こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

監督失格

otello2011-09-08

監督失格


ポイント ★★*
監督 平野勝之
出演 林由美香/平野勝之/小栗冨美代/カンパニー松尾
ナンバー 214
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


膝の力が抜けて床にへたり込んでもケータイに向かってしゃべり続けるおばさんと、奥の部屋で起きたことの状況を冷静に説明する男。大切な人を予期せぬ形で失った2人の反応が対照的だ。目の前の現実を受け入れられず、哀しいのか腹立たしいのか悔やんでいるのか、次々と胸に湧き上がる気持ちに整理がつかない。せりあがってくる慟哭を抑えるように声を絞り出している姿は、決して再現できないほど壮絶で強烈な感情がほとばしっている。その様子は床に放置されたままのカメラがとらえている。撮影されているのを意識していない人間のナマの迫力、これほどすざまじい映像は初めて見た。


AV監督の平野はAV女優の由美香とともに、東京から北海道へ自転車の旅に出る。ペダルを踏んで坂道を登り、テントを張って野宿する。旅の一部始終を記録し、平野は由美香の本質に迫ろうとする。


すべてをさらけ出そうとする由美香は、2人の痴話げんかを撮らなかった平野に「監督失格」を言い渡す。それはお互いに愛し合っているからこそ出た言葉だ。おそらく由美香は寂しがり屋、「私」という人間を知ってもらいたいと願い、理解してくれた相手にだけ心を許す。そんな全幅の信頼関係。旅の途中の平野の、「おれはこんないい女とふたりきりの世界に浸っているんだ」といった優越感を丸出しにした映像は、その青さがどこか微笑ましくもある。


◆以下 結末に触れています◆


数年後、由美香の誕生日に彼女の部屋を訪れた平野は死体の第一発見者になる。だが、平野はカメラを持っていたのに、由美香の最期を撮らない。由美加だったら、これほど衝撃的な「おいしい映像」をフレームに収めなかった平野に「監督失格」と宣告したはずだ。深夜の街、自転車に乗った平野は由美香への思いを叫びながら号泣する自分にレンズを向ける。由美香との過去に決着を付けるのならば、自身のセンチメンタリズムより、由美香がどんな死に方をしたかを見せるべきだったのではないだろうか。。。