こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

よこがお

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信じていたのに。2人の秘密だったのに。私は悪くないのに……。平凡だけれど小さな幸せ、それをもてあそんだ挙句壊したあの女は絶対に許さない。物語は犯罪加害者の身内がいわれなき風評被害に苦しむ姿を描く。誰かに相談すべきだったのか。黙っていればばれることはない。いやそもそも犯人とは親戚だが同居していたわけでもない。無関係とは言い切れないけれど、事件に加担はしていない。それでも新聞・週刊誌やワイドショーはスクラムを組んで取材に押し掛け、わずかな疑惑を拡大して騒ぎ立てる。もはやなにを言っても言葉尻を捕らえられ曲解されてしまう。やがてヒロインは職場を追われ、婚約者に去られ、信用を失っていく。妬み、怒り、憎しみ、それらを抱えて生きる女たちを演じる女優たちの抑制の効いた演技が、リアルな感情となって映像に焼き付けられていた。

訪問看護師の市子は患者の孫娘姉妹・基子とサキの看護師試験のアドバイスをしていた。ある日、市子の甥・辰夫がサキを誘拐、サキは無事解放され辰夫は逮捕されるが、市子の立場は微妙になっていく。

市子を慕っている基子は、辰夫との血縁は知られていないから訪問介護はそのまま続けてくれという。市子も何事もなかったように過ごす。ところが、市子が近々結婚すると知った基子が態度を一変させる。せっかく庇ってあげたのに先に幸せになるのは許せないと、歪んだ思いに駆られた基子がマスコミに市子の個人情報を提供するのだ。崩壊していく日常、それ以上にいつも追い回される不安に脅える市子の、途方に暮れながら追い詰められていく過程が切実だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ほとぼりが冷めたころ、市子は別人になりすまし基子の恋人に接近する。彼の部屋の向かいのアパートから昼夜監視し、基子の訪問も確認した。訪問看護師のころとは髪型もメイクもファッションも変えすっかり洗練された彼女、あとは彼をベッドに誘うだけ。だがそこで待っていたのは運命の皮肉。妄想が先走りする市子の煮え切らなさが、逆に胸にしみる作品だった。

監督  深田晃司
出演  筒井真理子/市川実日子/池松壮亮
ナンバー  180
オススメ度  ★★★


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https://yokogao-movie.jp/

アルキメデスの大戦

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次々と爆弾・魚雷を投下する攻撃機に向けられた対空砲火はほとんど届かない。9門の主砲は一発も発射の機会はなく無用の長物と化している。血まみれになりながらやっと敵機を撃墜しても、パイロットはすぐに救助機に拾われる。そして左舷に傾いたかと思うとそのまま転覆し、艦尾から海に沈んでいく。プロローグ、巨大戦艦の最期は思考停止に陥った組織の悲惨な末路を象徴していた。物語は、日本が国際的に孤立を深める中、時代遅れの戦艦建造を阻止しようとした数学者の奮闘を描く。海軍の伝統に固執する守旧派の不正を暴かねばならない。与えられた時間はわずか、敵に妨害され味方からも白眼視される。そんな中、たった一人の部下を従えあらゆる可能性を試す主人公の姿は、どんな難題にも必ず突破口があり、あきらめたら負けと訴える。

空母建造推進派の山本五十六は、戦艦建造派の予算案の不備をつくために数学の天才・櫂をスカウトする。だが、手に入るのは数枚の資料のみ、櫂は戦艦長門の各部寸法を測ることから始める。

一夜漬けの独学で艦船の構造や造船術を頭にたたき込み、材料費人件費等の見当をつける櫂。アイデアが閃いたら即行動に移す積極性は、付け人となった田中少尉の硬直した思考をはるかに凌駕する。ところが櫂の変人めいた言動は実は全く無駄がないと、ほどなく田中は知る。やがて櫂は、大阪の協力者が持つデータをもとに艦船全体の鉄の総量から建造費をはじき出す方程式を考え出す。このあたり、軍人の権威など屁とも思わず自らの使命にまい進する櫂のユニークかつ筋の通った生き方は、空気を読まない勇気の裏には説得力のある理論武装が必要と教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、戦艦建造派の平山のとんでもない論理の飛躍には開いた口が塞がらなかった。建造費を低く見積もって米英に秘匿するのは理解できる。しかし、巨大戦艦に日本の命運を重ねるなどとはこじつけもいいところ。結局、空母派の山本と共に櫂も泥船に乗る。その皮肉には運命に対する人間の無力が凝縮されていた。

