こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ピザボーイ 史上最凶のご注文

otello2011-10-15

ピザボーイ 史上最凶のご注文 30 Minutes or Les

ポイント ★★★
監督 ルーベン・フライシャー
出演 ジェシー・アイゼンバーグ/ダニー・マクブライド/アジズ・アンサリ/ニック・スウォードソン/マイケル・ペーニャ/フレッド・ウォード
ナンバー 234
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ショボい若者がショボいおっさんのショボい犯罪計画に巻き込まれる。ところが、追い詰められ、愛する女が危険にさらされたとき、怠惰な生活を送っていた彼らが予期せぬ行動力と度胸を発揮する。映画は時限爆弾を体に巻き付けられた主人公が、強盗、カーチェイス、人質交換などの非日常を経験するうちに、次第に間抜けな男から機転の利く男に変貌していく過程を描く。だが、最後までカッコよさとは程遠く、アクションと暴力の中にも常にコミカルな味わいを残しており非常に楽しい。


ピザ屋のバイト・ニックは、配達先でゴリラと猿のマスクをかぶった男たちに時限爆弾を装着されたベストを着せられる。解除する条件は10時間以内に10万ドルを用意すること。ニックは友人のチェットとともに銀行に押し入ってカネを奪うが、受け渡し場所に殺し屋が現れる。


旧型のマスタングで街中を暴走しピザを届ける冒頭のシーンは「自分はこんな人生に甘んじる男ではない」というニックの怒りが滾っている。思い通りにならない日々、しかしそれは彼自身のだらしなさに原因があるのだが、そんなことは棚に上げて身の不運を他人のせいばかりにしている。程度の差こそあれ、チェットも大きな可能性を無駄にして生きていると思っている。また、父殺しをたくらむ二人組も、“実態以上の自己”の幻想から離れられず、根拠もなく大物ぶるばかり。そのあたり、大人になりきれない登場人物の心情が繊細かつリアルに再現される。ちっちゃい人間たちが精いっぱいせこい知恵を振り絞りハッタリを利かす、彼らの滑稽な姿はむしろもの悲しささえ醸し出していた。


◆以下 結末に触れています◆


後戻りできないニックは、おそらく生まれて初めてだろう、本気モードにスイッチが入る。妹が心配なチェットも殺し屋を相手に奮闘、その後も思わぬ小道具で二人組を出し抜く。結局、他人の命を軽んじる者は報いを受けるが、だからといってニックたちに濡れ手に粟の幸運が訪れるはずもなく、因果応報となる結末もウイットと抑制が効いていて心地よかった。