こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ランジェ公爵夫人

otello2008-04-10

ランジェ公爵夫人 NE TOUCHEZ PAS LA HACHE

ポイント ★★★
DATE 08/3/4
THEATER エスパスイマージュ
監督 ジャック・リヴェット
ナンバー 54
出演 ジャンヌ・バリバール/ギョーム・ドパルデュー/ミシェル・ピコリ/ビュル・オジェ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


美貌と思わせぶりな態度で軍人の無骨な心を手玉に取り、楽しみながら弄ぶ。男は熱烈な気持を告げることが愛と勘違いしている。押されては引き、また新しい餌を目の前にぶら下げ、相手が一途なほどのらりくらりと受け流して、女は褒美のキスすら与えない。男から見ると、いやらしいまでにずるがしこく見える駆け引きは、男女の「恋」に対する根本的な考え方が投影されており、ジャック・リヴェットは腰をすえたカメラと重厚な演出でその違いをじっくりと味あわせてくれる。


パリ社交界の華・アントワネットは、パーティでナポレオン軍の英雄・モンリヴォー将軍に接近する。翌日から毎日のように彼はアントワネットの下に通ってくるが、艶かしい姿態と甘い言葉だけで決して体には触らせず、モンリヴォーの苛立ちは募っていく。


恋愛を、ゲームと割り切るか真剣勝負ととらえるか。本気になったほうが負け、その意味では最初からアントワネットは勝利者だ。一方のモンリヴォーは闘牛のごとく突進するだけで、戦場での戦術が女心には通用しないことをまったく理解していない。ついにはアントワネットを拉致するという暴挙に出てやっと彼女の心を掴んだのに、その心境の変化に気付かないという鈍感ぶり。焼印を額に押すと脅したときの彼女の表情から、彼女が陥落したとのは確実なのに、そこで何もせずに帰してしまうのだ。


その後は立場が逆転し、アントワネットがモンリヴォーに恋文攻撃をするがすべてなしのつぶて。やがて不手際の挙句、2人の運命は離れていく。5年後修道女となったアントワネットをモンリヴォーは再び攫いに行くが、そこには冷たくなった彼女の体を見つけるのみ。モンリヴォーによきアドバイザーがいればこんな悲劇は避けられたはずだ。恋を成就させるには、熱意と実行力だけではなく、綿密な戦略と好機を見極めるカンが必要なことを改めて思い知らされる。


↓メルマガ登録はこちらから↓