こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇

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愛娘と暮らすために、今まで付き合ってきた十数人の愛人と手を切りたい。だが、話を切り出す勇気はない。そんなとき頼ったのが、戦後の混乱期をひとりで生き抜いてきた腕も肝っ玉も声も太い女。物語は、女にだらしない男が偽妻を伴って別れ話を進めていく過程を描く。正妻がいるとは告げている。決して騙しているわけではない。なのに己の弱さをさらけ出す男に、女の方から寄ってくる。敗戦間もない東京、ほとんどの女が生活再建に忙しい。しかし、手に職を持ち経済的に独立していた女たちは、どことなく頼りない彼を放っては置けない。軍国主義的な男より弱音を吐いてくれる男の方が自立した女にはモテるのだ。上野アメ横乾物屋のオッサンのようなダミ声を出しながら大きな目玉をギョロッと動かす小池栄子が強烈な印象を残す。

闇市の女傑・キヌ子が意外な美女だと知った田島は、彼女に妻のふりをしてもらい愛人の花屋を訪れる。その後、イラストレーター、女医と巡るがなかなか思い通りにはいかない。

戦災の痕はまだ癒えていないが食うに困らない程度には復興している。むしろ田島は、カネ回りがよく文芸誌の編集長を務めていることもあり、洗練されたインテリと思われていたのだろう。兵役も免除されうまく立ち回る術を知っている。ところが付き合っていた女には決意を言い出せず、かえって事態をややこしくするばかり。優柔不断なところをキヌ子に背中を押してもらいながらなんとかやり過ごすのだが、女医は彼の思惑をとっくに見抜いている。男の浅知恵など女はお見通しと彼女たちの態度は訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、田島と女たちのかみ合わない会話ややり取りをコミカルに再現しようとしているのはわかるのだが、突き抜けたおもしろさがなくて笑えない。長まわしを多用したショットも緊張感が漂う一方で登場人物の心情に迫るところまで踏み込んでおらず、どのキャラにも共感を抱けなかった。端正な映像と俳優たちの演技がミスマッチに至らなかったのが楽しめなかった原因だろうか。

監督  成島出
出演  大泉洋/小池栄子/水川あさみ/橋本愛/緒川たまき/木村多江/皆川猿時/戸田恵子/濱田岳/松重豊
ナンバー  30
オススメ度  ★★


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http://good-bye-movie.jp/

1917 命をかけた伝令

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ぬかるみと水たまり。ハエがたかった馬の死骸。鉄条網に引っかかった遺体は放置されたまま。死肉をむさぼるネズミは巨大化して人を恐れない。一時的に戦火は止んでいるがどこに敵が潜んでいるかわからない。塹壕から這い上がり敵陣に向かった2人の若者は、不安と緊張の中、ひたすら前進する。物語は、第一次大戦中、英国軍兵卒が命令書を送致するために死地を踏破する過程を描く。極めて危険な任務、罠が待ち構えている。狙撃手が銃口を向けている。それでも友軍の命を救うために後戻りはできない。カメラはショットを途切れさることなく2人に寄り添い、時間を共有する。彼らの感情と息遣い、目にした光景と耳にした音、その緻密に計算されたカメラワークから生まれた映像は圧倒的な臨場感をもたらし、まるで3人目の伝令になったかのごとき気分になる。

総攻撃のために出撃した連隊に中止命令書を届けるブレイクとスコフィールドは、ドイツ軍が撤退した後の塹壕にたどりつく。だが、仕掛け爆弾で崩落、スコフィールドは瓦礫の下敷きになる。

英独の戦闘機が空中戦を繰り広げていても彼らは他人事のように見上げている。航空機が珍しく、その重要性が末端兵には十分に浸透していなかったのだろうか。被弾した敵機がすぐそばに不時着して初めて彼らは反応、燃え盛る機体からパイロットを救出する。このあたり、一兵卒といえども名誉を重んじる前近代的な騎士道精神がまだ生きていたことを示す。一方で、先走っていたブレイクに対し損な役回りを押し付けられたとスコフィールドがぼやくなど兵士の等身大の心情も再現、彼らが遠い昔のヒーローではなく生身の人間だったと教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

