こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マレフィセント2

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緑深い森で平和に楽しく暮らしている妖精たちは、町の人間たちから見れば得体のしれない不気味なもののけ。逆に妖精たちには人間が暴力的な怪物に思える。大きな川を挟んで隣り合う2つの世界はひとつになろうとするが、巨大な陰謀がその前に立ちふさがる。物語は、恨みと憎しみを腹に持つ女王に騙された魔女の復讐を描く。大いなる魔法をもってしても科学の力には敵わない。人間は広大な森を手に入れるためには手段は選ばない。そして、より豊かになりたいと願う彼らの強欲の前に妖精たちの楽園は崩れていく。自然と共生する妖精たちにとって、もはや人間は脅威でしかないのだ。数多のおとぎ話で語られてきた魔物や化け物を退治する冒険譚は、人間側の “正義” の一方的な押し付けであるとこの作品は訴える。

森の妖精たちの女王・オーロラは隣国の王子・フィリップにプロポーズされ大喜び。養母・マレフィセントは結婚に反対するが、オーロラの決意は固く、王宮での晩餐会の招待を渋々受け入れる。

フィリップも父王もオーロラも、人間と妖精の国境がなくなって両者が共存するのを望んでいる。だが王妃・イングリスは過去の因縁から妖精たちの森をわがものにしようと企んでいる。食卓に着いたマレフィセントに対し不愉快な発言を繰り返して挑発、狡猾にもマレフィセントを陥れようとする。怒りに燃えたマレフィセントは羽を広げ飛び立つが弱点である鉄弾を撃ち込まれる。水に落ちたマレフィセントの痛々しい姿は、「開発」の名のもとに傷つけられていく環境を象徴しているようだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

近年のディズニー映画の例にもれず主人公は女だが、ここでは敵役も女。戦場で指揮を執り兵士たちを鼓舞している。さらに妖精虐殺に直接手を下すのも女司令官だ。一方で、王や王子を始めマレフィセントの仲間の翼人種でも男は和平派が多い。もちろん戦争を望む男たちもいるが、彼らに決定権はない。マレフィセントやイングリスが忘れたやさしさや愛を、今度はオーロラが教えてやる番ではないだろうか。

監督  ヨアヒム・ローニング
出演  アンジェリーナ・ジョリー/エル・ファニング/ミシェル・ファイファー/ハリス・ディキンソン/サム・ライリー/MIYAVI
ナンバー  240
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://www.disney.co.jp/movie/maleficent2.html

空の青さを知る人よ

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恋人との未来を棒に振った姉は、自分のために地元に残った。時は流れ、姉の幸福を奪ってしまった自責の念は日に日に大きくなる。そんな時現れた “冷凍保存された” 過去。物語は、ミュージシャンを目指す女子高生と13年前の姿のまま変わらない姉の元恋人のはかない恋を描く。時間は残酷なまでに、確実に姉を老けさせている。中途半端に夢が叶ってしまった元恋人は煮え切らないまま音楽を続けている。ふたりの葛藤を見てしまった若い男女は、理想と現実のギャップに動揺を隠せない。それでも、本当に大切なものは何か、他人を思うというのはどういうことなのかを学んでいく過程は、人は決してひとりで生きているのではなく、きっと誰もが誰かに必要とされていると教えてくれる。

年の離れた姉・あかねと暮らすあおいは、ギター練習場のお堂で高校生のまま年を取っていないしんのと出会う。しんのは13年前、あかねと別れて東京に出たはずだった。

あかねが働く市役所の町おこしに出演する演歌歌手のバックギタリストとして一応プロになった慎之介は、ぱっとしない己を恥じている。なによりあかねとはばつが悪いのか、彼女の前では素直になれない。きちんとけじめをつけたわけではなく、お互いに未練を残している。いや、本心ではずっと再会する機会を待ち望んでていた。秩父と東京、電車でたった2時間足らずの距離なのに自らは会いに行こうとはしなかった。よりを戻せばどちらかが今までの人生を捨てなければならない。まだ相手が好きなのに意地を張り合う、大人になり切れないあかねと慎之介の心情がリアルで共感を呼ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、あかねが廃坑に閉じ込められると、しんのは呪縛を破ってお堂を飛び出し、あおいと共に救出に向かう。その際、ふたりは手をつないだまま木々を飛び越え、宙を舞い、上空から落下する。「天気の子」にも同様のシーンがあったが、空や雲や風景の細密度ではハイビジョンと4Kほどの差があった。躍動感や浮遊感はけ負ていなかったけれど。。。

