こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

守護教師

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盛り上がった肩、分厚い胸板、太い首と腕、鋭い眼光。重厚な筋肉の鎧をまとった彼の肉体はそばにいるだけで災厄から守ってもらえそうな安心感がある。物語は、体育教師として地方都市の女子高に赴任した男が、失踪した生徒の行方を追ううちに巨大な悪と戦う過程を描く。職員室には箝口令が敷かれている。警察も非協力的。生徒からはうざいオッサンと白い目で見られる。そんな状況で不明生徒と親友だった少女と力を合わせ、隠蔽された犯罪をひとつずつ探り出していく。イケメン美術教師、キャバクラと売春組織、女子トイレの盗撮カメラ、尾行する黒い影etc. 少女に魔の手が伸びるたびに圧倒的なパワーでチンピラどもをなぎ倒していく主人公の、不器用だけれど優しく正義感にあふれた広い背中が頼もしかった。

授業料未納生徒から回収するうちにスヨンという生徒が無断欠席していると報告を受けたギチョル。同じくスヨンを探すユジンがキャバクラに入るのを目撃、従業員に囲まれた彼女を連れ戻す。

学校でスヨンを心配しているのはなぜかユジンのみと知ったギチョルは、さらに深く首を突っ込んでいく。美術教師のクルマに乗ったユジンを追跡し緊縛されているところを助けると同時に、美術教師から意外な事実を訊きだすギチョル。女子高の理事長は知事候補で警察に影響力があり裏社会にも通じているという。深入りしすぎたギチョルが理事長から退職を勧められるシーンで、ギチョルの妹が多額の寄付金を高校に納めていたことが発覚するが、教師の職でさえ “売買” されるあたりが韓国社会のいちばんの闇に思えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、スヨンの死体が見つかったり、ユジンが再び美術教師の手に落ちたりするなど、ゆる~い展開が続く。そしてギチョルとユジンは事件の真相に近づくが、そこでも謎解きなのかアクションなのか方向性が定まっておらず中途半端な印象は拭いきれない。そもそも、マ・ドンソクのようないかつい男が女子高生をバディにする設定は、コメディにしてこそ生きてくると思うのだが。

監督  イム・ジンスン
出演  マ・ドンソク/キム・セロン/イ・サンヨプ/チン・ソンギュ
ナンバー  188
オススメ度  ★★


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http://syugo-kyosi.com/

あなたの名前を呼べたなら SIR

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パーティ用の飲食物を準備し給仕する一方で、キッチンでは床に座って手づかみで食事をとる使用人たち。西洋風の洗練されたライフスタイルを楽しむ上流階級とは対照的にいまだ前近代的な下層民の日常なのだろう。物語はインドの大都会、高級マンションで単身暮らす男に仕える住み込みメイドの自立を描く。格差という言葉では足りないほどの生活レベル差は先祖代々の社会システムのなかで受け継がれてきたもの。それでも米国で教育を受けてきた男は彼女を対等な人間として扱い、弱い者の現状を理解している。ところが、身の程を知る女は、家族のしがらみに戸惑い悩み、最初の一歩が踏み出せない。時代遅れの価値観を打ち破るには “上” からの改革を待つのではなく、まず自分から行動する勇気持つべきとヒロインの葛藤は訴える。

建設会社社長の息子・アシュヴィン宅で働くラトナは未亡人の立場に縛られ不自由な人生を送っている。ある日、デザイナーになる夢を実現するために専門学校に通い始める。

恋人の裏切りで婚約破棄したアシュヴィンは不機嫌を隠し彼女の悪口をラトナの前で言ったりはしない。それだけでなく、ラトナに対する姉の厳しい態度を非難したりするなど、リベラル思考の持ち主でもある。ラトナはアシュヴィンを旦那さまと慕う。アシュヴィンもラトナに、同クラスの女にはない奥ゆかしさを覚えている。でも彼らだけではカーストの壁は乗り越えられない。それはヒンズー教徒にしかわからない心身に染み付いた感覚。むしろラトナのほうがこの不条理にどっぷりつかり、そこから抜け出すのを恐れているようだった。ブティックから追い出されるシーンが彼女の諦観を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アシュヴィンも男、バーでナンパした女を連れ込んだりもするが、少しずつラトナとの距離を縮めていこうとする。そしてラトナはキスを許してしまう。しかし身分違いの恋はインドではいまだにタブー。カースト制度に守られていると感じている下層民が多数派を占めている限りカーストはなくならないのだ。

