こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ロケットマン ROCKETMAN

f:id:otello:20190826103141j:plain


パパは不機嫌だった。ママは無関心だった。寂しさを紛らせてくれたのは家にあったピアノ、少年は習うでもなく身についていた絶対音感を目覚めさせていく。物語は飲酒ドラッグ同性愛に溺れ人生を見失ったシンガーソングライターの半生を綴る。音楽だけが心を解放してくれた。歌を作ることで友人もできた。そして駆け上がっていったスーパースターへの階段。だが夢に見た成功の先にあったのは限りない孤独。信じて裏切られ、わがままを言っては周囲を困らせる。やがて現実を忘れるためにさらなる悪癖に染まっていく。自分を見てほしかった。辛いときは励ましてほしかった。怒った後でも優しい言葉をかけてほしかった。普通の家庭ならば経験できたはずの、両親に大切にされる喜び。そんな主人公の、ただ愛してほしかったという魂の叫びが胸にしみる。

エルヴィスの影響を受けたレジーはバックバンドのピアニストとして食いつなぐ日々。エルトン・ジョンと改名しエージェントに曲の売り込みに行くと、バーニーが書いた詞の作曲を依頼される。

出来上がった歌は上出来で、プロデューサーからもっと歌を作れと命令されたエルトンとバーニーは作詞作曲に没頭、アルバムがヒットすると米国に進出する。そのころエルトンは同性愛に気づきバーニーとの関係に微妙な変化が表出する。そこに、マネージャーになると現れたリードにエルトンは恋に落ちる。ビジネスパートナーでありゲイ恋人でもあるリードは、少しずつエルトンを支配するようになる。その後は名声を高めるとともに昔の仲間を切り疑心暗鬼になるありきたりな轍を踏む。それでも、集団セラピーから場末のクラブでの狂乱まで彼の喜怒哀楽に寄り添ったミュージカル仕立ての映像は、感情が昇華された歌とダンスの興奮と感動に満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

エルトン自身まだ存命中で、映画化されたのは、様々な中毒から立ち直り魂の安寧を得るまで。両親の拒否反応は、古い価値観に生きていた彼らが我が子に同性愛的性向を感じていたからだろうか。。。

監督  デクスター・フレッチャ
出演  タロン・エガ-トン/ジェイミー・ベル/ブライス・ダラス・ハワード/リチャード・マッデン/ジェンマ・ジョーンズ
ナンバー  199
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://rocketman.jp/

エンテベ空港の7日間 7 Days in Entebbe

f:id:otello:20190824143201j:plain


大勢の人質を前にして延々と己の経歴と功績を披露し、いかに人道的で慈悲深い指導者であるか自画自賛する狂気の独裁者。彼が支配する国に命を預けられた人々の恐怖がリアルだ。物語は、ハイジャック事件をめぐって、犯人グループと人質、救出作戦を諮る政府首脳と特殊部隊隊員たちの苦悩と葛藤を描く。犯人グループのドイツ人は良心を捨てきれず、指揮を執るパレスチナ人に動機を問われる。閣僚たちの間では強硬派と懐柔派の意見が分かれる。そして実際に現場で命を張る兵士は恋人の理解を得られず未練を残したまま任務に就く。1976年当時は機内荷物のチェックがなく、犯人グループは簡単に拳銃、自動小銃、手榴弾などを持ち込んでいる。セキュリティは無防備、現代の観点でみると非常に恐ろしい。

乗客乗員200名以上を乗せたエールフランス機が乗っ取られる。4人のテロリストはウガンダエンテベ空港に着陸させ、人質を閉鎖された旧ターミナルビルに移動させた上で、政治犯の釈放を要求する。

パレスチナ人2人と西ドイツ人2人の犯人グループは人質を選別し非ユダヤ人を解放する。肉親を殺したイスラエルに対して怒りと憎しみを抱くパレスチナ人は腹を括っているが、ドイツ人はユダヤ人に銃を向けるのをためらっている。そのあたり、頭でっかちの革命を唱えるドイツ人と流血の惨事を体験してきたパレスチナ人の覚悟の違いが興味深い。一方で、イスラエル政府は自分たちの問題ととらえ、他国の援助なしで単独で救出作戦を練る。まだスパイ衛星もGPSもない時代、人間がもたらした情報を頼りに立案し実行に移す。そんな、周囲を敵に囲まれたイスラエルの軍人・諜報機関の優秀さが印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

