こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ポール・マッカートニー/THE LOVE WE MAKE

otello2011-12-02

ポール・マッカートニー/THE LOVE WE MAKE

ポイント ★★*
監督 アルバート・メイスルズ
出演 ポール・マッカートニー/エリック・クラプトン/エルトン・ジョン/デヴィッド・ボウイ/キース・リチャーズ/ビリー・ジョエル
ナンバー 284
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


20世紀を代表するスーパースターでありながら、道行く人と気軽に交流しサインに応じる。スタッフにはフレンドリーに接し、いつも笑顔。一般人の感覚を楽しみたい彼のポリシーは人生を通じて貫かれていて、全く無防備に街中を歩く姿が印象的だ。舞台は911直後のNY、まだテロの傷跡は人々の心に生々しく残り、一方で犠牲者を悼みお互いに助け合おうと他人に優しい気持ちになっている。「消防士や警官のように現場で人助けはできないが、音楽で人々に勇気と元気を与えたい」。彼の言葉が、他のスターたちをもチャリティに動かす。


911当日、離陸直前の飛行機に乗っていたポールはWTC攻撃を目撃、平和を守るために戦うべきだと決意する。多くのミュージシャンに声をかけ、音楽を武器に立ち向かう、これが自分にできることとチャリティコンサート開催を目指し、新曲づくりと楽曲の練習に励む。


積極的に街の空気を吸おうとするポールも、時に執拗に追いかけられて車の中に逃げ込んで、しつこいファンの悪口を呟く。特にミュージシャンを目指していると言うホームレスっぽい黒人に付きまとわれる場面では、決して怒ったりせず、かえって力になれないのを済まなさそうにしている。本当に「いい人」なのか、インタビューで不快な質問をされても受け流す、その泰然とした態度がセレブらしからぬ親しみやすさと、逆に成功した者だけが持つ余裕を感じさせる。


◆以下 結末に触れています◆


粒子の荒い処理をされたモノクロ映像は、古いアートフィルムを見ている気分。それは建国以来初めての国難に、恐怖と不安に苛まれつつ日常を維持していかなければならない米国市民の心境を象徴している。クライマックスでは会場に消防士たちを招待し、彼らの前で綺羅星のごときタレントがパフォーマンスを見せる。米国は死んでいない、もう一度隣人と手をとりあって希望を見つけようというメッセージがそこにはあふれていた。すっかり格差社会となりデモが絶えない現在のNY市民が見たら、「あの時代はよかった」と思い出すのだろうか。。。



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