こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アウトレイジ

otello2010-05-21

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ポイント ★★★
監督 北野武
出演 ビートたけし/椎名桔平/加瀬亮/國村隼/三浦友和/石橋蓮司/小日向文世/杉本哲太/北村総一朗/塚本高史/中野英雄
ナンバー 118
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


子分から親分、その上の大親分まですべてが腹に一物をもつ。油断しているとハメられ、弱点を見せると付け入られる。あらゆる権謀術数が渦巻く中、任侠や男気といった義理人情は微塵もない。誰が悪党で、誰が本当の悪党で、誰が一番の悪党か。裏切りと駆け引き、ハッタリとだまし合い、銃弾と血がシュールなアートのように飛び交い、男たちの凄惨なバイオレンスがスクリーンを覆う。カネと権力をひとり占めにしたいというストレートな欲望をむき出しにしたヤクザの行動様式はある種の潔さすら覚える。


巨大暴力団の組長・関内は直系の池元組に麻薬に手を出した村瀬組を締める下命をだす。村瀬と義兄弟の契りを結んでいる池元は自分では手を汚さず、配下の大友組に処理を任せる。


上位者の命令には絶対服従、失敗はすなわち死というギリギリの状況で組織の結束と組員の忠誠心が問われていく。あくまで子分を信頼する親分がいる一方我が身かわいさに子分を切り捨てる親分、親分に命を預ける子分もいれば先のない親分を見切る子分もいる。カネというニンジンをぶら下げ、制裁という恐怖で尻を叩き、人間心理の裏を読んで荒くれ者たちを意のままに操る関内の深謀遠慮がクール。恫喝や腕っ節だけでなくヤクザも頭がよくないと人の上には立てないのだ。北村総一朗が、好々爺然とした外見とは裏腹にどす黒い陰謀を隠し持つ男を不気味に演じている。


◆以下 結末に触れています◆


大友が村瀬組のポン引きに仕掛けた罠がさらに拡大し、全面抗争に発展、さらに池元の汚さにキレた大友は覚悟を決める。その過程でもアフリカの外交官に大使館でカジノを開かせたり、関内が池元組の若頭に含みを持たせたりと、相手の弱みに徹底的に付け込んだり、アホな親分に嫌気がさしている子分の出世欲を刺激するなど、ヤクザの狡猾さには舌を巻く。目をそむけたくなるような拷問シーンもあったが、殺すと決めて敵を追い詰めたあとはいたずらにもてあそばずあっさりと止めを刺す、このあたりのさじ加減が絶妙。結局、暴力に走るものほど寿命は短く、死屍累々の果てに常に冷静さを失わなかった者だけが生き残るが、そこに至るまでサバイバルの勝者が全く見当がつかず、最期まで飽きさせない展開だった。