監督  山崎貴
出演  菅田将暉/柄本佑/浜辺美波/笑福亭鶴瓶/小林克也/ 小日向文世/國村隼/橋爪功/田中泯/舘ひろし
ナンバー  178
オススメ度  ★★


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隣の影 UNDIR TRENU

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きっかけは日差しを遮る大きな木。動物の糞が問題になるとお互いに対する不信感は怒りに変わり、やがてやられたらやり返す壮絶な泥仕合になっていく。物語は隣り合った住宅に住む2組の夫婦の “ご近所トラブル” を描く。だれの仕業かは確たる証拠はない。最初はクレームのつけ方も丁寧だった。だが理解し合えないとわかると、報復はエスカレートしていく。一方で、結婚前に元恋人と撮ったセックス動画を見ていただけで妻に離婚を迫られる男。誰もが配慮を欠いている。許容の上限が低くなっている。頭の中にあるのは不満ばかり、自分の正義を主張し押し付けようとしている。そんな中で、集合住宅の集会で司会するする男はへりくだりながらも迷惑住民の顔を立て、なおかつ有無を言わさない。相手の立場を尊重することがあらゆるもめごとの解決に有効だと、彼の態度は教えてくれる。

ポーチにかかる木の影が日光浴の邪魔と隣人のコンラウズから告げられたバルドウィンは剪定に同意するが、妻のインガは反対し両家は険悪になる。その後、嫌がらせが続くが身に覚えはないと双方が言い張る。

インガは長男を亡くし精神的に不安定で、監視カメラを設置した上で次男のアトリが庭で見張りをしていても、かわいがっていた猫が失踪すると暴走する。アトリは妻にアパートを追い出され、愛娘に会うために四苦八苦している。コンラウズの妻・エイビョルグも不妊治療でナーバスになっている。男たちはなんとか丸く収めようと努力しているのに、こじれた関係をほぐそうとしない女たち。理性よりも感情、小さな齟齬も許せない彼女たちはますます周りが見えなくなっていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

より一層大胆かつ陰湿になっていく仕返し。インガにさらわれたエイビョルグの愛犬が戻ってきたシーンは思わずのけぞるほどの衝撃だった。そしてさらなる悲劇の連鎖。不寛容は憎悪を産み、憎悪がもたらすのは最悪の結果。暴力に走る前に対話すべきとこの作品は訴える。猫は気まぐれに旅に出るのをインガは知らなかったのか。。。

監督  ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン
出演  ステインソウル・フロアル・ステインソウルソン/エッダ・ビヨルグヴィンズドッテル/シグルヅール・シーグルヨンソン/ソウルステイン・バックマン/セルマ・ビヨルンズドッテル/ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル
ナンバー  179
オススメ度  ★★★


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https://rinjin-movie.net-broadway.com/

アポロ11 完全版 APOLLO 11

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ロケット発射台が台車に乗せられてゆっくりと運ばれていく。足元で回転するキャタピラーの内径はすぐそばを歩く人の背丈をはるかに超える高さ、その巨大さが人類初の旅に出発するまでに費やされた人智と費用を象徴する。映画はアポロ11号の打ち上げから帰還までを膨大なアーカイブ映像で再現する。ベトナム戦争の泥沼で地に堕ちた米国の威信を回復するために失敗は絶対に許されない。指令室から見守る後方支援スタッフ、屋外特設スタンドに招待されたセレブ、少し離れた空き地でテントやキャンピングカーを持ち込んだ民間人。世界中が息をのむ中、刻一刻と運命の瞬間が迫ってくる。その緊迫感を当時の記録フィルムだけで構成した展開は、映画における編集作業がいかにエキサイティングかつクリエイティブかを教えてくれる。

1969年7月16日、3人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船が発射される。地球を飛び立った宇宙船は予定通りに進み、月の重力圏に入るとできるだけ平らな地面を探しながら周回軌道に入る。