監督  ロヘナ・ゲラ
出演  ティロタマ・ショーム/ヴィヴェーク・ゴーンバル/ギータンジャリ・クルカルニー
ナンバー  185
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://anatanonamae-movie.com/

世界の涯ての鼓動 SUBMERGENC

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恋は “する” ものではなく “落ちる” もの。たった数日間でそれまでの全人生に匹敵するほどの濃密な時間を共にした男と女は、現実に戻った後もなおお互いのへの強烈な思いを抱き続ける。物語はスパイと海洋生物学者の愛と信念を描く。地球生命の起源と考えられる微生物を探索する女は、男の正体を知らぬまま彼からのメッセージを待っている。一方で、穴倉に監禁され拷問される男が折れそうな心の支えにしているのは、彼女と過ごした日々の思い出。強い日差し、切り立った崖、狭い砂浜、緑濃い草原、吹きつける風、打ち捨てられたコンクリートブロックetc. 自然との距離が非常に近く感じられる北西フランス海岸の風景が、過酷な環境に置かれるふたりの運命を予感させる。

ノルマンディのホテルで出会ったジェームズとダニーは、まったく違う世界に住む相手に惹かれる。深海生物を数学的に解明しようとするダニーは、潜水艇での調査を控えていた。

水道技師と身分を偽っているジェームズは自分の身の上を詳しくは話せず、ずっと聞き役に回っている。研究者にはいないタイプなのだろう、ダニーもジェームズに夢中になっていく。落ち着いた会話の中で理解を深めていったふたりが服を着たまま冷たい海に入るシーンは、大人同士の恋愛にも十代のような情熱的な衝動が必要と訴える。そして、任地に旅立つジェームズがタクシーを止めてダニーと通話する時の表情は、なによりも大切なものを見つけたのに、今さら普通の暮らしは送れないスパイの哀しみに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジェームズはテロ集団に接触しようとして捕らえられるが、アジトを突き止めるまでは救援を呼べない。ダニーが乗る潜水艇は深海で電力を失っても自力で脱出するしかない。絶体絶命の状況で、ジェームズもダニーも最愛の人に助けてもらうどころか連絡すら取れない。もし命を落としても報せが届くことはないはずだ。それでも、再会を固く信じて目の前の危機を克服しようとするふたりの姿は、希望こそが人間を強くすると教えてくれる。

監督  ヴィム・ヴェンダース
出演  ジェームズ・マカヴォイ/アリシア・ヴィキャンデル/アレクサンダー・シディグ/ケリン・ジョーンズ/レダ・カテブ
ナンバー  184
オススメ度  ★★★


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http://kodou-movie.jp/

風をつかまえた少年 THE BOY WHO HARNESSED THE WIND

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電気もない水道もない。乾電池式のラジオと自転車はあるけれど不作で学費が払えない。深刻な飢饉に見舞われても政府からの援助は期待できない。そんな時、村を救ったのはアイデアと創意工夫。物語は、手作りの風車で灌漑に成功した少年の戦いを描く。いまだ家父長制が色濃く残るアフリカの発展途上国、族長の権威は絶大。部族を守るための方策は裏目に出て、村の生活は先細りするばかり。デモクラシーを騙る独裁者に訴えても暴力で封じ込められる。せっかく届いた物資も民衆には行き渡らず、食糧強盗まで現れる。21世紀の話とは思えないほど先進国と乖離した人々の暮らしぶりは衝撃的だった。カネやモノでは近代化は進まない、彼らが伝統や因習にとらわれている限り貧しさから脱却できないと主人公の勇気が証明していた。

干ばつと洪水で授業料を払えなくなったウィリアムは教室から追い出される。だが、ごみ捨て場で拾ったガラクタから風力発電を思いつくと、図書館に紛れ込み独学で風車の作り方を学ぶ。

