こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

母との約束、250通の手紙

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“男が戦うのは女と名誉とフランスのため”。 幼少期から母にそう叩き込まれてきた男は、彼女が自分に託した夢を実現させるために運命に立ち向かう。物語は、狂信的な母親に女手一つで育てられた男の数奇な人生を追う。母親は、商売に関しては機を見るに敏。馬鹿にする者は許さない。生き残るためには大きな嘘もつく。だれにも媚びず、弱みを決して見せず、いつも気丈に振舞う。そして息子に対しては異常なほどの溺愛を示す。ユダヤ人であるがゆえに欧州各地を転々としさまざまな差別や偏見にさらされてきた彼女が苦難の末に身につけたのは、信じられるのはカネと肉親だけという世界観。強烈に個性的だけれど息子への思いではだれにも負けない母親をシャルロット・ゲンズブールが熱演、子離れできない母の暴走を再現する。

ポーランドで幼少期を過ごしたロマンは南仏・ニースに移り住む。母・ニーナはそこでホテルを開業、ロマンには作家になるための教育を施す。やがて成長したロマンはパリの大学に進む。

ロマンが思春期になってもニーナは彼の日常に事あるごとに介入し、道を誤らないか見張っている。一方で自身の恋にはまったく興味がなく、男が言い寄ってきてもあっさり袖にする。彼女にとってロマンこそが世界の中心、我が子の立身出世を微塵も疑っていない。それが時にロマンにとっては重荷になっていくのだが、ロマンはやり過ごす術を知らない。いつしかロマンはニーナの希望を叶えることが己の生まれてきた意味だと思い込むようになり、軍隊に入ったのちも暇を見つけては執筆に没頭する。ニーナの態度は “愛は惜しみなく与う” という言葉を思い出させてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、ナチスユダヤ人狩りを始めると、ヒトラー暗殺をロマンに命じるニーナ。やはりどこかおかしなところがある。この作品は後に作家として成功したロマンの自伝、フィクションもかなり混じっているはずだ。そう考えるとすべての出来事がスランプに悩んでいた時代のロマンの創作だったのではと思えてしまうのだが。

監督  エリック・バルビエ
出演  フィネガン・オールドフィールド/シャルロット・ゲンズブール/キャサリン・マッコーマック/ピエール・ニネ
ナンバー  23
オススメ度  ★★*


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バッドボーイズ フォー・ライフ

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敏腕刑事として名をとどろかせたのは遠い昔。相棒は引退を考え、自身は凶弾に倒れた。だが、謎の襲撃者との決着をつけるまでは絶対に引き下がれない。物語は、刑事と殺し屋の壮絶な死闘を描く。お互いに心に抱くのは相手への復讐。殺し屋は母のために、刑事は自らの失態を取り返すために。スピード感あふれるカー&バイクのスタントから洗練された格闘技、最新機器による極秘捜査、派手な銃撃戦と大爆発etc. 手に汗握る見せ場の連続でアドレナリンは噴出するが、その合い間に2人の刑事による掛け合いを挟むことで緩急に絶妙のバランスを取る。しかし、アクションシーンは緻密さにかけた大雑把な印象を受け、主役コンビの軽妙なやり取りも米国人ならば微妙なニュアンスまで理解できたのだろうが、まったく笑えなかった。

女囚・イザベルが息子のアルマンドを使って脱獄、マイアミ市警のマイク以下自分を有罪にした当局の関係者の処刑を始める。マイクは一命をとりとめ、アルマンドの行方を追う。

復帰したマイクは若手による特捜チームとに合流し捜査に加わるが、年寄り扱いされて話がかみ合わない。仕方なくかつての相棒・マーカスを呼び戻し2人でアルマンドの足跡をたどる。アルマンドは彼らに先行し手掛かりを握る者は消されていく。このあたりアルマンドは一流スパイ並みの能力を持ち、ほぼ一人で警察の裏をかくほどの優秀さ。父親を知らず母親は獄中という環境で育ったはずなのにいかにしてこれほどの殺し屋に育てられたのか、彼のキャラクターにももう少し深みを持たせてほしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、アルマンドの背後にはイザベルがいると悟ったマイクは過去に決着をつけるためにメキシコに飛ぶ。そこで明らかになるイザベルとの因縁とアルマンドの秘密。運命はいかにしてねじれたのか、イザベルがどれほどマイクを憎んだのか、そしてアルマンドにどうやってその思いを伝えたのか。銃撃や大爆発・火災よりは、絡まり合った3人の人生を丁寧に再現したほうがよかったのではないだろうか。

