いつか眠りにつく前に EVENING
ポイント ★★★*
DATE 07/12/26
THEATER SG
監督 ラホス・コルタイ
ナンバー 264
出演 クレア・デインズ/トニ・コレット/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/パトリック・ウィルソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
命の火が燃え尽きようとしているとき、封印していた過去を思い出す。自分が原因で若者を1人死なせ、自分もまた愛を失ってしまう。決して忘れることができないのに、誰にも語れない。しかし意識が朦朧としていく中でその思いは堰を切ったように口からあふれだす。罪の意識と後悔、それでも生きて子供を産み育て、愛した記憶にあふれた人生に失敗などないという、人の一生を肯定する姿勢がすばらしい。死の恐怖をより生きた満足感、それこそが安らぎに満ちた旅立ちに必要なものだ。
余命いくばくもないアンのもとにコニーとニナの2人の娘が見舞いに来る。アンが繰り返すうわごとは、彼女の若いときたった二晩だけ一緒に過ごしたハリスという男の物語。そのときの出来事がアンのその後を決定付けていた。
アンは親友・ライラの結婚式に出席、ライラの弟・バディを交えこの姉弟がハリスに抱いている複雑な感情を知る。ライラは本当はハリスを愛しているのに他の男と結婚する。バディは姉のそんな気持を知りつつ、男として非の打ち所のないハリスを尊敬している。しかし、ハリスは家政婦の子で、どうやらライラたちとは異母兄弟らしい。さらにバディはずっと愛していたアンをハリスに奪われてしまうのだ。金持ちの家に生まれても、本当の愛には恵まれない姉弟。バディの複雑な胸中がやがて悲劇を生む。
そんな体験があったおかげで、仕事にも夫にも恵まれなかったアンは自分の人生は中途半端だったと思い込んでいる。しかし、2人の娘たちに打ち明けることで、また娘たちの悩みを聞きアドバイスをすることで考えが変わっていく。星、花、鳥、シンボルを決め、それを見たときにお互いに相手を思い出す、そんなロマンティックな瞬間を他人と共有できるからこそ、人は生きていけるのだ。すべてを語り終え静かに息を引き取るとき、懐かしい海辺の別荘に帰っていくアン。夕暮れの情景にひっそりとたたずむ思い出の場所は、精一杯生きた人間の人生はすべて美しく輝く、だから死を受け入れることができるということを物語る。