もともと指先が器用なウィリアムはラジオの修理などを請け負っていて、メカには強い。しかし風車の部品とポンプやバッテリーは見つけられても、発電のためのダイナモがなかなか手に入らない。自転車にはついているが、高価な貴重品で誰も譲ってくれない。今日の食べ物の確保といった目先のことしか考えられなくなった父親を説得するシーンは、好奇心と向学心、何より現状を変えようとする向上心こそが未来を豊かにすると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アフリカには数十年以上にわたって支援が行われてきた。ところが、機能せず役人や政治家を太らせるだけだったり、作った施設もメンテナンスされずに放置されたりする。一方で、与えるともっとよこせというのは人間の本性。先進国がすべきなのは、食料でもインフラでも、途上国の人々自身が考えて彼らの手で作り上げる過程の手助けだとこの作品は訴える。ウィリアムの風車で潤った大地に芽吹いた作物は、彼らの腹以上にプライドを満たしたはずだ。

監督  キウェテル・イジョフォー
出演  キウェテル・イジョフォー/マックスウェル・シンバ/アイサ・マイガ
ナンバー  182
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://longride.jp/kaze/

ワイルド・スピード/スーパーコンボ FAST & FURIOUS PRESENTS: HOBBS & SHAW

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タイトなスーツは銃弾は跳ね返す。増強された視力はどんなに早いパンチやキックも見切る。火器格闘技に精通し自走バイクを自在に操る。全身黒ずくめ、その不死身の男はアベンジャーズ並みの強靭さを誇る。物語は、2人の剛腕エージェントと超人的殺し屋の激闘を描く。鍛え上げられた筋肉の鎧と腕力だけでは敵わない。洗練された身のこなしとスピードで挑んでも歯が立たない。だが2人で協力すれば突破口が見つかるかもしれない。スキンヘッドとスキンヘッド、ライバル心丸出しの2人は強大な敵から人類を守るという目的を共有することで巨大な陰謀をつぶしていく。全編アクションに次ぐアクション、銃撃戦から肉弾戦、カーチェイスから爆破炎上まで、あっと驚く仕掛けの連続に時間を忘れた。細かい展開も覚えていないけれど……。

新型ウイルスを体内に取り込んで姿を消した工作員・ハッティを探すためにホブスとショウが召集される。さっそくホブスはハッティを逮捕するが、彼女はショウの妹だった。

一方肉体改造を施されたブリクストンもウイルスを奪還するためにハッティを追っている。彼女の身柄を抑えたいブリクストンと、彼女の体内のウイルスを無力化するための装置を手に入れたいホブス&ショウはロシアにある研究所で再び対峙する。その間、追う者と追われる者が複雑に交差し立場を変え、もはやストーリーは二の次。圧倒的な疾走感と重量感、文字通り力業でねじ伏せるかのごとき見せ場の波状攻撃は考える暇を与えてくれない。唯一、ハッティを演じたヴァネッサ・カービーの流麗で理に適った護身術が人間らしさを感じさせてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ハッティを取り戻した2人は、ホブスの故郷・サモアでブリクストンの軍団を迎え撃つ。その際ホブスと彼の一族は銃器の使用を一時的に無効にし、大鉈や棍棒といったサモア伝統の武器を手にする。そして荒唐無稽ともいえるヘリ対4輪バギーの馬力比べ。ヴィン・ディーゼルポール・ウォーカーが公道レースに命を懸けていたころが懐かしかった。

監督  デヴィッド・リーチ
出演  ドウェイン・ジョンソン/ジェイソン・ステイサム/イドリス・エルバ/ヴァネッサ・カービー/ヘレン・ミレン/クリフ・カーティス
ナンバー  183
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://wildspeed-official.jp/

サウナのあるところ Miesten vuoro

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自宅の離れ、森に停めたキャンピングカー、湖畔のテント、街中のビルの一角、果ては改造した公衆電話ボックス風の移動型……。どこにいても人々はサウナを楽しんでいる。映画は、サウナをこよなく愛する市民に密着、そこで汗を流す彼らのさまざまな人生を掬い取っていく。共にするのは古い友人かもしれない。たまたま隣に座った他人かもしれない。TVも音楽もない空間、手持無沙汰の時間を埋めるのは何気ない会話だけ。当たり障りのない天気の話や世間話にも飽きたのか、彼らは込み入った身の上話を語り始める。複雑な親子関係に苦しむ者もいる。犯罪から立ち直った者もいる。家族を引き裂かれた者もいる。だが、胸に溜まった澱を吐き出した後の彼らはみな生き生きとした表情に戻っている。体のみならず心もリフレッシュする、それがサウナの効能なのだ。

