こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

手紙

otello2006-11-13

手紙

ポイント ★★★★
DATE 06/11/11
THEATER 109シネマズグランベリーモール
監督 生野慈朗
ナンバー 194
出演 山田孝之/玉山鉄二/沢尻エリカ/吹石一恵
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


けんかした記憶、一緒に遊んだ記憶、そして何より自分を育てるために働いてくれた記憶。他に身寄りのないたった二人だけの兄弟だからこそ、憎むことも見捨てることもできない。弟の学費のために強盗殺人事件を犯した兄と、そんな兄を持ったことを恥じながら生きる弟。同じ親から生まれたた肉親という運命を呪いたくなる。人生の厳しさの中で善良に生きようと懸命に努力する主人公の姿は、賽の河原の石積みのよう。罪を背負って生きること以上に、罪を背負わされて生きることの厳しさを描く中で、それでも人生にはどこかに希望が隠れていることを教えてくれる。


無期懲役で服役中の剛志は弟の直貴との手紙のやり取りだけが唯一の楽しみ。しかし、直貴はそんな兄のせいでことあるごとに社会から差別を受け、お笑い芸人になるという夢を奪われた上、定職につくこともできない。由美子という女性だけが直貴を支え続ける。


世間から距離を置き、あきらめることで折り合いをつけていこうとする直貴にも、親友や由美子が心配して声をかけてくれる。特に家電販売店会長の、事実を直視せよという直言はどんな奇麗事よりも年月の荒波をかいくぐってきたものだけが持つ説得力がある。やがて、兄弟の手紙のやり取りは、ただ二人で傷をなめあっているだけに過ぎないことに気づき、絶縁の手紙を書く。


直貴は被害者の遺族から許しを得、直貴もまた兄を許す。激しい憎悪の果てにたどり着いた寛容。そしてすべてを清算するために直貴は刑務所の剛志の前で一度だけ親友との漫才コンビを復活させ、漫才の掛け合いに乗せて自分がいかに兄を愛し慕っていたかを伝える。おどけた笑顔と仕草の下で、心は号泣している。ネタに込められた兄への感謝の気持ちと恨み、そしてもう二度と会えないという惜別。受刑者が大声で笑うほど、剛志も直貴も心は大声で泣き叫ぶ。兄弟二人のあらゆる感情がぶつかり、理解しあい、そして離れていく。きちんとけじめをつけたら、相手を忘れてやることも大切な愛情なのだ。


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