ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男 THE HOAX
ポイント ★★*
監督 ラッセ・ハルストレム
出演 リチャード・ギア/アルフレッド・モリナ/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ホープ・デイヴィス/ジュリー・デルピー/スタンリー・トゥッチ
ナンバー 59
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
人を騙すなら、壮大で意表を突くディテール豊かなホラを吹くべし。そして騙す側も真実だと信じるくらいにのめり込むと同時に、事実を巧みにちりばめて相手が望むストーリーに仕立て上げる。そんな「これぞ小説の醍醐味」のような設定を、ノンフィクションとして発表しようとしたライターが辿る綱渡りの日々と転落の有為転変を、映画はシニカルに描く。功名心に駆られるあまりに主人公がついた小さな嘘が、骨格を得て血肉を成すまでの過程で、己の妄想にがんじがらめにされていく心理的圧迫感がリアルに再現されていた。リチャード・ギアとアルフレッド・モリーナの若づくりが奇妙な違和感を醸し出し、この怪しげな物語にハッタリを効かせている。
新作の企画をボツにされたクリフは、世間を拒み人を寄せ付けない伝説の実業家ハワード・ヒューズの伝記の執筆を思いつく。出版社に提案すると快諾、前金を元に調査員のディックと共に資料探しを始める。
雑誌の記事から筆跡を真似て手紙を偽造し、ニュースフィルムから声や話し方の特徴をマスターしてインタビューをでっちあげる。その手紙や録音テープを証拠にクリフとディックは出版社を手玉に取っていくが、真贋を調査する場面の「不正がばれるのでは」というクリフとディックの緊張感は、胸を締め付ける息苦しさだ。一方で国防総省から極秘ファイルを盗み出したりヒューズの元側近のメモを勝手に持ち出してコピーしたりするなど、現代ならネット経由でハッキングで済ますことも果敢な行動力でカバーし、彼らの能力高さを証明する。
◆以下 結末に触れています◆
その後クリフは幻覚に憑りつかれたりするが、それは罪の意識よりヒューズの私兵に命を狙われる恐怖が原因。モラルハザードより、むしろクリフは自分の手に負えないほど大きくなった事態に驚いているのだ。結局、クリフが暴露した「事実」が遠因でニクソンが失脚したところを見ると、クリフもまたヒューズの掌の上で踊らされていただけなのか。恐ろしさ以上に“権力”の狡猾さを感じさせる作品だった。