こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パートナーズ

otello2010-08-27

パートナーズ


ポイント ★★★
監督 下村優
出演 浅利陽介/大塚ちひろ/村田雄浩/川上麻衣子/近藤理沙/根岸季衣/熊谷真実/夏八木勲
ナンバー 197
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「好きになってあげた分、好きになってくれる」.。少女の言葉どおり、エサを与え散歩に連れていくだけでなく、一緒に添い寝して初めて信用される。愛情を注げば注ぐほどこちらの言うことを聞いてくれる犬と人の関係。一頭の盲導犬を巡ってさまざまな想いが交差していく中で、犬も犬に関わる人間も共に成長していく。映画は、犬の可愛らしさや賢さをことさら強調せず、視覚障害者の目となる使命を負ったパートナーとしての姿を描く。そこには派手な活躍も涙を誘うシーンもない。日常の業務として視覚障害者の手助けをする様子を、感動を押し付けるような演出を極力避けて語っているのが好感が持てる。


チエと名付けられた子犬は美羽という少女の元に預けられ、10ヶ月後訓練センターに戻される。訓練士の剛がチエの調教に当たるがなかなか命令を聞いてくれず、剛は美羽にチエの心を開くコツを教わりに行く。その後チエは、視力を失った歌手・真琴の盲導犬となる。


障害者のために自分の本能や感情の抑制を徹底的に教え込まれるチエ。絶望と不安で自己を見失っていた真琴。盲導犬視覚障害者、双方の胸の内がわからず悩んでいる剛。チエの落ち着いた無表情は、2人の若者よりもよほど成熟し達観した賢者のごときおもむきを見せる。なによりハーネスを付けている間は“仕事中”であると自覚している様子はプロそのもの。チエが犬であるのを忘れてしまうほどの落ち着きぶりだった。


◆以下 結末に触れています◆


やがて再びマイクを握る決意をした真琴は、ライブ会場に向かう途中酔っ払いに絡まれ、真琴をかばったチエが重傷を負う。いまや親友以上の大切なパートナーとなったチエを病院に託して真琴はステージに立つ。プロの歌手として人前で歌う以上妥協は許されない、ピアノを弾きながら絶唱する真琴にはチエの誇りが乗り移ったようだった。物言わぬ犬を主人公にするとどうしても「犬目線」で語ろうとしがちだが、この作品はあくまで人間の視点。人間に犬の気持ちを理解させようとしても、決してカメラで犬の気持ちを代弁しない。そんな過剰さを排したおかげで引きしまった映画になっていた。