こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ビフォア・サンセット

otello2005-02-14

ビフォア・サンセット BEFORE SUNSET

ポイント ★★★★
DATE 05/2/8
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 リチャード・リンクレイター
ナンバー 18
出演 イーサン・ホーク/ジュリー・デルピー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


旅先で出会った異性は3割増以上素敵に見える。そして一緒に過ごした時間が短いほど、別れたあとの相手が必要以上に美化される。ウィーンでの一夜は主人公の胸のうちで熟成し、9年の歳月は記憶の中の女をいつしか彼の理想の女性にまで変えてしまった。しかし、非日常は日常の前には無力。だが30歳を過ぎた2人はそれ以上に人間として成長し、思い出を色あせさせない配慮を身につけている。そんなところが「ビフォア・サンライズ」とはちがう大人の洗練と芳醇を感じさせてくれた。


ウィーンでの出来事を出版したジェシーはパリで出版会見を開く。そこにセリーヌが現れ、2人は再会。しかしジェシーに残された時間は85分。9年の空白を埋めるかのように2人はパリの街を歩きながら語り合う。


ほとんど間が開くことがなく2人の口から言葉が飛び交う。半年後に再会する約束が果たせなかったことから、世界の環境・貧困問題からお互いの恋やセックスまで話題は尽きない。カメラはその2人の会話を淡々と追うだけで、過剰な演出は一切ない。しかしそれこそがこの映画のテーマ。深刻な話題も日常生活も同列、むしろその会話の内容よりも2人が楽しそうに言葉のキャッチボールを交わす様子がまばゆいばかりに輝いているのだ。


劇的なことは何も起こらない。これほど自分の気持ちを正直に相手にさらし、打ち溶け合えることこそが劇的なのだ。ただ、ウィーンとは違い、パリはジェシーにとっては異国でもセリーヌにとっては生活の場。公園をさまよい観光船に揺られているうちはよいが、セリーヌのアパートを訪れた時、ジェシーは落胆しなかっただろうか。相手の話を聞いているだけなら現実には目をそらせることができるが、実際にセリーヌの生活の場を見てしまったジェシーは恋の夢から覚めた気分だっただろう。夢や幻想は非日常でこそ光を放つのだ。


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