こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

五日市物語

otello2011-10-17

五日市物語

ポイント ★★*
監督 小林仁
出演 遠藤久美子/山崎佳之/井上純一/田中健/草村礼子
ナンバー 239
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


緑濃く清流に恵まれ、空気は澄み食べ物はうまい。住民はおおらかでよそ者でもすぐに受け入れてくれる。都会に住む人間から見ると理想郷に見える町・五日市。もはや農業や林業は廃れ、交通網の発達で交易地としての役目も終えたが、それでも今なお人々は故郷の歴史に誇りを持って保存しようとしている。映画はこの町に関わった調査員の視点を通じて、人と自然が昔から共存する五日市という土地の魅力を探っていく。役所が出資し、役人が作ったこの作品、ともすれば地味なグルメ紀行に偏りがちな内容を、遠藤久美子扮するヒロインのハイテンションが救っている。


TV情報番組の下請けリサーチャー・友里は五日市の下調べを命じられ、市役所職員・栗原の案内で名所を回り、名物に舌鼓を打つ。やがて古い旅館・油屋に辿り着き、そこで地元に古くから住み出来事を見てきた老婆・トシ子から昔話を聞かされる。


すっかり五日市に馴染んだ友里は突然の調査中止命令に辞表を叩きつけ、ルポライターになりたかった夢を実現すべき時と郷土史研究に腰を据えて取り組む。そしてトシ子の祖父が「五日市憲法」の草起者と知己を得ていること、一度きりの叶わなかった恋ゆえに結婚しなかったことなどを聞きだす。その過程で、明治期に日本で芽生えた人権思想、昭和期まで残っていた筏の川下りなどを映像化し、五日市がいかに由緒ある街であるかを調べていく。一方で山のピザ屋や秋川牛などの名産を紹介するのも忘れない。そのあたりは友里の好奇心を積極的に押し出し、栗原との間に芽生えた感情なども挟み込んでバランスをとり、広報臭さをうまく消している。


◆以下 結末に触れています◆


その後、友里の元上司が油屋を訪ねてきて、その場で彼自身が知らなかった自分とトシ子の縁を偶然発見する。前半、この男が腕時計をひけらかすのか伏線になっているが、なかなかうまい仕掛けだった。ただ、友里と栗原の恋の顛末をもっと詳し語ってほしかった。。。