こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

世界

otello2005-10-24

世界

ポイント ★*
DATE 05/8/30
THEATER メディアボックス
監督 ジャ・ジャンクー
ナンバー 106
出演 チャオ・タオ/チェン・タイシェン/ワン・ホンウェイ/ジン・ジュエ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


めまぐるしい勢いで近代化を推し進める北京で、その変化に適応しようとする人々。みな、人工的に作られた世界の中で生きている。エジプト、パリ、ロンドン、マンハッタン、日本。彼らは風景のレプリカの中でしか北京の外を感じることはできない。それでも現金収入を得て物質的には豊かで外国に行くものもいる。登場人物たちは決して暗くなるような境遇でもないのに、ジャ・ジャンクー監督はどうして息苦しくなるような閉塞間を感じる描写をするのだろうか。


北京郊外にある、世界中の観光スポットのミニチュアを集めた「世界公園」のダンサー・タオを始め、恋人のタイシェン、同僚のウェイとニュウ、ロシア人出稼ぎダンサー・マリアたちの日常生活。彼らが直面する恋や仕事、友人や人間関係を淡々と描く。


彩度を落としたフィルムに焼き付けられる群像劇は変化に乏しくエピソードにもヤマがない。北京に生きる人々の「現在」の息遣いが聞こえるようなカメラワークなのに、この作品から感じられるのはむしろため息だ。国を挙げての経済発展の最中にあるのに、人々の心に去来するのは明日への希望よりも現在の悩みばかり。恋人がいるのに嫉妬に悩まされ、仕事をしていても人間関係に煩わされる。人間が生活していく以上、当然起こりうる軋轢なのだが、あえてそういうところばかり強調されるとうんざりしてくる。


群像劇なのに、その登場人物が最後に一つとなる大団円が用意されているわけではない。みんなタオというヒロインを中心にぬるいつながりはあるのだが、その関係を無理やりたどる必要があるのだろうか。ヒロイン自身に描くべき物語が希薄なので、周囲の人々のエピソードを付け加えたと邪推したくなるような内容の薄さ。世界はこれからもそこに存在しつづけ、人生も生きている限り続く。退屈をかみしめた挙句、結局、この映画からはそんなあたりまえのことしか感じられなかった。


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