やさしい嘘と贈り物 Lovely,Still
ポイント ★★★
監督 ニック・ファクラー
ナンバー 301
出演 マーティン・ランドー/エレン・バースティン/エリザベス・バンクス/アダム・スコット
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
朝目覚め、鏡の中を見つめる。その顔には深いしわが刻まれ、目は落ちくぼみ、白髪には張りがない。主人公は老いを自覚しながらも身だしなみを整える。昼間はスーパーでレジの補助をしつつイラストを描く彼の後ろ姿に、独居老人の現実が恐ろしい影となってのしかかっていく。そんな彼が新たな出会いによって、まるで少年のようにウキウキと心を弾ませるシーンが微笑ましい。いくつになっても恋の予感は人を若返らせる魔法の薬であることを思い出させてくれる。
クリスマスが近づくが、のロバートは自分で自分にプレゼントを買う冴えない日々。ある日、近所に引っ越してきたメアリーという女性と知り合い、デートの約束を交わしたことから、ロバートの日常は変わっていく。
時折挿入される脳神経細胞のような映像がロバートの病状を物語る。彼のボケ症状はある部分で深刻な状況にあり、とても1人暮らしできる状態ではない。いつもきれいに片付いているのは誰かが手入れしているおかげなのだが、ロバート自身は気付いておらず、ほんの数日間の記憶しか残っていない様子。もはや回復は望めないならば、せめて楽しい思いをさせてあげたいという家族のロバートへの愛情が切なくも美しい。
カメラはロバートの視点で語るため、一見彼が新しい人間関係のなかで生きる目的を見出していく物語に思える。しかし、メアリーを始め成人した子供たちがロバートをそっと見守っている構成が明らかになっていく。クリスマスに自殺を決意しているように、彼自身己の脳活動の退化にもどかしさを覚えていて、少しでも人間の尊厳が残っているうちに死のうとしていたのだろう。その決意すら忘れているようだが。ロバートから見た世界は諦めかけていた人生に再び希望が湧いていく過程、メアリーたちは元気を取り戻していくロバートに幸せだったころの思い出を重ね合わせる。過去は共有できない、それでも現在と未来の愛を分かち合い、もう一度仲の良い家族に戻ろうとするメアリー達の姿に、満ち足りた老後を送るために必要なものは何かを教えられた。