こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラーゲリより愛を込めて

戦争は終わったはずだった。なのに陸軍の階級制度は温存され、士官・下士官は兵卒に対して威張りくさっている。物語は、ソ連軍の捕虜収容所で強制労働を強いられた日本兵の帰郷を待ちわびる姿を描く。極寒のシベリア、支給される食糧は乏しく、疲労と栄養失調で命を落とす者は絶えない。すぐに帰れるはずと信じていたのに戦犯扱いされ長期刑を言い渡される。英語の歌を口ずさみロシア語を使いこなし万葉集にも通じているインテリなのになぜか一等兵の主人公は、乱暴な言動の軍人たちの中でひとり穏やかな態度を崩さない。彼の、運命を呪わず理性を保ち希望を信じる人間性の豊かさは、大いなる救いとなっていた。自分が生き残るために密告する、階級制度崩壊の後に元上官をリンチする、そんなエゴ丸出しのエピソードが印象的だった。

妻子を日本に逃がした後、ソ連軍の捕虜となった山本は、通訳として重宝されるが相沢という下士官に目を付けられる。2年後、スパイ容疑で25年の重労働を言い渡される。

情報は乏しく、自分たちの処遇がどうなるかは一切わからない。心が折れて冷たくなっている者もいる。骨と皮だけの仲間の死体を何体も穴に並べ土をかぶせただけの粗末な墓に埋葬する。その絶望から導き出される感情は、戦勝国戦争犯罪で裁かれないという慣例に異議を唱える。ただ、山本を始め捕虜たち全員がぼろをまとい垢まみれの顔をしていても、歯は白くきれいに並び健康的。収容所の劣悪な環境を再現するためにも見かけのリアリティにもこだわってほしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

山本たちは戦犯宣告を受けた者ばかりが収容されたハバロフスクでさらに数年を過ごす。そのころになると、もはや階級は用をなさなくなり、捕虜たちはみな力を合わせて生き延びようとしている。山本は捕虜たちの精神的な支柱となり、率先して待遇改善をソ連指揮官に要求したりする。その背中は、他の捕虜にも勇気を与える。異常な状況下で生まれた奇妙な連帯感。苦難を共にした人間だけが共有できる友情と信頼の絆が美しかった。

監督     瀬々敬久
出演     二宮和也/北川景子/松坂桃李/中島健人/寺尾聰/桐谷健太/安田顕/市毛良枝
ナンバー     230
オススメ度     ★★*


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