監督  アディル・エル・アルビ/ビラル・ファラー
出演  ウィル・スミス/マーティン・ローレンス/パオラ・ヌニェス/ケイト・デル・カスティーリョ/ジェイコブ・スキピオ
ナンバー  20
オススメ度  ★★


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https://www.badboys-movie.jp/

AI崩壊

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人々の生活に密着してデータを集め、ネットワークでつながり、健康を見守るAI。病気から解放されケガも迅速かつ適切に治療される。だが、バイタルサインという究極の個人情報を提供している人間はAIに命を握られているのと同じ。物語は、価値のない人間を殺し始めた医療用AIを止めようとするプログラマーの奮闘を描く。テロリストの濡れ衣を着せられた彼は警察から追われながらも閉じ込められた愛娘を救出しなければならない。どこに逃げても監視カメラをハッキングした警察の捜査用AIに追跡されるが、主人公は自らのデジタルスキルを駆使して反撃する。格差社会の生きづらさと国家による国民監視・管理の息苦しさ。加えて、復活する優性思想。2020年の “今” の最悪の部分だけが拡大されたかのごとき10年後の日本は奇妙なリアリティに満ちていた。

いまや社会インフラとなったAI「のぞみ」を暴走させた容疑者となった桐生は逃走、人ごみに紛れフェリーに乗り込む。しかし、端末からの発信を警察にキャッチされ甲板に追い詰められる。

桐生は追っ手を避けて走り続けるが、捜査用AIはネットワークに接続されたあらゆるカメラから彼の情報を収集、即座に居所を特定する。ところが桐生はその裏をかき、捜査を撹乱する。このあたり、捜査用AIの弱点をたちどころに見つけ利用するなど桐生の天才ぶりがいかんなく発揮され小気味よい。その間、スマートウォッチや自動運転車、超小型追跡ドローンなど現代で普及し始めた技術の延長線上にあるテクノロジーがより洗練されて実用化されているが、便利さと引き換えに自由を失った人間の悲しい未来を予言しているようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

桐生は盟友の西村の助けを得て「のぞみ」の正常化を試みる。そして明らかになる、警察幹部による陰謀。「弱者は正義、障害者は神」といった左派思想が大手を振っている中、それを不満に思う輩が権力の座に就けば生産性の低い者は切り捨てられる。加えて犯罪予防名目の徹底的な監視社会。そんな悪夢が現実になるかもしれないと思わせる作品だった。

監督  入江悠
出演  大沢たかお/三浦友和/賀来賢人/岩田剛典/玉城ティナ/田牧そら/広瀬アリス/高嶋政宏
ナンバー  18
オススメ度  ★★★


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http://wwws.warnerbros.co.jp/ai-houkai/

男と女 人生最良の日々

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昨日のことは忘れている。さっきの話をまた繰り返す。だが、愛し合っていたころの記憶だけは鮮明。物語は、認知症を発症した老人をかつての恋人が見舞い、若き日の思い出に浸る姿を描く。レーサーだった男はもう足腰が弱っている。彼にとって最愛の人だった女は、老いてもなお気品を保っている。彼は彼女が誰だか気づくだろうか。気づいていてとぼけているのだろうか。彼が話す53年前の日々は、彼女にとっても貴重な過去。やがてふたりは、彼らにとっての最高の瞬間をなぞる旅に出る。もはや死はいつ訪れてもおかしくない。80年余り生きてきた中で体験した様々な出来事もほとんど失われてしまった。それでもお互いに求めあった感覚は決して色あせない。余命が短くなった時、一途に燃えた時間を思い出せる、そんな幸福感にあふれた作品だった。

老人ホームになじめずいつも一人庭で過ごしているジャン=ルイに会ってくれと頼まれたアンヌは、彼を訪ねる。ジャン=ルイは彼女をアンヌと認識しないまま若き日の熱愛について語り始める。

