マジック・イン・ムーンライト MAGIC IN THE MOONLIGHT
監督 ウディ・アレン
出演 コリン・ファース/エマ・ストーン/ジャッキー・ウィーバー/ハミッシュ・リンクレイター/マーシャ・ゲイ・ハーデン/
ナンバー 5
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
人間嫌いでアーティストを気取り、見たこと以外は信じない。ステージでは“奇跡”を見せ観客に夢を売っているのに、素顔に戻ると科学を信奉するリアリスト。誰と話をしても相手の欠点を目ざとく見つけ、ちくりと最後に一言加える鼻持ちならない英国人をコリン・ファースが嫌味たっぷりに演じる。そんな男が出会ったのは、若く美しい米国人霊能者。物語は、透視のトリックを見抜くために雇われた主人公が彼女に魅了されていく過程を描く。どんな辛辣な皮肉もさらりと受け流す霊能者は、明るく社交的で笑顔は魅力的。何事も論理的に解説しなければ気が済まなかった彼が、己の信念を180度転換させられる。マジックの仕掛けは頭で理解できる、だが自らの心の炎は説明がつかない。その思いが恋なのだ。
人気マジシャン・スタンリーは米国人富豪の南仏にある別荘に招かれ、ソフィが主催する交霊会に参加する。その後も正体を言い当てられた上におばの過去を霊視され、スタンリーはすっかりソフィの能力を信じ込んでしまう。
引用とウイットに富んだテンポの速い会話はこの作品でも健在、米英の価値観の対立項として機能している。“人生には幻想も必要”と米国人たちはおおらかに暮らしを楽しんでいるのに、スタンリーは堅苦しくロジカルに考えたがる。実際にアレンがロンドン滞在中に体験したのだろう、誇張はあるにせよ“米国人から見た英国人”像がスタンリーの振る舞いに凝縮されていた。ソフィへの疑念を豹変させた後も彼女との距離感は縮めないスタンリーの不器用さは、余計なプライドほど自分を縛るものはないと教えてくれる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
象を消すのも胴体を二つに切るのも、人が生み出したイリュージョン。しかし、ふたりの間に芽生えた感情はリアル。スタンリーが得意とする瞬間移動が伏線として生かされ、真実が明らかになってもなおソフィを求める気持ちが強くなる。磁石の両極のようなふたりが次第に惹かれあっていく姿は洗練された洒脱の極み、愛こそが人を変えると訴えていた。
オススメ度 ★★★*