こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スーパーノヴァ

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もう正常でいられる時間が長くないとわかっている。ならば、その時が来る前に愛し合った人と最後で最良の思い出を作りたい。物語は、長年連れ添ったゲイカップルが親しい人たちに別れを告げに行く旅を描く。作家とピアニスト、お互いにアーティストとして尊敬している。性格も知り尽くしていて、相手が何を考えているのかもわかる。だからこそ生きているうちは尊厳を保ちたいし、美しい思い出となって記憶に残りたいと願う。旅の終わりは別れの始まり、それが分かっているからこそ後戻りはできない。子供ができないから片方がいなくなれば本当にひとりぼっちになってしまう。そんなことは理解していたつもりだが、いざ現実となるとうろたえる。同性愛者として生きる道を選んだことを、決して後悔はしていないけれど、彼らの背中からは家族のいない寂しさがにじみ出ていた。

サムとタスカーは、キャンピングカーでサムの姉・リリーの家を目指す。道中、ドライブインに寄ったり人里離れた湖畔で1泊したりするが、タスカーの認知症は確実に彼の理性を蝕んでいる。

イギリスの田舎、どこまでも続く1本道はほかに人も自動車も見当たらない。どんよりとした鉛色の空は今にも雨が降り出しそう。それでも夜になると晴れるのか、天体望遠鏡で銀河の果ての超新星爆発を観測しようとする。リリーの家に到着後、タスカーはリリーの娘にも望遠鏡で星空を見せ、宇宙の成り立ちと人間のつながりを語る。星の一生に比べれば人間の存在なんて目に見えないほどちっぽけなものと教えるタスカーの言葉は、死を覚悟したものだけが持つ心の平穏に満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

サムはタスカーの私物から自殺の決意を固めていることを知る。その際、タスカーのネタ帳を読むが、前半は明快な文字でびっしりと書き込まれたのに少しずつミミズがのたうち回るような字に代わり、やがて何もない空白のページになる。その過程がタスカーの思考能力を象徴し、少しずつ自分が壊れていくのを自覚するタスカーの恐怖がにじみ出ていた。

監督  ハリー・マックイーン
出演  コリン・ファース/スタンリー・トゥッチ/ピッパ・ヘイウッド/ジェームズ・ドレイファス
ナンバー  120
オススメ度  ★★*


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