と生

誰かが嘘をついている。いや、誰もが嘘をついている。まるきりの嘘でなくても、己に都合のいいように事実を捻じ曲げたり、大げさに表現したり、意図的に隠したり。それは違う自分を認めさせたいからなのか、目の前の現実から逃避したいからなのか。物語は、…

イップ・マン 完結

中国武術界に覇を唱え伝説の映画スターを弟子に持つ至高の武術家も、妻に先立たれ、病魔に侵され、残り時間は少ない。だが、彼にはまだ十代の息子を育て上げる義務がある。物語は、イップ・マンの晩年、米国での “最期の戦い” を描く。サンフランシスコの白…

ホドロフスキーのサイコマジック

幼少の頃に負った精神的な傷を大人になっても引きずっている人々がいる。その原因となっているのはたいてい、父・母・兄・姉などの年長の家族から受けた仕打ち。やった方は軽い気持ちでも、やられた方の潜在意識にはいつまでも不愉快な記憶として残り、現在…

HOKUSAI

歌麿のような女の色香は出せない。写楽みたいに役者の特徴をデフォルメする発想もない。何を描いても器用貧乏な男が、胸の奥からほとばしる情熱のままに描いたのは荒々しく波濤を立てる海。物語は、江戸時代後期、後世に名を遺した絵師の半生に迫る。人の言…

あなたの顔

沈黙に耐えかねてっと息を漏らすおばさんがいる。白髪を短く刈り込み真っ赤な口紅と真珠のネックレスが似合っている老婆は、ディレクターの存在などまったく無視し表情を変えない。遠慮なく居眠りしいびきをかき始める老人もいる。社会的に成功しているのか…

架空OL日記

朝起きるのがつらい。寒い季節になったらなおさら。しかも今日は月曜日、憂鬱な気持ちが高まっていっそ休みにしてしまいたい。物語は、銀行OLたちの心の声と日常を丁寧に追い、彼女たちが抱えるストレスとその解消法に迫る。他愛のない話題で仲間うちの絆を…

Fukushima 50

大津波など来ないという予想は軽く破られた。だれも想定していなかった自然の力に直面したとき、その場にいた人々はそれ以上の損害を食い止めようとする。物語は、震災による津波被害で崩壊寸前となった原発の暴走を止めようと、最後まで第一線に残った人々…

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ

その魁偉な容貌ゆえにまともな女からは無視される。おごった酒に応じて話し相手になってくれるのは薄汚れた中年女か行き場のない売春婦といった孤独な女ばかり。物語は、夜な夜な場末のバーで女を物色し自宅アパートに連れ帰っては殺人を繰り返していた男の…

レ・ミゼラブル

W杯優勝の熱狂に加わる程度には愛国心はある。しかし、日常に戻ると溜まった鬱憤は爆発寸前のまま。物語は、パリ近郊の移民が多く暮らす団地の暑い一日を描く。黒人とアラブ系とロマしかいないが、一応商店もあり市も立っている。生活に忙しない住民はとり…

初恋

余命わずかと宣告された後は、もう何も怖いものはない。ヤクザも、刑事も、死すらも。物語は、逃走する少女を助けたボクサーがドラッグを巡って運命を翻弄される過程を描く。迷惑をかけずに生きてきたつもりだったのに、まったく報われないまま終わる命。偶…

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

なによりも仕事を優先してきた。なのにもう後がないほど追い詰められている。そんな時見つけた無署名の肖像画。物語は、老境に達した美術商が掘り出し物の絵画を手に入れようと奮闘する姿を描く。作風は高名な画家のもの、しかし証拠となる資料はなく競売場…

黒い司法 0%からの奇跡

肌の色が黒いというだけで疑いをかけられ、証拠もないのに逮捕され、十分な審理もされずに有罪。米国南部では警察も検事も陪審員も判事も法律や権力の側にいるのはみな白人、黒人たちの嘆きは届かない。物語は、白人少女殺しの濡れ衣を着せられ死刑宣告を受…

野性の呼び声

敬意を持って扱ってくれる飼い主の役に立ちたい。常にそう願う力持ちで心優しい犬。文明世界にいたころは飼いならされていた。ところが、厳しい自然に接した時、本能が刺激される。物語は、誘拐されて売りとばさたセント・バーナード犬が苦難の末に本当の自…