付き合っていた当時と変わらぬ瞳の輝きと髪をかき分ける仕種。輝くような美しさはないけれど、アンヌは今も上品で女の魅力を発散している。ジャン=ルイもまた帽子とマフラーを欠かさず身に着け、女たらしを自任していたおしゃれ心を失っていない。いくつになっても異性を意識し愛をささやき合うフランス人の、生活の質への貪欲さが印象的だ。恋愛こそが彼らの最大のモチベーションなのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後もアンヌが訪問するたびに、ジャン=ルイは彼女に脱走を持ち掛ける。個性的なクラシックカーがふたりにはぴったりとお似合いで、山道から田舎道を颯爽とかけ抜ける。圧巻は海岸のボードウォークを走らせるシーン。クロード・ルルーシュは、このショットを撮りたいがために再び「男と女」を作ったのではないかと思わせるほど耽美で優雅で至福に満ちた映像だ。こんな風に年を取りたい。こんな風に恋していたい。ふたりは、きっと豊かな人生の指標となるだろう。

監督  クロード・ルルーシュ
出演  アヌーク・エーメ/モニカ・ベルッチ/ジャン=ルイ・トランティニャン/スアド・アミドゥ/アントワーヌ・シレ
ナンバー  19
オススメ度  ★★★


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http://otokotoonna.jp/about_movie/

チャーリーズ・エンジェル

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格闘技に優れ銃器の扱いも洗練されハッキングもお手のもの、並の男では歯が立たない美しきエンジェルたち。物語は、非政府系工作員集団の女子メンバーが巨大なパワーをもつ画期的な発明品を巡って正体不明の組織と戦う過程を描く。エネルギー問題を根本的に解決するという機器は未完成、だが武器商人の手に渡れば大量殺人兵器にもなりうる。横流しして一儲け企む者、奪い返そうと追いかける者、横取りして漁夫の利を得ようとする者。襲い掛かる相手を排除したと思ったらまた別の魔手が伸びてくる。誰が味方で誰が敵なのか、真実に迫るほどに謎が深まる構成が非常にミステリアスだ。本当に信じられるのは命がけの修羅場を一緒に潜り抜けてきた仲間だけ、女同士の固い友情がフェミニズムの勝利を高らかに謳いあげる。

超電磁波装置・カリストを開発したエレナは不具合に気づくが却下され、ボスレーに相談。殺し屋に狙われたところをサビーナとジェーンに救われ、彼女たちと行動を共にする。

エレナの上司がカリストの転売を目論み闇組織に接触する。それを追跡するサビーナ達が防護機能付きの最新ファッションのみならず電子機器・秘密兵器といったスパイ映画ならではの小道具を身につけるシーンが楽しい。それらのアイテムを自在に操るサビーナとジェーンのしなやかでスピーディな動きも、既存のスパイアクションにはない流麗さで目が離せない。さらに3人の前にちらつく欺瞞と裏切りの影。陰謀や暴力の世界に縁がなかったエレナが、危機また危機を乗り越えていくうちにタフになっていく姿が頼もしい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

意外な人物の登場で混沌を極めるカリスト争奪戦。それでもサビーナ、ジェーン、エレナの結束は固く、何度となく迫り来るピンチを切り抜けていく。欲望に駆られ悪だくみをするのも、実行に移すのも男。女は彼らの暴走を止めるために戦わなければならない。欧米文化の基準に適ったイケメンかつ正義を貫くヘテロ男はひとりも出てこない、最後まで女性優位を貫く作風はある意味心地よかった。

監督  エリザベス・バンクス
出演  クリステン・スチュワート/ナオミ・スコット/エラ・バリンスカ/エリザベス・バンクス/ジャイモン・フンスー/サム・クラフリン/ノア・センティネオ/パトリック・スチュワート
ナンバー  17
オススメ度  ★★★*


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https://www.charlies-angels.jp/

ジュディ 虹の彼方に

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ハリウッドの神話となった女優はスタジオの奴隷だった。食事は制限され睡眠時間は削られプロデューサーに忠誠を誓わされマネージャーは四六時中目を光らせている。スクリーンで演じる理想の少女像とは正反対のままならない日常。物語は、往年のミュージカルスターが再起をかけたコンサートに臨む過程を追う。ドラッグとアルコールで気分は定まらない。カネに困って引き受けた仕事なのに、本番が近づくにつれ気まぐれ病が再発する。ところが舞台に立つと一瞬でオーラをまといエンタテイナーに変身する。スポットライトと観客の視線、注目されることでスイッチが入るのだ。そんなプロ意識こそが芸能人に刷り込まれた本能なのだ。愛にも運にも見捨てられたヒロインに扮したレニー・ゼルヴィガーが圧倒的な存在感を示していた。

