こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブルーノ

otello2010-03-23

ブルーノ Bruno

ポイント ★
監督 ラリー・チャールズ
出演 サシャ・バロン・コーエン
ナンバー 70
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人はどれだけ無礼な他人に対して寛容になれるか。最初は好意的に笑顔で接していても、徐々に眉根を寄せる怪訝な表情に変わり、そこに不可解な異物と接触した不気味さが加わり、ついには怒りが爆発する。その反応はごく当たり前のもので、相手を挑発して笑いものにしようとする作り手の作意はむしろ悪意に近い。主人公の言動にはユーモアのセンスよりも悪趣味が先行し、彼に不愉快な思いをさせられる映画の中の登場人物同様、見ているほうもうんざりした気分になってくる。コメディを指向するのなら、対象は権威や権力、古臭い因習や時代遅れの伝統にすべきであって、常識的な価値観や普通の人々の暮らしではないはず。まあ、そういった良識に対してションベンを引っ掛けてやろうというのがこの作品の狙いなのは理解できるが。


ウィーンのファッションレポーター・ブルーノは、ハリウッドに拠点を移して世界的なセレブになる道を目指す。だが、彼の異常なインタビュー方法はゲストだけでなくモニター視聴者にも大顰蹙。チャリティに方向転換したブルーノは中東和平を実現するためにパレスチナに飛ぶ。


ゲイであることを公言し、彼らのセックス観を取り入れた服装や振る舞いで何らかの先進性を表現しようとしているのならまだしも、ブルーノは単に異性愛者にケンカを売り、相手の堪忍袋の緒が切れると逃げているだけ。相手が感情に任せて思わぬ本音をポロリと漏らすなどの人間の本性が顔を出すような瞬間があれば面白いのだが、そんな高度な次元を求めるまでもなく不快指数は上がるばかり。ブルーノにかかわった人たちだけでなく、映画を見に来た観客が途中で席を立ったら、それこそこの映画の作り手は「大成功」と喜ぶのだろう。しかし、正視に堪えない下ネタの連発は安易な禁じ手を使った下等な芸に他ならない。


まあ、こんなくだらない企画でも、いやくだらない企画だからこそ命がけで撮影したキャスト・スタッフのバカな情熱だけは感じられるが、違う方向に向けてほしかった。