監督  長井龍雪
出演  吉沢亮/吉岡里帆/若山詩音/松平健/落合福嗣/大地葉/種崎敦美
ナンバー  245
オススメ度  ★★*


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https://soraaoproject.jp/

真実

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数十年のキャリアを通じて様々な女の人生を演じてきた。役になり切ってリアリティを出してきた。やがて彼女はプライベートな時間も女優であるのをやめず、いつしかどの人格が本当の自分かわからなくなってしまう。いや、都合のいい記憶のみを抽出しているのかもしれない。物語は、フランスの国民的女優が自伝を上梓、その本に翻弄される家族や近しい人々との軋轢を描く。綴られているのはきれいごとばかり、人間関係は美化され、ライバルや私生活を知る秘書には一切触れない。己の人生は賛美しても他者への思いやりはない。書かれた嘘と書かれなかった事実をについて、彼女を巡る人々の反応は様々、だが、米国に渡った娘は見抜いている。母と娘、いちばん近しい女同士の複雑に絡み合った感情がシニカルに再現されていた。

母・ファビエンヌの自伝出版祝に夫・娘と共に実家に戻ったリミュールは、その内容に驚きと不満を隠せない。愛情に満ちた母娘の描写は、リミュールにはまったく覚えのないものだった。

ほとんど家庭は顧みなかったのだろう、それどころか、慕っていたサラおばさんをファビエンヌが追い落としたことを、リミュールは恨んでいる。女優として尊敬し、いい暮らしをさせてもらって感謝しているものの、父を追い出したのは許せない。かといって絶縁するほど憎んでいるわけでもない。特別な母を持った娘だけが感じられる好感と嫌悪の相反する思い。もう成熟した大人になっているのにわだかまりは解けない。ところがファビエンヌの新たな一面を発見し、リミュールは彼女の真実に一歩近づいた気になる。血縁といえども個を尊重するドライなフランス人思考が新鮮だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で新作映画でファビエンヌは母の愛情を受けずに年老いた女に扮し、リミュールが味った “母の不在” による素直な愛の欠如を表現しなければならず、少しはリミュールの寂しさを理解する。劇的な展開はなく重大な秘密が明かされるわけでもない。それでも2人の間に漂う緊張感は母娘だからこその葛藤に満ちていた。

監督  是枝裕和
出演  カトリーヌ・ドヌーブ/ジュリエット・ビノシュ/ イーサン・ホーク/リュディビーヌ・サニエ/クレモンティーヌグルニエ/マノン・クラベル/アラン・リボル/クリスチャン・クラエ/ロジェ・バン・オール
ナンバー  244
オススメ度  ★★★


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https://gaga.ne.jp/shinjitsu/

アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール

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生まれた時からほとんど見えなかった。盲学校でわずかに残っていた視力も消えた。だが、彼には天賦の歌声があった。物語は、オペラ歌手として世界的な名声を得た盲目の男の前半生を描く。演奏家やマッサージ師といった視覚障碍者向けの職業にはつきたくない。ならばと法律家を目指して晴眼者対象の進学校に入学する。文字は読めなくても音読と録音テープで補い猛勉強、それでも音楽の夢は忘れられず夜は酔客相手にピアノを弾きながら歌を聞かせる。その間ずっとチャンスを待ち続けるがなかなか朗報は来ない。主人公の人生における転換点を劇的に取り上げる展開にせず、下積み時代の苦労エピソードの連続は、ハンディが斟酌されない実力の世界で生きていく彼の覚悟がうかがわれる。

視覚障害アモスは幼少時からオペラのレコードに親しみ、少年時代はコーラスで褒められる。声変わりして美声を失うと弁護士目指して普通高校に進学、そこで親友だったアドリアーノと再会する。

