こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

哀れなるものたち

ビビッドだがやわらかな色彩、丸みをデフォルメされた造形、そこで繰り広げられるヒロインの冒険はエロティックで刺激的。ティム・バートンの世界観により深い奥行きを与えたような映像はユニークで、ヒロインが見聞する嫉妬と欲望に塗れた人間界の業を胸躍る悪夢に変換する。物語は、赤ちゃんの脳を移植された女が自己探求の旅を通じて成長していく姿を描く。マッドサイエンティストの実験台だった。真面目な婚約者がいた。ところが、女たらしの男に見せてもらった下界はむしろ彼女を啓蒙し、さらなる冒険に彼女をいざなっていく。脳が体にフィットおらず所作も言葉もぎこちなかった彼女が徐々に滑らかに関節を動かし語彙を増やしていく過程は、好奇心と体験こそが人を成長させると教えてくれる。エマ・ストーンの身体表現力に目を見張った。

ゴドウィンに生み出されロンドンの屋敷で生活していたベラはダンカンとリスボンに駆け落ち、セックスの気持ちよさに目覚める。同時に街で見聞を広めていく。

ベラは目にした現実と耳にした言葉を丁寧に吟味し蓄積していく。ディープラーニング並みのスピードで学習し、さらに読書で心も豊かにし、ダンカンの卑小さに嫌悪を覚え始める。そして貧民窟で死んでいく子供たちを見て何をすべきかを知る。ゴドウィン邸に閉じ込められ無知で無垢だったベラが自由を知り自我に目覚め矛盾に気づき自立していく。肉体という資源を最大限に生かして「男」とは何かを研究するシーンは陳腐なフェミニズムにおもねることなく、売春ですら女としての価値を高める崇高な儀式に昇華していた。肛門に指を入れるか首を絞めるとイクというのは本当なのだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ロンドンに戻ったベラはゴドウィンの弟子・マックスとの結婚に同意する。そのころにはベラはすっかり近代的な知識と価値観を身に着け、文学哲学医学などゴドウィンらと対等な会話ができるようになっている。一方で女を見下す男たちが身を滅ぼすのは痛快だった。その点、パリジャンは変わっているが洗練されていた。

監督     ヨルゴス・ランティモス
出演     エマ・ストーン/マーク・ラファロ/ウィレム・デフォー/ラミー・ユセフ/ジェロッド・カーマイケル/クリストファー・アボット/スージー・ベンバ/キャサリン・ハンター/マーガレット・クアリー/ハンナ・シグラ
ナンバー     15
オススメ度     ★★★★*


↓公式サイト↓
https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings