こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

メリンダとメリンダ

otello2005-07-06

メリンダとメリンダ MELINDA AND MELINDA

ポイント ★★★
DATE 05/7/1
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 ウディ・アレン
ナンバー 80
出演 ラダ・ミッチェル/クロエ・セヴィニー/キウェテル・イジョフォー/ウィル・フェレル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ニューヨークの人々はなぜこれほどまでに出会いに貪欲になのだろう。知り合いにシングルがいればすぐに何かと口実をつくって男女をカップリングさせようとする。当然その過程で浮気をする者もいる。気の合わない人間とも付き合わなければならない。こうした人間関係に疲れないのだろうか。男女の人間関係が複雑に絡まりあって離合集散を繰り返し、まるでシングルでいることが不幸であるかのように常にパートナーシップを求めている姿は滑稽で、人生を喜劇たらしめている。


人生を悲劇と喜劇ととらえるべきか。ふたりの劇作家がメリンダという同じヒロインを同じシチュエーションからスタートさせてふたつの物語を競う。悲劇のメリンダは精神を病み自殺未遂の上にNYの旧友の下に転がり込む。そこで新たな恋を見つけるが、その恋もまたはかなく終わる。喜劇のメリンダは恋愛依存症でいつも回りの男をその気にさせて振り回している。


まるでわずかな沈黙も恐れるかのようにスクリーンでは会話が交わされる。恋、仕事、嫉妬、過去。しかし自分のことを相手に理解させるための言葉はここでは限りなく軽く心に響いてこない。ただ、その軽さもまた登場人物の実像。メリンダに恋する俳優が彼女のデート相手に皮肉ばかり言うシーンなど人間の本性を衝いていて鼻息が漏れる。登場人物皆が皆、自分の現在の気持ちに正直でストレートにその思いを口にすることで、見るものの心を代弁してくれるのが愉快だ。


今回はウディ・アレンは演出に専念したことで映画全体の雰囲気が引き締まり洗練されている。俳優、ミュージシャンなどといった芸術家気取りの連中のこそばいようなくどき文句と、その対極としてバブリーな自慢話ばかりの歯科医を登場させたりと、スノッブな連中を笑い飛ばす話芸はここでも健在。ウディ・アレンにかかれば悲劇すら喜劇に見えてしまうところが、この映画の命題に結論をだしている。


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