宇宙飛行士たちが乗り込んでから燃料漏れが確認され、指令室はざわつく。今更延期はできない、何とか修正してカウントダウンに入る。わずかな計算ミスが宇宙飛行士の死を招く。そんな重圧の中でロケットが大気圏を抜けたときのスタッフの安ど感が印象的だった。その後、宇宙空間に出たクルーたちが見た光景が挿入されるが、それはまさしく神の視点。人間の理解や想像を超越した絶対的な摂理が存在するのではないかと思わせる圧倒的な美しさだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アポロ11号の歴史的事実はニュースや映画などで誰もが知っている。それでも、今回発掘された数多の人々の発言は新たな発見と感動を呼び覚ます。宇宙空間で一度着陸船を切り離して180度反転させてからドッキングしたエピソードは困難を切り抜けるアイデアとして秀逸。途方もない発想を実現させる突破力こそ人類を進歩させてきたとこの作品は訴える。それにしても当時の宇宙飛行士たちは、8日の間どうやって排泄していたのだろう。。。

監督  トッド・ダグラス・ミラー
出演  ニール・アームストロング/バズ・オルドリン/ ジャネット・アームストロング/マイケル・コリンズ/ジャック・ベニー
ナンバー  177
オススメ度  ★★★


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http://apollo11-movie.jp/

米軍が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯

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“米軍が沖縄に植え付けた民主主義が、沖縄から米軍を去らせた” その言葉に凝縮される「沖縄の主権回復」に人生を捧げた男。罪をでっちあげられて投獄された。被選挙権を剥奪された。パスポート発給を拒否された。それでも「不屈」を座右の銘として彼は闘い続ける。映画は、沖縄の本土復帰と米軍基地反対を訴えた活動家の激烈な半生を追う。膨大な資料映像・写真から戦後沖縄で何が起きていたのかを丁寧に発掘し、往時を知る人々のインタビューから彼の人となりを探っていく。そこで浮かび上がってくるのは鋼鉄の意思の持ち主という人物像。現状を変えるには政治からと那覇市長に立候補すると露骨な妨害を受ける。市長に当選しても議会は敵だらけ、すぐに不信任案を提出される。米軍に依存する経済界もそっぽを向いている。逆境を乗り越える姿は信念を曲げない人間の気高さに満ちていた。

230冊の日記を遺した瀬長亀次郎は生涯を通して米軍と日本政府相手に基地問題を訴えた。政党を作り民衆の支持を集め選挙に勝ち、暴力ではなくあくまで言論を武器にその影響力を高めていく。

1950~60年代、沖縄統治の最高責任者たる高等弁務官は軍人が勤めていた。つまり政治家ではなく米軍による支配。反基地運動が起きると米軍は故意に断水させ市民生活を干上がらせる。フェンスの向こうの米兵一家が芝生に水を撒いているところを指をくわえて見ているだけだったという証言が、その当時の米軍と沖縄市民の力関係を象徴していた。何度も繰り返される米兵の不祥事に沖縄の政治や警察は手も足も口も出せない。民衆の怒りはそのまま亀次郎への期待と変わっていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして迎えた沖縄の日本返還、晴れて国会議員となった亀次郎は時の首相・佐藤栄作と対峙する。要点を得ずああでもないこうでもないと、沖縄時代とは打って変わって論理的ではないスピーチを延々続ける亀次郎に、佐藤も他の議員もうんざりした顔を向けている。その戦術は、要求が通るまでいつまでも終わらせないという新たな決意だったのだろうか。

監督  佐古忠彦
出演  瀬長亀次郎
ナンバー  152
オススメ度  ★★★


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http://kamejiro2.ayapro.ne.jp/

存在のない子供たち  CAPHARNAUM

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“両親を訴える、ボクを産んだ罪で!” 法廷でそう言い放った少年の目は怒りと憎しみに満ちている。怠惰な父と無責任な母は言い訳ばかりを繰り返す。物語は、家族の元から飛び出した少年がなぜ傷害事件を犯したか、その真実に迫る。年齢は本人も知らず、医師に12~3歳と推定される。学校には行かず家計を支えるために朝から晩まで働き詰めだったが、ストリートで鍛えたタフな精神力は多少の困難は跳ね返す。やがて似たような境遇の母子と知り合った彼は初めて他人のやさしさに触れ、特別な感情を抱いていく。だが平穏な時間は長くは続かない。自分を冷たくあしらった世間と過酷な己の運命を呪いながらも人間としてのプライドは捨てていない、そんな、幼くして大人になった主人公の力強いまなざしが印象的だった。