2人はユニットを組み音楽活動を始めるが、アモスはかつてのような朗々とした歌唱曲を歌うわけではない。ところがナイトクラブで「椿姫」をデュエットしたことから再びクラシック歌唱法のすばらしさに目覚める。しばらくして、知人の紹介でマエストロと呼ばれる声楽家の下に弟子入り、訓練の日々を送る。このあたり、どんな特訓を施したのかを見せてほしかったのだが、マエストロは沈黙こそが最高の練習という。喉を休めるのも上達する秘訣なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、有力なエージェントに認められ、パバロッティの代役を務める話が持ち上がる。いつオファーがあってもすぐに応じられるように仕事をセーブしているのに、なしのつぶて。思い切ってエージェントに会いに行くが、ほとんど門前払い。経済的な苦境の中、妻とも険悪になっていく。そしてやっとステージに立てた時には30歳をとうに超えている。障害や挫折を乗り越えての成功というテンポの良いバイオグラフィではなく、待った時間の長さで芸能界の苦労を偲ばせる稀有な構成だった。

監督  マイケル・ラドフォード
出演  トビー・セバスチャン/アントニオ・バンデラス/ルイザ・ラニエリ/ジョルディ・モリャ/エンニオ・ファンタスティキーニ/ナディール・カゼッリ
ナンバー  229
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://bocelli.ayapro.ne.jp/

ライフ・イットセルフ 未来に続く物語

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美しく頭の回転も速くユーモアもあった。なにより愛しあっていた。だが彼女は突然去ってしまった。物語は、妻の不在からくる喪失感に苛まれる男と、彼と運命を交差させた人々の人生を描く。彼女のことはすべて頭の外に押し出したい。しかし、セラピーでは乗り越えなければならない課題でもある。少しずつ記憶をたどるうちによみがえってくるのはウイットの効いた会話と笑い声の絶えない日々。精神科医は、その思い出を過去のものとしてきちんと昇華しないうちは心の安定は訪れないままだという。なのに男はさらなる深い悲しみと絶望に打ちひしがれる。その一方で、確実に人々の思いは受け継がれている。“人生は信頼できない” という妻の卒論中の言葉に、それでも未来は信じる価値があると付け加えたくなった。

出産直前の妻・アビーが姿を消し悲嘆にくれるウィル。学生時代に知り合い、結婚し、幸せの絶頂にいたウィルにとって、アビーのいない日常は耐えられないほど苦しかった。

アビーはいなくなったが、赤ちゃんは無事生まれウィルの両親が引き取る。ディランと名付けられその娘は祖父に大切に育てられるが、音楽にのめり込むようになると反抗的になり、祖父を負担に感じ始める。祖父にしてみれば、物質的にも愛情も十分に与えたのにもう言うことをきいてくれない不満は大きいはず。身内はディランひとりしかいないのに、彼女が自分から離れていく寂しさがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

スペインのオリーブ農場では、実直な農夫・ハビエルと愛妻、ひとり息子のロドリゴが仲良く暮らしている。彼らが家族旅行でNYを訪れたのを機にアビーの悲劇が起こるのだが、さらに十数年後、NYに渡ったロドリゴが特別な体験をする。人と人は数奇な縁で繋がっている。隣にいるのは無関係な他人ではなく、いつかどこかで接触した人かもしれないし、将来出会う人かもしれない。見知らぬ他人を見る目を変えてくれる作品だった。それにしてもなぜハビエルは地主の厚意に頑なな態度を取ったのだろうか。

監督  ダン・フォーゲルマン
出演  オスカー・アイザック/オリビア・ワイルド/マンディ・パティンキン/オリビア・クック/ライア・コスタ/アネット・ベニング/アントニオ・バンデラス
ナンバー  228
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://life-itself.jp/

ヒキタさん! ご懐妊ですよ

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検査のために訪れた産婦人科の待合室、数人の妊婦のなか初老のオッサンがひとりで順番を待つ。2時間も居心地の悪さに耐えやっと診察室に入ったら、今度は女性医師から精子が不活性だと告げられる。薄々気付いていたが面と向かって宣告されたときの衝撃。男として値踏みされ、その価値を否定されたような屈辱感がリアルに再現されていた。物語は、ベテラン作家と若い妻の “妊活” を描く。彼女の生殖機能には問題はない。夫の精子は20%しか動いていない。相談した医師からは具体的なアドバイスはなく、己の頭で考え行動するしかない。民間療法から迷信までなんでも試した。酒を断ち運動し節制に励んだ。それでも叶わない夫婦の願い。人工授精をするたびに青い蓋のカプセルに精液を入れて提出する、そのトホホ感がほのかな笑いを誘う。

