こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

SP 野望篇

otello2010-11-05

SP 野望篇

ポイント ★★*
監督 波多野貴文
出演 岡田准一/真木よう子/松尾諭/神尾佑/野間口徹/香川照之/堤真一
ナンバー 264
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


爆弾テロを予知し、容疑者を追跡する男。人ごみをかき分け、自動車のルーフ伝いに駆け抜け、垂直の壁を蹴り、トラックの荷台で格闘したのち地下鉄の線路で確保する。そのプロローグは圧倒的な緊張感で見る者をスクリーンにくぎ付けにする。全力疾走の息遣いは肉体的なリアリティに対するこだわりの証。日本映画に新しいアクションの到来を予感させる見事な出来栄えだ。物語は現場で血と汗を流す警護官と、新しい日本をつくろうとする高級官僚・政治家グループの対立を軸に、危機また危機の連続で主人公を追い詰めていく。


要人警護係の井上は特異な能力で暗殺を未然に防ぐが、警護任務を逸脱した行動で叱責を受ける。一方、与党幹事長・伊達の元に集まった東大卒のエリート官僚たちは「日本を覚醒させる」計画を練り、邪魔になった井上を消そうと画策する。ある日、伊達の警護を終えた井上たちのチームは官房長官の移送任務を受ける。


エリート集団には井上の直属の上司・尾形も加わっていて、敵か味方かわからない微妙な立場にいる。安全と平和に安穏としている日本人の意識に危機感を植え付けようという企みらしいが、それを「大義」と言い切る不遜さとそのために犠牲者が出ることに対する人命軽視の姿勢が鼻につく。さらに彼らを監視する公安の動きも描かれ、組織の中の主導権争いという複雑な様相を呈している。だが、あくまできな臭い展開よりも、極限状態をサバイバルする井上ら警護係の活躍に焦点を当てる。そんな、理屈より活劇という潔い割り切りが心地よい。


◆以下 結末に触れています◆


後半は深夜に官房長官を官邸に移送する任務を与えられた井上たちが、移動手段を奪われ、徒歩で官邸に向かうが、チームは幾度も拳銃・ナイフ・ボウガン・爆弾・狙撃銃などを使った武装集団に襲われる。しかし、武装集団側の手際が悪く、彼らが本気で殺そうとしていないのが難点。無論、これは尾形らが仕組んだ自作自演で、「死者が出ないような襲撃」計画なのだろうが、この身内への手加減が映画のテンションをぬるくしていた