こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

三国志英傑伝 関羽

otello2011-12-01

三国志英傑伝 関羽 関雲長


ポイント ★★★
監督 フェリックス・チョン/アラン・マック
出演 ドニー・イェン/チアン・ウェン/スン・リー/チン・シウホウ/アンディ・オン/アレックス・フォン
ナンバー 277
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


馬がやっと通れる狭い路地で槍を手にする相手に青龍偃月刀を振り回す活劇は、ユニークな武器の使い方が目を見張る。闘いが始まると同時に門が閉ざされ、開門した時には十数人が血祭りにあげられているシーンは圧倒的な省略の美学。そして霧深い林の奥からいきなり矢の雨が降り注ぎ、静謐の中にも風を切る音が恐怖を感じさせる。映画は「三国志演義」を彩る英傑にスポットを当て、義に生き忠を貫いた主人公の、平和を実現するために人を斬らねばならない苦悩を描く。群雄が覇を競う時代、たとえ敵であっても高潔な人格には敬意を示す指揮官の礼節が新鮮だった。


曹操の元で軟禁生活を送る関羽は、劉備への忠誠心から曹操の誘いをきっぱり断る。曹操関羽の帰国を許すが、曹操の部下が独断で放った手配書のせいで、さまざまな刺客が関羽を待ち受けていた。


皇帝を操り、天下を乱した悪人のごとく扱われることが多い曹操だが、ここではあくまで対話によって戦の理を説くリアリスト。開墾を進め農作業にも率先して汗を流し、領民の人気も高く、百姓が暮らしやすい世の中を作ろうとする英明な君主だ。一方の関羽は1人で数十人の敵兵をぶった斬る剛腕ながら、戦う術を持たぬ民衆には石礫を投げられても一切の手出しをしない武芸と英知を備えた豪傑。曹操は何度も味方に引き入れようとするが、頑として頷首しない関羽にかえって尊敬の念すら抱く。そのあたり大人(たいじん)然とした曹操のキャラクターが印象的だ。


◆以下 結末に触れています◆


元々中国人ならば馴染み深い物語なのだろう、ストーリーの展開や登場人物の思考回路など理解しづらい場面も多々あるが、「三国志演義」のエッセンスを見事に凝縮し壮大なアクションとして視覚化している。その色彩感覚とサウンドの使い方はむしろ様式美というべきスタイルで関羽を神格化し、逆に曹操を人間味あふれるリーダーとしてとらえる。この2人のコントラストが最後まで鮮明で、人の器量とは何かを教えてくれる作品だった。