子供を作らないと決めていたヒキタとサチ夫婦だったが、友人の子を見たサチが心変わりする。毎朝基礎体温を測り始めたサチは、排卵日には早く帰宅するようヒキタに求める。

だが、タイミング法では結果が出ず、人工授精に切り替えるヒキタとサチ。何度も医師の説明を受け、世間で誤解されているような “試験管ベビー” ではないことを確認し、周囲にも理解させる。一方でヒキタは活性精子の割合を上げるためにあらゆる努力を怠らず、そのための生活習慣がむしろ心地よく感じるまでになっていく。どこかドライな関係だったヒキタとサチが妊娠という共通の目的を通じて絆を深めていく過程は、夫婦の愛にもさまざまな形があると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、映画の語り口はあくまで緩く、「妊活入門編」の域を出ていないのが残念。授かりたいサチの切実な思いがヒキタに伝わり、ヒキタもサチに劣らず我が子を熱望するようになる変化も表層をなぞっているだけ。なにより伊東四朗扮するサチの父の無礼で非常識なキャラクターには興ざめした。義理の父に嫌われているヒキタから見たデフォルメした振る舞いなのはわかるが、もう少し気の利いた表現があったはずだ。

監督  細川徹
出演  松重豊/北川景子/山中崇/濱田岳/伊東四朗/
ナンバー  241
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://hikitasan-gokainin.com/

蜜蜂と遠雷

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工房の小さな窓から差し込むやわらかな光を浴びながら、若い男女は月をテーマにした名曲を連弾する。彼女は失意のどん底からの再起を期し、彼はピアノの楽しさを全身で表現する。音楽に人生を賭ける覚悟が揺らいでいる者と、音楽こそ人生と定められた運命の下に生まれてきた者の対比が印象的だった。物語はプロ演奏家への登竜門的なピアノコンクールに参加した4人の若者たちの戦いを描く。エリート街道を歩んできた者がいる。大きな挫折を味わった者もいる。天真爛漫な神童がいる。妻子持ちの苦労人もいる。それぞれが背負ってきた過去と進むべき未来図を胸に抱いて鍵盤に集中し、指先から紡ぎ出されるメロディに全人格を凝縮させる。皆、お互いが最高のパフォーマンスができるように協力する、そんな競争相手に対する敬意が心地よかった。

天才少女と呼ばれていたがコンサートをドタキャンし一線から身を引いていた亜夜は、会場で幼馴染のマサルと再会する。マサルジュリアード音楽院で英才教育を受けていた。

伝説のピアニストからの推薦状を携えた塵は審査員の意見を二分するほどの斬新さとテクニックを持つ。サラリーマンの明石は仕事と子育ての合間に練習を重ね、“生活者の音楽” を標榜する。各々の個性と想像力が試される二次選考、超絶技巧と自由な発想で聴く者を魅了する塵と、あくまで正攻法を極めようとするマサルの、対照的な世界観の違いが興味深かった。一方で、彼らほどの才能には恵まれなかった明石の “凡人の最高峰” というべき奏法は、とんがった部分がない分素人にはわかりやすかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

恋も友情も青春のきらめきも、普通の人間ならば誰もが通る道を彼らは知らない。ステージではピアノに捧げた情熱と成果のみが問われている。芸術の神に選ばれるためにはあらゆる煩悩を断って不断の努力を続けるべしと彼らの生き方は示していた。ただ、長大で濃厚な原作を忠実に映像化するには2時間という上映時間では消化不良。音符が洪水のごとく押し寄せる本選曲にも疲れた。

監督  石川慶
出演  松岡茉優/松坂桃李/森崎ウィン/鈴鹿央士/平田満/アンジェイ・ヒラ/斉藤由貴/鹿賀丈史
ナンバー  239
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://mitsubachi-enrai-movie.jp/