1人になったスコフィールドは友軍の援助を受けたのち狙撃手との対決で時間を浪費する。気づくとタイムリミットの夜明けが迫り、ドイツ軍哨戒地域を最短距離で突破しなければならない。最後の力を振り絞って走り続けるスコフィールドの姿は、戦場での英雄的な行為には大きな代償がともなうと訴えていた。

監督  サム・メンデス
出演  ジョージ・マッケイ/マーク・ストロング/ディーン=チャールズ・チャップマン/リチャード・マッデン/ベネディクト・カンバーバッチ/アンドリュー・スコット/コリン・ファース
ナンバー  29
オススメ度  ★★★*


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https://1917-movie.jp/

犬鳴村

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午前2時に着信音が鳴る公衆電話、受話口からうめき声のような音が聞こえる。廃村に向かうトンネルに入った男女は、その先で言葉では再現できないおぞましい体験をする。臨場感たっぷりの “ブレアウィッチ風” プロローグは、映画の撮影という「覚悟」はなく、動画サイトでバズるのが目的の軽さになっている。物語は、ダム底に沈んだ村人の呪いを受けた人々の恐怖を追う。飛び降りや心臓発作なのになぜか死因は溺死と診断される。一度開いてしまったトンネルの入り口から出てきた悪霊は、町の住人に憑りついて離れない。霊感が強いヒロインは、自らの能力と過去の因縁を探るうちに衝撃の真実にたどり着く。悲痛の果てに死んでいった村人の悪意ある霊ばかりではない、思いを伝えたかっただけの霊もいるとこの作品は訴える。

都市伝説の心霊スポット・犬鳴村を探検した明菜と悠真は多数の幽霊を目撃。その後精神に変調をきたした明菜は自殺、悠真は妹の心理療法士・奏に相談する。奏は幽霊が見える霊感体質だった。

後日、悠真が犬鳴村へ続くトンネルを訪れると入り口は閉ざされている。一方で町の病院では、奏は同じく霊感体質の子供の面倒を見るうちに多くの霊に悩まされるようになる。原因は己の体に流れている犬鳴村の血。父は母の穢れた血を蔑みそれを隠そうとはしない。奏は母方の祖父に祖母の話を聞くうちに、自分こそが犬鳴村民たちを成仏させられる人間であると自覚する。その間、犬鳴村が町の人々からどんな差別を受け、都会の人々に騙されたのかが明らかになり、ダムによって村の存在が葬られていたことを知る。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、そのあたりの展開は流れが悪く怖がらせ方も控えめ。それでも、犬と交わって赤ちゃんを産んだとされる女が、トンネルの中で悠真を追い詰め犬女に変身するシーンは、憎しみと哀しみ、怒りと恨みといったおどろおどろしい情念が充満し、虐げられてきた者たちの怨念がこもっていた。どうせなら完全に犬女になるまでワショットで描き切った欲しかったが。。。

監督  清水崇
出演  三吉彩花/坂東龍汰/古川毅/宮野陽名/大谷凜香/奥菜恵/須賀貴匡/田中健/寺田農/石橋蓮司/高嶋政伸/高島礼子
ナンバー  27
オススメ度  ★★*


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https://www.inunaki-movie.jp/

グッドライアー 偽りのゲーム

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嘘つきほど自分を誠実に見せようと心にもない言葉を口にする。最初についた小さな嘘を自ら告白して許しを請い、相手の気が緩むと少しずつ本性を露にしていく。物語は、熟練の老詐欺師が資産家老女から財産を巻き上げようとする姿を描く。頭脳明晰だが世間知らずな彼女は、用心深いけれど時間と共に儲け話に興味をひかれるようになる。老詐欺師はそんな彼女と、老後の寂しさを紛らわすためにお互いに寄り添うような関係を作る。やさしさと謙虚さ、他人の信頼を得るには己の気持ちを押し付けるのではなく、思いやりが大切だと彼は知っている。簡単にはいかないけれどほぼ計画通り、ところが思わぬ場所で老詐欺師は過去と対峙する。ヘレン・ミレン扮する老女のお人好しキャラが、逆に彼女こそが罠を仕掛けた側だと予感させる。

ロンドンの出会い系サイトで知り合ったロイとベティは好相性。面会を重ねるうちに足の悪いロイがベティの家で暮らすことになる。余命短いベティの願いでふたりはベルリン旅行に出かける。