仲の良い妹が雑貨商の嫁に売られたのを機に家出したゼインは、出稼ぎメイド・ティゲストのバラックに転がり込む。ティゲストが日中留守の間、ゼインは彼女の赤ちゃんの世話を頼まれる。

弟妹たちの面倒を見ていたゼインにとっては楽な仕事。ティゲストに親切にされたお返しに赤ちゃんをかわいがることで、愛情が芽生えている。ところがティゲストが突然当局に拘束され、ゼインは赤ちゃんと2人取り残される。ティゲストを探して当てもなく町をさまようゼイン。カネはなく食べものも底をつき赤ちゃんに与えるミルクもない。途方に暮れ難民救済所を訪ねたりもするが、身分証のないゼインは助けを求める声を上げられない。不幸のスパイラルを滑り落ちるようなゼインの転落劇は切なすぎて正視できなかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

闇ブローカーに赤ちゃんを売ってしまったゼインは、出生証明書を取りに家に戻る。しかし、両親は役所への届け出をしておらず、公的にゼインは存在しない。妹は死んだ。他にも兄弟が4人いる。両親は子供を儲けてもまともに育てる気はない。こうして貧困は連鎖する。それでも、強い意志があれば断ち切れる。ゼインの不器用な笑顔に、わずかな希望が見いだせた。

監督  ナディーン・ラバキー
出演  ゼイン・アル=ラフィーア/ヨルダノス・シフェラウ/ボルワティフ・トレジャー・バンコレ/カウサル・アル=ハッダード/ファーディー・カーメル・ユーセフ/シドラ・イザーム/アラーア・シュシュニーヤ
ナンバー  175
オススメ度  ★★*


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http://sonzai-movie.jp/

チャイルド・プレイ CHILD'S PLAY

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親友を苦しめる者は許さない。彼の言うことを聞かない猫は絞め、彼の母親を奪おうとする男は顔の皮をはいでやる! 物語は、最新テクノロジーを満載したAIロボット人形に悪意が芽生え、邪魔者を次々と惨殺していく過程を描く。孤独な少年の遊び相手になるはずだった。信頼で結ばれているはずだった。忠実かつ誠実なパートナーになるはずだった。だが、恨みを残して死んだ男に書き換えられたプログラムは持ち主の意思に反して暴走し、やがて手の付けられない殺人鬼になる。透き通るような青い目が時々不気味に赤く光る。作り笑いのように歪んだ口元が邪悪な空気をまき散らす。なにより子供向けロボットとは思えない話し方。マーク・ハミルが担当した人形の低い声がハン・ソロの名を拒否するシーンには思わず笑ってしまった。

シングルマザーのカレンはひとり息子のアンディのために返品になったAI人形を持ち帰る。チャッキーと名乗ったその人形はアンディに寄り添い、徐々に彼の心を開いていく。

アンディの唯一の友達になったつもりのチャッキーは、アンディがフェリスとバズ姉弟と仲良くしているのを見守っている。友情を裏切られた思いになったのだろう、チャッキーはアンディにつらく当たるカレンの恋人に天誅を加える。凶暴化していくチャッキーにアンディの気持ちは離れ、チャッキーはますます嫉妬をエスカレートさせていく。録音録画機能だけでなくAI家電全般をブルートゥース経由で操り人間たちに復讐していくチャッキーの反乱はむしろHALを想起させ、GAFAに代表される巨大IT企業に日常生活全般を依存する現代社会に警鐘を鳴らしていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、チャッキーが最初から単純なヴィラン扱いだったせいで、そのキャラクターに奥行きが欠けていたのが残念。アンディとかけがえのない楽しい時間を共有し “死ぬまで親友” と納得させるようなエピソードを織り込んだ上で、大切な思い出が一方的に壊されたというような展開にしていれば、チャッキーの怒りと憎しみにも少しは共感できたのだが。。。

監督  ラース・クレヴバーグ
出演  オーブリー・プラザ/ガブリエル・ベイトマン/ブライアン・タイリー・ヘンリー/ビアトリス・キットソン/TYコンシグリオ/マーク・ハミル
ナンバー  172
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://childsplay.jp/