こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幻影師 アイゼンハイム

otello2008-05-24

幻影師 アイゼンハイム THE ILLUSIONIST


ポイント ★★★★
DATE 08/3/6
THEATER 映画美学校
監督 ニール・バーガー
ナンバー 56
出演 エドワード・ノートン/ポール・ジアマッティ/ルーファス・シーウェル/ジェシカ・ビール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生は幻影にすぎず、信じられるのは愛だけ。現実の中に巧みにトリックを交え、目で見たものを虚構に変えていく。稀代の奇術師が巨大な権力に仕掛けるマジックは、時間や空間だけでなく次元の壁まで飛び越えて、無から有を生み出し、生と死の境を取り除く。もはや奇跡とも言える所業、その陰に一途に思い続けた女への気持がこの映画に参加する者の予想の裏を行く。しかしそれは爽快な裏切り、綿密に計算された伏線が見事につながっていくラストは心地よい。


奇術好きの少年・エドゥアルドは公爵令嬢・ソフィと駆け落ちするが失敗、ふたりは引き離される。十数年後、彼は奇術師アイゼンハイムとしてウィーンに現れ、舞台の上でソフィと再会するが、彼女は皇太子と婚約中だった。アイゼンハイムはソフィを取り戻すために、皇太子に壮大なイリュージョンを仕掛ける。


アイゼンハイムは19世紀末のウィーンの退廃が産んだ鬼っ子、少年時代の身分違いの恋が支配者階級に対する憎しみを産み、その頂点たる王権を継ぐべき皇太子に矛先は向かう。相手は警察を支配下に置く権力者。彼に弓を引くことはひとつ間違えれば命取りになる。アイゼンハイムのタネを見破ろうとした皇太子にエクスカリバーの伝説を引き合いにして恥をかかせて怒りを買うなど大人気ないところもあるが、逆に皇太子の地位の不安定さでもある。そのあたり斜陽の帝国の実像がよく反映されている。


引き裂かれた愛は再び強く求め合い、禁じられた関係だからこそ燃え上がる。アイゼンハイムとの密会を皇太子に知られ、婚約を破棄したソフィは何者かに殺されるのだが、アイゼンハイムの降霊術で犯人を仄めかす。だが、それらすべてがアイゼンハイムの計画だったというオチ。皇太子の腹心の警部を狂言回しにしたミステリー仕立ての展開は小気味よく、最後までスクリーンから目が離せなかった。


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