こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

電車男

otello2005-07-17

電車男

ポイント ★★★*
DATE 05/7/16
THEATER ワーナーマイカル新百合ヶ丘
監督 村上正典
ナンバー 86
出演 山田孝之/中谷美紀/国中涼子/佐々木蔵之介
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


少しの勇気と行動力があれば人生を変えられる。そして、変えようとすれば応援してくれる人が現れる。パソコンとネットの中だけで生きてきた男が生身の人間を相手にしなければならなくなったとき、初めてのことに戸惑いあわてる。しかし、どんなときにでも誰かが救いの手を差し伸べてくれる。むしろ現実世界よりネットの住人のほうが素性を知らない他人に対して親切にしてくれるという逆転現象。生身の人間関係を築けなかった男が初めての恋を成就するまでを、山田孝之がしつこくなる一歩手前のコミカルな演技で抑えて爽快感を醸し出すことに成功している。


電車の中で酔漢から女性を救った電車男はお礼にエルメスのカップを贈られる。恋の駆け引きなど知らぬ電車男は掲示板サイトに事の顛末を書き込むと、ネット閲覧者から次々とデートのアドバイスが書き込まれる。エルメスをデートに誘うことに成功した電車男はサイト閲覧者からの書き込みを参考にエルメスの心をつかむ。一方で電車男は自分と美しいエルメスとのギャップに悩み始める。


原作のテイストを損なわず、エルメスに多くを語らせずにさらっと描いたところがよかった。裕福な家庭の娘で商社に勤めている美しい女性という以外はあえて語らせず、あくまで電車男から見た理想の女性であり謎の女性。彼女にとってはありったけの勇気をふりしぼって自分を守ってくれた電車男こそ理想の男性であることははじめから決まっている。だからこそ電車男が自分に対してどの程度好意を持っているのか気になるのだ。自分から口にするのではなく、視線で語り、肘をつまんだり、会話の端々に好意をにじませる。電車男が告白するときも「がんばって」とやさしく声をかける。大人の女性の気品と気配りを備えた中谷美紀エルメスにぴったりだ。


わずらわしい人間関係が苦手でオタクの世界に逃げ込んだ人々も、電車男の成長を通じて他人を助けることの快感を覚える。それがやがて自分の人生を見直すきっかけにもつながる。人はひとりでは生きていけない。ネット上の人間関係でも人が集まるところには必ず善意がはぐくまれる。デジタル記号であっても、人間っていいなと思わせる暖かさを持った作品だ。


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