借金や不払いで住むところもなくしたジュディはロンドンでの公演をオファーされる。英国では人気絶大でチケットは完売、用意されたスイートルームに機嫌よくなるが、リハーサルは拒否してしまう。

せっかく復帰するチャンスにもかかわらず、大切に扱ってくれる人々の期待をあえて裏切る行動をとるジュディ。まるで自分のワガママをどこまで聞いてくれるかを測る駄々っ子のごとき態度は、大人としか交流してこなかった少女時代の名残り。一方で、彼女で一儲けを企むミッキーという若い男の甘い言葉は鵜呑みにし、4度の離婚歴にも懲りず白馬の騎士を待つような幻想を抱いている。1969年の47歳は2020年の60歳ぐらい老けている。なのに精神的にはまったく成長していないジュディの大人げない姿が哀切を誘う。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

当初は好評だったものの、客を罵倒したりステージで倒れたりしてジュディは契約を打ち切られる。それでも、お情けで握らせてもらったマイクで彼女は “Over the rainbow” を披露する。ファンにとってジュディは永遠のドロシー、彼女自身もドロシーのままだったのだろう。現実はどれほど厳しくとも、彼女が歌った夢と希望はいつまでも人々の心に生き続けているとこの作品は訴える。

監督  ルパート・グールド
出演  レニー・ゼルウィガー/ジェシー・バックリー/フィン・ウィットロック/ルーファス・シーウェル/マイケル・ガンボン
ナンバー  9
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/judy/

9人の翻訳家 囚われたベストセラー

 

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密室に閉じ込められた複数の男女。外部とは連絡が取れない。だが、彼らにしか知らされていない秘密がすっかり漏れている。物語は、人気作家の新作を発売前に公表すると脅された出版エージェントと脅迫者の駆け引きを追う。容疑者は集められた翻訳家たち。彼らには完全なアリバイがある。ひとりではできない。誰が計画したのか、誰が協力者なのか、その動機は? 文学を商品ととらえ金儲けの手段にする社長と、文学を芸術として愛する翻訳家たち。権力や暴力では抑えつけらない魂の自由を信じる翻訳家たちは団結して社長と対峙するが、やがて心の弱い者は脱落していく。二重三重の仕掛け、あっと驚く犯人の大胆な行動、そして過去に秘められた因縁。久々にミステリーの醍醐味を味あわせてくれる作品だった。

地下シェルターに監禁された9人の翻訳家が作業を進めていると、雇い主・エリックのスマホに “期限までにカネを支払わなければ数十ページずつネットに公開する” というメールが入る。

エリックは犯人探しを始めるが、当然名乗り出る者はいない。翻訳者の間でも疑心暗鬼が募り、お互いを監視する。モニターに残された記録も、犯人が9人の中にいることを示唆している。皆エリックに反感を抱いている。それでも全員が彼を憎んでいるわけでもない。自己主張の強い者、慎重な者、のめり込むもの、シニカルな者、クールな者。それぞれを個性的に描き分けて人物像に奥行きを持たせ犯人捜しの興味を盛り上げていく手法は古典的だけれども、力強い映像がぐいぐいと引っ張ってくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

エリックは反抗的な英国人の若者・アレックスにアタリをつけ、秘書に身辺調査させると、疑わしい証拠が次々と出てくる。しかし、脅迫の手口まではわからない。ひとつ謎を解いてもまたその先に待ち構えている謎。どんでん返しと思わせてさらにもうひとひねりを加えたサービス精神。出版前の本を “人質” に取る斬新なアイデアと巧妙なトリックに目を見張っただけに、最後まで非暴力を貫いてほしかったが。。。

監督  レジス・ロワンサル
出演  ランベール・ウィルソン/オルガ・キュリレンコ/ アレックス・ロウザー/フレデリック・チョウ/マリア・レイチ/サラ・ジロドー/パトリック・ボーショー
ナンバー  16
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/9honyakuka/