こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヴェニスの商人

otello2005-10-31

ヴェニスの商人 THE MERCHANT OF VENICE


ポイント ★★★
DATE 05/8/2
THEATER メディアボックス
監督 マイケル・ラドフォード
ナンバー 94
出演 アル・パシーノ/ジェレミー・アイアンズ/ジョセフ・ファインズ/リン・コリンズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


名作古典を映画化するにあたって、原作に描かれたとおりに映像化するのか、それとも舞台設定を変えて大胆な解釈を加えるかは製作者は迷うところだろう。この作品ではシェイクスピアの時代に設定し、衣装や街の様子といった時代風俗から裁判の状況まで忠実になぞっている。そこには「よくぞここまで再現した」という感心はあっても、「こういうのもありか」というような驚きはない。結果として、俳優たちの演技も演出も満足できるできばえではあるが意外さには乏しい。


ヴェネチアの商人アントーニオは友人・バッサーニオの求婚の費用をユダヤ人の金貸し・シャイロックから借りる。シャイロックは無利子で貸す条件として「3ヶ月の期限を守れなければアントーニオの肉1ポンドをもらう」という要求をする。しかし、アントーニオが投資した商船がすべて難破しカネを返せなくなる。シャイロックはアントーニオの肉1ポンドをもとめて法廷に訴える。


不当に迫害され虐げられるユダヤ人にとって信じられるものはカネだけ。はるか古代の昔から差別されてきた民族の苦しみと生き残るための知恵を身につけたシャイロックを演じたアル・パシーノの演技は重厚で文句のつけようがない。アントーニオ、バッサーニオを演じたジェレミー・アイアンズジョセフ・ファインズも申し分なく律儀にシェイクスピアの創作した人物になりきる。そしてそうした俳優たちがまるでバロック調絵画のような映像から飛び出してくる。濃厚に16世紀末の時代の雰囲気を伝えてくれるのだが、そこから現代的な教訓は感じられず、ただ「有名な古典の完全映画化」の域を出ていない。


シャイロック強欲な金貸しではなく、キリスト教徒からは差別され実の娘からは見捨てられる哀れな老人としている以外は瞠目すべきところはない。そういった人物の心理描写にしても特別なカメラワークは使わず、オーソドックスにフィルムに収める。正攻法もいいのだが、少しはひねりが欲しかった。


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