ベティとのデート中に抜け出し、同時進行でロシア投資詐欺を進めるロイ。カモから大金をせしめ、文句を言う部下に制裁を加える。ベティの前では杖をついているが、彼女が見ていないときは速足で歩く。使い分けが完璧にできるロイの詐欺師としての能力の高さをうかがわせる。それだけではなく、時に殺人さえ厭わない。温和な紳士に見えるが冷酷な悪党のロイがいつ報復を受けるのか、ベティは彼にどんなトラップを用意しているのか、いやがうえにも期待が膨らんでいく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ベティにはスティーブンという孫がいて、ボディガード代わりにベルリンにも同行する。そこで明らかにされるロイの秘密。それでもロイは必死でベティを言いくるめる。スティーブンも、ベティからロイが離れていかない程度の暴露にとどめ、ベティに食いついたロイはさらなる深みにはまっていく。騙したつもりが騙されていた。裏切りは必ず報いを受ける。先の大戦は21世紀になっても終わっていないとこの作品は訴える。

監督  ビル・コンドン
出演  ヘレン・ミレン/イアン・マッケラン/ラッセル・トベイ/ジム・カーター
ナンバー  26
オススメ度  ★★★


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http://wwws.warnerbros.co.jp/goodliar/

ロニートとエスティ 彼女たちの選択

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挨拶は返してくれる。懐かしいふりはしてくれる。でも、それ以上は決してかかわろうとはせず遠巻きに見ているだけ。わだかまりが残っている。歓迎されていなのはわかっている。それでも父にはきちんと別れを告げたい。物語は、英国のユダヤ人コミュニティを追われたヒロインが父の死を機に帰郷、過去と向き合いつつ因習と闘う姿を描く。故郷を去る原因となった女はこの町で家庭を持ち幸せに暮らしている。気まずい空気が流れているのにやっぱり本心は隠せない。愛したのはただひとり。今も思いはあの頃のまま。そして抑えていた感情が爆発する。キスでは物足りない。気持ちを確認するためには体を重ねるしかない。お互いの性器をまさぐり合い自分の唾液を相手に飲ませるシーンは、心に正直に生きる権利は信仰に優先すると訴える。

NYで活躍する写真家のロニートは絶縁状態だった父の訃報を受けロンドンに戻る。ラビとして地元ユダヤ人社会の信頼を集めていた父はロニートの同性愛を認めず、彼女への遺産は一切なかった。

元恋人のラスティは後継ラビ候補のドヴィッドと結婚している。行きがかり上彼らの家に泊まるロニートは、街を離れたことを後悔も反省もせず新天地で成功している。一方のラスティは不名誉な噂に怯えながら肩身を狭くしてこの街に住み続けている。しがらみにとらわれない道を選んだロニートには、人目を気にして生活するラスティの心情がよくわからない。厳しい戒律を守らなければならないラスティと、その束縛から逃れるためにすべてを捨てたロニート。ふたりの対比は、まったく違う世界に飛び出し異なる価値観に触れなければ創造は生まれないと教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

追悼式でスピーチを任されたドヴィッドは、ラビが死の間際に語った言葉の意味を理解する。選択と自由、それは神の意思よりも大切な人間の真実。宗教も時代と共に変わらなければならない。ラビはロニートをとっくに許していた。むしろ一目会いたかったに違いない。哀切漂う映像のラストでみせる光明が救いだった。

監督  セバスティアン・レリオ
出演  レイチェル・ワイズ/レイチェル・マクアダムス/ アレッサンドロ・ニボラ
ナンバー  24
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://phantom-film.com/ronit-esti/

ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密

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警察に集められた参考人たちが話している途中でピアノの鍵盤をたたき、話の腰を折る男。刑事たちも彼には一目置き、事情聴取の場に同席させている。ダニエル・クレイグ扮する探偵が現れるシーンは時代がかった雰囲気が充満し、一気に本格ミステリーの世界にいざなってくれる。物語は、売れっ子作家自殺の再調査で、隠された真実が解明されていく過程を描く。家族と様々な金銭的トラブルを抱えていた作家だったが、殺されるほど恨まれていたとは思えない。現場の状況から自殺だったのは間違いない。動機があると推測される人物にはみなアリバイがある。巧妙なトリックと仕組まれた罠、証拠と証言から複雑に絡まり合った偶然と必然をほどいていく展開はまさしくミステリーの王道を行く。大げさな音楽と癖のある登場人物は古典的な風格すら漂わせていた。

