こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

光復

食べて寝て排泄するだけ。もはやコミュニケーションは取れず、いら立ちを通り越して絶望的になってくる。事態の改善は望めない、ただ早期の死を願うばかり。物語は、認知症の母を介護する女の運命の転変を描く。ひとりで抱え込んでしまった。生活保護以外に収入はない。ほんのわずかな自由時間も許されず、心が蝕まれていく。そんなとき再会した、高校時代の恋人。親切に接してくれる彼のやさしさに縋り付くうちに、女は少しだけ自分を取り戻したような気持ちになる。束の間の安らぎ、体を重ねるふたりをボケた母親が興味津々に覗き見るシーンが生と老の無常を象徴していた。ひねりの効いた展開は設定の不備やサブキャラの演技力不足を補って余りある求心力をみせ、紡ぎ出された映像は予想をはるかに超える衝撃を孕む。

介護中の母が突然死し、圭子は殺人容疑で逮捕される。強引な取り調べで自白するが、介護を手伝ってくれていた賢治が自首する。圭子は釈放されるが、家の周辺はマスコミに取り囲まれていた。

「不倫介護殺人」として世間の注目を浴び、元の暮らしには戻れない。賢治を守るために自白したのに無駄になった。放心状態の圭子を悪夢が襲う。さらに二重の被害を受けた圭子は昏睡状態を経て病院のベッドで意識を取り戻す。今度は圭子自身が介助者なしには生きていけない。それでも賢治の罪を軽くするために証人質問に応じる圭子。人生の大半を両親の介護に費やして狭い世界しか知りえなかった圭子の、おびえながらも現実を受け入れざるを得ない弱さが哀しく切ない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

民生委員の紹介で寺の世話になることになった圭子は般若心経と出会う。寺男に助けられながらも住職の唱えるお経に身を委ねるうちに、人間の真実と宇宙の真理を感じるようになる。見えなくなった代わりに、空の境地に達し無限と永遠の流れを知覚できるようになるのだ。そして、頭を丸め平安に身を浸す圭子が今度こそ本当に幸福を手に入れるのかと思わせた後の一撃。観客に媚びないこの作品の語り口は潔い。

監督     深川栄洋
出演     宮澤美保/永栄正顕/クランシー京子/関初次郎/池田シン/伊東孝
ナンバー     229
オススメ度     ★★★★


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