ニセ札
ポイント ★★*
DATE 09/2/6
THEATER KT
監督 木村祐一
ナンバー 30
出演 倍賞美津子/青木崇高/板倉俊之/段田安則
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
太平洋戦争の敗戦で価値観が180度逆転し、戦後は都市部との経済的格差が広がるばかり。山奥の小さな村で教職に就くヒロインは、信じてきた国家に人生が翻弄されたという思いを募らせている。彼女にとってニセ札作りは、自分だけではなく国民すべてを裏切った国家に対する復讐。それは多かれ少なかれ加担したメンバー全員の共通認識だ。映画は悪事と自覚しつつも、村全体を豊かにしようとする「正義感」に満ちた彼らの行動を通じて、貨幣経済に毒された日本の現状を憂いているようだ。
商売を営むシンゴは元軍人の戸浦、写真屋、紙漉き職人に声をかけニセ札づくりを始める。さらに戸浦の元部下や小学校教師のかげ子も彼らに協力し、資金集めを担当する。村全体が出資した大がかりな犯罪は着々と進み原版と透かし入り用紙が完成する。
「ニセ札ではなく本物を作る」という戸浦の決意通り、透かし入りの紙や原版の製作に細心の注意が払われる。戸浦らが戦争中に中国でニセ札を作る特殊任務にあたっていた経歴から、こんな田舎の職人たちでも可能なのだ。このあたり、製紙担当、原版担当、資金集め担当ともにトラブルを迅速に解決させ、心地よいテンポで物語は進んでいく。
やがて出来上がったニセ札は完成度が劣るにもかかわらず、かげ子は使用すると言い張る。街の洋品店で試しに使ってみてバレなければ良しとすることで仲間を納得させるが、かげ子はそこで本物の札で支払いをして仲間に嘘をつく。結局、山分けしたニセ札はすぐに発覚し全員逮捕されるが、むしろかげ子はこの日が来るのを予期していたかのよう。おそらくかげ子は戦前・戦中と、軍国教育の先頭に立ち多くの教え子を戦場に送り出したのだろう。そして敗戦後はその教育方針が間違いと正される。法廷でかげ子がぶちまけた国家への不満、その裏側からにじみ出ていた権力に対する強烈な不信感がこの作品の隠されたテーマだ。軽いテンポの中でちらりとのぞかせる戦争の暗い影が絶妙の味を出していた。