こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

300

otello2007-06-08

300


ポイント ★★★
DATE 07/6/2
THEATER 渋谷TOEI2
監督 ザック・スナイダー
ナンバー 108
出演 ジェラルド・バトラー/レナ・ヘディー/デビッド・ウェナム/ドミニク・ウェスト
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


彩度を極端に落としたうえにガンメタリック塗装を施したような映像は金属のような硬質感をもたらし、飛び散る血しぶきの赤を強調するかのようにスローモーションを多用。デジタル加工で増幅された視覚効果だけで全編を描ききろうという試みは潔さすら感じる。俳優の演技やストーリーはもはやVFXの付属物でしかなく、細密に描かれたヴィデオゲームを見ているよう。そのリアリティのなさがかえって五臓六腑を直撃するような重量感を生み、重低音の音響が古代ギリシア叙事詩のように共鳴する。


戦士として育てられスパルタ王となったレオニダスは、ペルシア王の使者を処刑し隷属の要求を拒む。ペルシア王は大軍を派遣するが、スパルタの神託でレオニダスは戦争をできず、やむをえず300人の私兵を率いてペルシアの進軍を阻むべく戦場に向かう。


矛、盾、剣、そして何よりも彫刻のように鍛え上げられた肉体を武器に、天の怒りを代弁するスパルタ軍兵士の躍動感。一方、無数の矢の雨を降らせ、大地を埋め尽くさんばかりの人数で押し寄せるペルシア軍の無機質。ペルシア兵には仮面を着用させ個性を奪うことで単なる数と認識させ、スパルタ兵を際立たせる。数には狡知で、新兵器には勇気で立ち向かうことで、戦場で死ぬことこそ戦士にとって最高の名誉と考えるスパルタ人の気質を見事に再現。ペルシア兵の死は防壁の材料にしかなりえないが、スパルタ兵は死すら甘美な響きを持って描かれる。それは隊長の息子が戦死したときも、愛する息子を失った悲しみではなく、愛していたことを息子に伝えられなかったことを後悔するという徹底ぶりだ。


ただ、「血を流さなければ自由は守れない」はまだしも、「神秘主義と専制政治から世界を救うためにスパルタは戦う」など米国ネオコンが喜びそうなセリフにはうんざりする。民主主義が根付いていたはずのギリシア人だって、もう少し時代が下ればアレキサンダー大王が武力でペルシアをねじ伏せたことを忘れているわけではあるまい。。。


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