誕生日パーティの翌朝死体で見つかったハーランは、莫大な遺産の相続人に専属看護師のマルタを指名する遺言を残していた。カネに困っている遺族は思惑が一致、マルタを説得しようとする。

匿名の依頼人に雇われた探偵・ブノワは遺言開封前に関係者の聞き取りを終えていたが、相続にマルタが絡んできたことで幾重もの疑問符に頭を悩まされる羽目になる。ドーナツの穴を埋めるドーナツにも穴が開いている状態、二重三重に張り巡らされた伏線、謎を一つ解決すればさらなる謎が待っている。21世紀のミステリーは4段構えくらいにしないとファンが納得しないと知っていて新たな創作に挑戦する脚本・監督のライアン・ジョンソンの奇知には頭が下がる思いだ。どこかに瑕疵はないかと五感を研ぎ澄ましたのだが、初見では気づかなかった。嘘をつくと嘔吐するマルタの体質もウイットが効いていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

誤解と気遣いが重なってハーランは自殺したのが明らかになるが、ブノワの依頼人の正体も暴かなければならない。さらに送られてきた脅迫状と証拠隠滅のための放火。そして事件の意外な全貌。久しぶりに最後まで緊張を引っ張り続けた作品だった。

監督  ライアン・ジョンソン
出演  ダニエル・クレイグ/クリス・エバンス/アナ・デ・アルマス/ジェイミー・リー・カーティス/マイケル・シャノン/ドン・ジョンソン/トニ・コレット/フランク・オズ/クリストファー・プラマー
ナンバー  25
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
https://longride.jp/knivesout-movie/

街の上で

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フラれたり、くっついたり、新しい出会いがあったり……。ありふれた暮らしの中でも毎日何らかの変化が起きている。映画は、東京・下北沢に住む青年の弛緩した日々をスケッチする。ほとんどの時間読書している古着屋の店番、夜はふらっとライブに出かけ、馴染みのバーで一杯ひっかける。親しい友人もいないし彼女とは破局したばかりだけれど、孤独を感じるほどでもない。ユル~い人間関係の中で、向上心がなくても何とか生きていけるし、熱烈歓迎されなくても拒絶されるわけでもない。噛みあわない会話と奇妙な間の取り方が絶妙で思わず腹を抱えてしまった。運命なんて大げさなものは信じていない。人生なんて真剣に向き合わなくてもとりあえず死にはしない。できることにだけ手を付けて嫌なことは避けて通ればいい。そんな安心感を与えてくれる作品だった。

恋人の浮気が原因で別れた青はいまだに未練タラタラ。ある日、自主映画監督から本を読む姿を撮りたいと依頼され、古書店員相手にカメラ映りの練習を積んだうえで撮影に臨む。

本番では緊張のあまりまったく画にならず青の出演ショットはボツにされる。それでも打ち上げで知り合ったスタイリストのイハと意気投合、彼女の部屋で語り明かしたりする。その間カメラは青と青の周辺のさまざまな出来事にフォーカスするが、特に方向性を持ったストーリーが展開するわけではない。にもかかわらず、少しひねりを加えたシチュエーションとずれた台詞がちりばめられた脚本が意外な共感を呼び、狭い世界に安住する青の日常にリアリティをもたらしていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

イハとお互いの恋バナで盛り上がった青はそのまま彼女の部屋に泊るが、手も握らないまま朝を迎える。青の押しの弱さとか女心への鈍感さが、安全な男と思われている理由なのだろう。元恋人への思い以外ガツガツしたところのない青の他人への関わりに対する淡白さは、自分を守るための防御壁。傷つかない、傷つけられないように感情を抑える青はいかにも現代風の草食男子だった。

監督  今泉力哉
出演  若葉竜也/穂志もえか/古川琴音/萩原みのり/中田青渚/成田凌/
ナンバー  21
オススメ度  ★★★★


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https://machinouede.com/