こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アクロス・ザ・ユニバース

otello2008-08-14

アクロス・ザ・ユニバース


ポイント ★★*
DATE 08/5/15
THEATER SG
監督 ジュリー・テイモア
ナンバー 116
出演 エヴァン・レイチェル・ウッド/ジム・スタージェス/ジョー・アンダーソン/デイナ・ヒュークス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ビートルズと同時代を過ごし、彼らの楽曲にリアルタイムで触れた団塊の世代にはたまらない魅力にあふれた作品なのだろう。劇中使われる懐かしいタイトルだけでなく、大志を胸に大都会に出てきた若者が恋と友情そして挫折ののちに新たな未来を見つけるという青春の通過儀礼に、反戦・ドラッグ・ヒッピー文化等の自分たちの1960年代の記憶と重ね合わせることができるはず。しかし、サイケデリックな世界や観念的な映像が結構長く、それが大麻吸引による幻覚を表現しようとしているのは理解できるが、ここまで過剰だといささか気分が悪くなる。


リバプールの造船所で働くジュードは父を探して渡米。マックスという学生と知り合い、その妹・ルーシーと魅かれあう。3人は新しい刺激を求めてニューヨークで共同生活を始める。


登場人物が口ずさむのはすべてビートルズナンバーという実験精神あふれるミュージカルである半面、その歌詞に合わせてストーリーを展開させなければならないという制約。一方で、ビートルズメンバーの歴史にシンクロするようなトリビアがちりばめられ、分る人には分かるらしい。もちろん現代でも色あせない名曲の数々は耳に心地よく、主人公が感情を高らかに歌い上げているシーンはすばらしいのだが、それらが徐々に物語と乖離していき、無理やりこじつけているような不自然さが表面ににじみ出てくる。


やがて反戦活動にのめりこむルーシーとイラストレーターを目指すジュードの仲にすき間風が吹き始め、ジュードの国外退去と同時に破局。その後の再生と再会。恋愛の喜び、失恋のせつなさ、希望と悟り、体制への怒り、そしてスピリチュアル。人生のあらゆる場面で経験する喜怒哀楽をすべて歌い上げたビートルズの偉大さを改めて認識させられる。ただ、その映像と音楽がもたらす情報が消化しきれないほど大量で、もう少し取捨選択を適切におこなっていれば、ビートルズに馴染のない世代の人間も中だるみを感じずに済んだはずだ。


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