こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

otello2007-04-18

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン


ポイント ★★★
DATE 07/4/15
THEATER 109シネマズ港北
監督 松岡錠司
ナンバー 74
出演 オダギリジョー/樹木希林/内田也哉子/小林薫
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


子供のころの自分の手を引いて歩いてくれたオカンと、年老いて自分に手を引かれて歩くオカン。思い出の中のオカンはまだ若くて美しく、今はガンに体を冒され余命幾ばくもない。手をつないで歩く母子の姿を対比させることで時の残酷さを鮮明にする。幸せだった記憶を与えてくれた大好きなオカンが死ぬ。いずれやってくることがわかっていても、できることなら先に延ばしたい。そんな主人公の気持ちが痛いほど浮き彫りにされる。


筑豊の小さな炭鉱町でオカンとふたりきりで暮らしていたボクは高校進学とともに一人暮らしを始め、やがて東京の美大に進学する。卒業後、プロとして生活できるようになると、オカンを東京に呼び寄せるが、オカンの体はガンに蝕まれていた。


故郷の風景、糠床、門出を祝う手作り弁当と手紙、そしてカネの無心。少年時代から大学を卒業するころまでのエピソードはありふれた青春ものの域を出ていない。しかし、30歳を過ぎたボクがオカンと二人で暮らし始めるあたりから物語は失われた年月を取り戻すかのように濃密な空気をまとう。特に東京に来たオカンを迎えるシーンに流れる哀切たっぷりの音楽が身にしみる。オカンの作るごはんに友人たちがボクの家にたむろし、食べ、飲み、語り合う。誰もが楽しそうな夢のような日々。手のかかったおいしい料理を食べることは、人間にとっていちばん満ち足りた時間であることを笑顔が証明する。


やがて、オカンのガンは悪化、東京タワーが見える病室に入院する。そこで、抗がん剤治療で苦しむシーンを延々続くのだが、痛々しくて見ていられない。そばで看病しているボクがどれだけつらかったのかを伝えたかったのだろうが、そのためにオカンのつらそうな姿を克明に描写するというのは悪趣味。その後の葬式のシーンも、やたらに湿っぽい割には描き方に工夫がなく、涙を誘おうという仕掛けが見え見えだ。このあたりを省略して、オカンの残した箱をボクが開けることで彼女の死を描くというくらいの技を脚本家に見せてほしかった。


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