椅子に座った十数人のダンサーたちが順番に立ちあがり激しく体を揺らす。ひとりが前のめりに床に倒れ込んで舞踊の列から外れる。他のダンサーは伝統的な衣装を脱ぎ捨てるのに、彼女だけは服を着たまま投身を繰り返す。流れに抗い自己主張を通すには痛みが伴うことを、この奇妙なダンスは訴えていた。

監督  ジョゼ・パジーリ
出演  ダニエル・ブリュール/ロザムンド・パイク/エディ・マーサン/リオル・アシュケナージ/ドゥニ・メノーシェ/ベン・シュネッツァー
ナンバー  186
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
http://entebbe.jp/

HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ

f:id:otello:20190823112052j:plain


ネクラで冴えない青春を送ってきたとき、ふとしたきっかけで言葉を交わした町一番の美女、そして不良。その出会いは彼の人生を劇的に変えていく。物語は、ひとりで避暑地にやってきた青年のひと夏の出来事を描く。出だしは順調だった。自分にこんな度胸と商才があるなんて気づかなかった。ところが少しずつ昂揚する気持ちを抑えきれなくなり、忠告も掟も破ってしまう。初恋というには切なすぎる。冒険と呼ぶにはヤバすぎる。それでも一度目覚めた衝動は暴走し、止められない。パーティで誰とも友人になれなかった主人公がビビりつつもアイデアを出し、やがて本物のギャングとも大胆な交渉をするようになる。それは女の子が相手でも同じ。成功体験はなにごとにも代えがたい自信になり若者を成長させるとこの作品は訴える。

マリファナ売人のハンターとつるむようになったダニエルは、彼を手伝ううちに商売の拡大を提案する。その後、地元の卸元から仕入れた大量のマリファナを売りさばき大金を手にするようになる。

同時に町の少年たちの憧れの的・マッケイラとも付き合いだしたダニエル。小さなきっかけに胸を躍らせ、おどおどしながら彼女に話しかけるあたり、まだまだ恋愛初心者といった感じ。しかし彼女はハンターの妹、近づいたら殺すと警告される。マッケイラもダニエルがハンターの舎弟になっていると知らない。初めて心を許した人たちなのに、本当のことを言い出せなくなったダニエル。さらにドラッグディーラーとしても禁じ手に走ってしまう。いくつもの秘密を抱え込みながらも後戻りできないところに来てしまったダニエルの、苦悩と焦燥がリアルかつ繊細に描写される。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

大型ハリケーンが町を襲った夜、取り返しのつかない事態に発展する。もう逃げるしかない。でもマッケイラをあきらめたくない。暴風雨の中でクルマを激走させるダニエルは切望と後悔に押しつぶされそうになる。すべては己が撒いた種、若さゆえの軽率さと全能感と絶望が迸るような感性で再現されていた。

監督  イライジャ・バイナム
出演  ティモシー・シャラメ/マイカ・モンロー/アレックス・ロー/ウィリアム・フィクナー
ナンバー  198
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://hot-summer-nights.jp/

イソップの思うツボ

f:id:otello:20190822123123j:plain


サークル活動もバイトもせず友達と遊ぶわけでもなく、講義が終わるとまっすぐに帰宅する。当然ボーイフレンドにも縁がなく、母には恋をしろとせっつかれている。物語は、地味な女子大生の冴えない日常を軸に、愛する者を奪われた人々の壮大な復讐を描く。芸能活動をしている華やかなクラスメートについ視線を送ってしまう。黒縁メガネで前髪をいじるイケメン先生に胸がときめいてしまう。でもなかなか行動に移せずもたついているうちに、せっかくのチャンスを逃がしてしまう。そんな、不器用だけれど精いっぱい生きている彼女が怒りと憎しみを蓄積し、飼育していたカメの死を機に決意を固めるシーンが印象的だ。びくついている人間ほど開き直った時に腹が据わっていると、大胆に変身したヒロインは教えてくれる。

非合法の “復讐代行屋” を営む戌井父娘は、ヤクザに脅されてデート中のタレント女子大生・早織とその恋人を誘拐する。早織の父は若い女と密会中に妻から知らせを受け、身代金を用意する。