食事の後に、仕事終わりに、週末のキャンプに、日中の暇つぶしに、サウナに集まる人々。熱石に水をかけ白樺の葉束で背中を叩きシャワーを浴びる。彼らはそんな至福のひと時を待ちわびている。

フィンランド国民は、設置できる場所があればすぐに薪ストーブを持ち込み水蒸気を発生させる。室内は何度くらいで何分ぐらい入っているのかはわからないが、それほど暑苦しくはないようだ。汗だくになっているわけでもなく、日本人のようにサウナを出たあとに冷水を頭からかぶったりもしない。あくまでぬるま湯で筋肉や関節をほぐしているような感じがいい。いや、むしろ社交の場として機能しているのだろう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ひとりでサウナに入っているおっさんは、実は長い付き合いの友だちがいる。それは熊。小さなころから飼いならし一緒にサウナに入っていたのに、2メートルくらいに成長した今では、当然サウナに見向きもしない。それどころか庭のテーブルを壊したりする。でもおっさんは怒ることなく熊を見つめている。彼らは余人に理解しがたい信頼関係で結ばれている。人間ばかりではない、サウナはまたペットとの絆も深めてくれるとこの作品は教えてくれる。

監督  ヨーナス・バリヘル/ミカ・ホタカイネン
出演 
ナンバー  163
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://www.uplink.co.jp/sauna/

ペット2 THE SECRET LIFE OF PETS 2

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飼い主との関係は良好、同類ともうまくやっている。人間の赤ちゃんの成長を見守るのも楽しい。でも家族とアパートでまったりし公園を散歩するだけの閉じた世界にどっぷりと浸かっていていいのか? 物語は、都会で飼いならされたペット犬が忘れていた勇気を取り戻し、虐待されている動物仲間を救出しようとする姿を描く。愛玩動物となって人間のそばで暮らすのではなく不可欠なパートナーとして働いている農場の犬は、自分より数倍大きな家畜にも恐れずに向かっていく。ところが、ぬるま湯のような生活に馴染んでいた主人公は、小さな命を守ろうとして足がすくんでしまう。それでも、信じてくれている他者がいると知った彼は思い切って一歩を踏み出す。己のためではない、誰かのためだからこそ不思議な力が湧いてくるとこの作品は訴える。

ケイティ一家の旅行に随伴したマックスとデュークは宿泊先の農場で労働犬・ルースターと出会う。強靭で厳格なルースターは、人間の役に立つとはどういうことかをマックスに示す。

一方NYでは、スノーボールとデイジーがサーカスのトラを解放する作戦を実行に移す。仕込まれた芸ができず檻の中でオオカミに脅える気弱なトラをスノーボールたちはなんとか脱出させ、アパートに匿う。だが、追っ手に連れ戻されるトラ。旅行から帰ってきたマックスたちもスノーボールに加勢して、次の巡業地に運ばれていくトラの後を追う。疾走する列車の上で繰り広げられる大活劇は、さまざまな実写アクション映画のいいとこ取りしたようなスリリングな展開で、キュートな外見のペットたちの意外な能力が楽しめた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

並行して、猫に変装した愛玩犬・ギジェットが奮闘する。先輩猫の指導の元、忠実に仕えるのではなく己の欲望に従い気まぐれに行動する性質を叩き込まれるシーンは、猫の本質を突いていて思わず笑ってしまった。素直に命令を聞くが愛情の見返りを求める犬よりも、思い通りにならないけれど適度な距離感でつきあえる猫のほうが、やっぱりかわいい。

監督  クリス・ルノー
出演  パットン・オズワルト/ケヴィン・ハート/エリック・ストーンストリート/ジェニー・スレイト/ハリソン・フォード/ティファニー・ハディッシュ
ナンバー  181
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://pet-movie.jp/