早織の恋人は大学の講師で、実は早織の母ともデキている。夫は援交、妻は不倫、そして母子どんぶりと、TVでは仲良し家族を演じているのにこの一家は完全に崩壊している。それでも早織の一大事に夫婦はとりあえず力を合わせている。だが、身代金受け渡し場所への移動中に事態を理解し始め、犯罪の裏にもっと大きな何かが隠されていると気づいていく。その間、現実が少しずれたような違和感が映像から漂い、それが意外な人物の登場で頂点に達すると裏切りと欺瞞に満ちたどんでん返しが待ち受け、映画はさらに全く予想外の方向へ舵を切っていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、実はこういうからくりだったと種明かしする段階で驚きはするものの、後出しじゃんけんのようなこじつけ感はぬぐえない。ターゲットのマネージャーになったり恋人になったりするのは、かなりの熟練したテクニックが必要な上、偶然に頼る要素が強すぎるのだ。母を失った一家の思いは共感できるが、彼らの仕掛けに合理性を持たせてほしかった。

監督  上田慎一郎/中泉裕矢/浅沼直也
出演  石川瑠華/井桁弘恵/紅甘/斉藤陽一郎/藤田健彦/高橋雄祐/桐生コウジ/川瀬陽太/渡辺真起子/佐伯日菜子
ナンバー  197
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://aesop-tsubo.asmik-ace.co.jp/

命みじかし、恋せよ乙女 KIRSCHBLUTEN & DAMONEN

f:id:otello:20190821095756j:plain


仕事を失った。妻子からも見放された。絶望と自己嫌悪に苛まれた男はひきこもってしまう。そんな時現れた異国の女。映画は、酒に溺れ人生に行き詰ったドイツ人がわずかに面識のあった日本人女と生活を共にするうちに、少しずつ生きる勇気を取り戻していく過程を描く。脳裏によみがえるのは幼いころ兄姉にいじめられた苦い記憶。目に映るのは思いを残して死んだ両親の霊。女と付き合ううちに、それら過去からの亡霊との距離感がつかめるようになった彼は、逃げてばかりいた現実に向き合うようになっていく。そのたびに、優しく見守りつつも妖しい視線を送る女。彼女は実在するのか、本当に父の知り合いだったのか。ふたりの気持ちが接近するにしたって疑問は深まるばかり。オープニングの日本画がその正体を暗示する。

二日酔いで寝込むカールの部屋にユウと名乗る女が上がりこんでくる。ユウはカールの亡父の知人、カールはユウとともに田舎の別荘に移り、ふたりだけで暮らし始める。

ユウのおかげで霊感に目覚めたカールは、両親の霊と会話し黒い霊に脅える。同時に疎遠だった兄とも連絡を取ったりするが、仲たがいを収めるほどにはならない。それでも日中正気でいられる時間は確実に長くなっている。ところが、ふがいない姿に父が始めた説教にカールは深く傷つく。このあたり、カールのアルコール依存の原因からユウの誘惑を拒む理由、さらに性的嗜好の変化など、曖昧にぼかされた要因が提示されるが、どれも物語をけん引するほどの力はなく低空飛行のまま。酩酊状態から抜けきらないカールの、ぼんやりとした脳内を暗喩していたのだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

重傷を負って “チンコを失った” カールは、理想の自分から解放されたと感じ、ユウに会うために日本へ行く。湘南の古い旅館で待っていたのはユウの祖母。そこで聞かされた真実にカールは茫然とするが、逆にカールは生き続けることこそ、先に死んだ者への供養になると気づく。「ラスト樹木希林」以外に価値の見いだせない作品だった。

監督  ドーリス・デリエ
出演  ゴロ・オイラー/入月絢/ハンネローレ・エルスナー/エルマー・ウェッパー/樹木希林/フェリックス・アイトナー
ナンバー  196
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/ino-koi/

ダンスウィズミー

f:id:otello:20190820100039j:plain


音楽が聞こえると脳内のミュージカルモードにスイッチが入り、体が勝手にリズムをとり歌い始める。本人の感覚の中では周りの人々も自分に合わせてくれているが、音楽が止まり正気に戻ると現実は死屍累々。いたたまれなくなった彼女は精神科を受診するが催眠術にかかっていると診断される。物語は、そんなヒロインが自らにかけられた催眠を解くために、東京から札幌まで自動車で旅する姿を描く。相棒はお調子者の貧乏ダンサー、全く違う世界の2人は反発したり協力したりするうちに友情を育んでいく。一流企業のオフィスから高級レストラン、暴走族のダンスバトル、そしてしょぼいステージでのショー。耳になじんだ昭和歌謡から現代のオリジナルナンバーまで、大柄で手足の長い三吉彩花のパワフルな歌とダンスに圧倒される。

エリートOLの静香はインチキ催眠術師・上田を追って、上田の元助手・千絵と共にオンボロ車で新潟に向かう。だが上田はすでに弘前に移動した後、2人は路上ミュージシャンを拾って北上する。

“突然人が歌って踊り出すミュージカルって変” と姪と一緒に言っていた静香だが、実は幼少時には歌もダンスも得意だった。しかし小学校の学芸会での失敗がトラウマになってそれ以降は封印、催眠術が大人になった彼女の潜在意識に火をつけたという設定がユニークだ。やはり人間はやりたいことをしている時がいちばん輝いている。仕事での悩み、カネのない辛さ、努力が報われなむなしさ。でも朗唱舞踏でみな忘れ、その間の充実感だけが記憶に残る。たとえそれが妄想でも楽しかった実感は本物、避けていた音楽を少しずつ受け入れていく過程が静香の成長を感じさせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、ミュージカルとは登場人物の喜怒哀楽、夢や希望、愛と人生のすばらしさを歌い上げ全身で表現するパフォーマンスという思い込みに一石を投じる矢口監督の試みにはあまりノレなかった。歌い踊ること自体が目的で、そこには感情も意図もない。「ウエディング・ベル」以外は歌い手に共感できなかった。

監督  矢口史靖
出演  三吉彩花/やしろ優/chay/三浦貴大/ムロツヨシ/宝田明
ナンバー  195
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://wwws.warnerbros.co.jp/dancewithme/

永遠に僕のもの El Angel

f:id:otello:20190819101650j:plain


ほしいものは盗めばいい。邪魔な奴は撃てばいい。両親には言い訳しておけいい。警察は騙せばいい。物語は若き犯罪者の刹那的な暴走を描く。好きなように生きると言っては豪邸に侵入し、気に入った品は持ち帰る。犯罪のプロと手を組んで、もっと大きな獲物を狙う。見かけによらず大胆で行動は予測できない。計画は平気で変更するけれど、行き当たりばったりのようで計算している。汗水たらして働くなんて馬鹿な奴のすること。でもいくら大金が手に入っても心は満たされない。何を求めていたのだろうか。どこを目指していたのだろうか。犯行をエスカレートさせても答えは遠のくばかり。将来なんか考えない。いい人生なんかくそくらえ。今が充実していなければ意味がない。そんな主人公の、夢や希望に背を向けた青春が鮮烈だ。

工業高校に入学したカルリートスはラモンに近づき、ラモンの父の泥棒仲間になる。銃砲店や宝石店に侵入し予想以上の成果を上げるカルリートスにラモン父子は一目置くようななる。

強盗に入った家の老人をはじめ、目撃者には容赦なく引き金を引くカルリートス。警告するでもなく躊躇するでもなく、人を殺しても感情は動かない。相手はただ窃盗の妨害になるというだけ。だが、殺人を楽しんでいるわけでもない。簡単には理解できない彼の気持ち、かといって狂気にとらわれているのとは違う。プロファイリングできない特異な犯罪者像をロレンソ・フェロが美しく妖しく演じる。体をくねらせるダンスが優美で官能的だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

検問に引っかかり逮捕されたカルリートスとラモンだったが、カルリートス1人がうまく逃げたせいで友情にひびが入る。ところがラモンの新しい相棒・ミゲルは頭が悪く役に立たない。カルリートスはミゲルの顔にも銃弾をぶち込む。もう何人殺めたのか、それでもカルリートスはラモンを親友だと思っている。なのに彼はもういない。破滅に向かうまでのわずかな時間に感じた自由、この一瞬が永遠に続けと願いステップを踏むカルリートスの姿が切なかった。

監督  ルイス・オルテガ
出演  ロレンソ・フェロ/チノ・ダリン/メルセデス・モラーンアナ/ダニエル・ファネゴ
ナンバー  194
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono/