こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

楽園

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右に進んだ子は無事帰宅した。左に行った子は行方不明になり、ランドセルが見つかった。山奥の過疎の村、情報は住民の間を駆け回りよそ者は常に色眼鏡で見られる。物語は、未解決女児行方不明事件の12年後、別の事件をきっかけに新たな悲劇が繰り返される過程を描く。小さなアパートで必死に生きる出稼ぎ外国人母子、狭い世界に息苦しくなって東京に出た娘、都会から戻って養蜂を始めた男やもめetc. 村以外の空気を吸ったことのある者は排他的な視線をいつも感じている。平時は良好な対応をしてくれるが、一度しくじったら絶対に許してもらえない。急激な変化を嫌う古い価値観、建前や因習、地縁血縁でがんじがらめにされた閉鎖的体質気質がリアルに再現されていた。そして、疎外された人々の孤独が切なくも哀しい。

行方不明少女の親友だった紡は農道で転倒、バンで通りがかった豪士に助けられる。急接近するふたりだったが、再び行方不明事件が発生、村人は豪士が犯人と決めつけて追い込んでいく。

一方、山間の集落では田中がひとりで養蜂場を営んでいたが、有力者の怒りを買って村八分にされている。あらぬ噂を立てられたりゴミ出しを禁止されたり役所に強制代執行させたりとやり方は陰湿、田中は徐々に追い詰められていく。ほかにもせっかく東京に出た紡が友達もできず同郷の青年とつるむあたり、どこに行っても田舎の人間関係に振り回されている。逃げ出したい、でも行き場がない。破滅するしかない男たちの運命がヒリヒリするような感覚の映像に活写されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、ミステリーの体裁をとるなら真犯人は明示すべき。豪士は少女の名をつぶやいて自焼するが、彼に少女の死体を隠す余裕はなく、単に彼女への思いを口にしたかっただけかもしれない。むしろ田中が少女の死体を軽トラで自分の土地に運んで埋めたとも解釈できる。結局、豪士・紡・田中3人のエピソードが散文的に羅列されるばかりでクライマックスへの伏線にはなっていないのは残念。やはり衝撃の真実を用意してほしかった。

監督  瀬々敬久
出演  綾野剛/杉咲花/佐藤浩市/村上虹郎/片岡礼子/黒沢あすか/石橋静河/根岸季衣/柄本明
ナンバー  250
オススメ度  ★★*


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EXIT

 

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足元から迫り来る死の霧、生き延びるためにはより高いところに逃げるしかない。クライミングで鍛えていた彼らはわずかな希望を胸に建物の外壁を登り、ロープでビルからビルへ渡り、屋根の上を疾走する。物語は、繁華街で有毒物質を撒きちらす無差別テロに遭遇した元大学山岳部員の男女ふたりが、力を合わせて難局を切り開き大勢の命を救う姿を描く。卒業しても無職のままだった男は、コクってフラれた後輩女子にいいところを見せたい。後輩は上司のセクハラに耐えながら職場にしがみついている。そんな時に起きた大事件。男は身を挺して逃げ遅れた人々を守ろうとする。ぎこちなく接していた彼女も、彼の利他的行為に共感して行動を共にする。人間の価値は、絶体絶命に陥った時に何をしたかで測られるとこの作品は訴える。

祖父の古希祝の中、会場ビルの周辺が致死性のガスに覆われる。出席者のヨンナムと副店長のウィジュは招待客を屋上に避難させようとするが、ドアは外側からしか開かない。

求職中もトレーニングだけは欠かさなかったヨンナムは最上階の窓ガラスを割り、外壁を伝って屋上に出ようとする。ところどころに出張った小さな突起物に指先をかけ、少しでもスペースがあればつま先を乗せて手を休め、ウィジュから預かったカラビナを信じてひたすら屋上を目指す。ところが、ヘリの救助カゴは重量オーバー、ヨンナムとウィジュは他人を優先させ屋上に取り残される。建物の中に残っていたロープやビニール、テープ、マスクで防護服を作りさらなる脱出を繰り返すヨンナムとウィジュ。危機また危機の連続の中で勇気とやさしさを失わないヨンナムに対しウィジュもまた強くなっていく。お互いに対する信頼こそが愛に発展するのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

自力で切り抜けるしかない状況に追い込まれたふたりは、ドローンにライブ中継されたのをきっかけに多くに市民の協力と励ましを受ける。数十機の民間人ドローンが彼らの前に道を示すシーンは、小さな善意も集まれば大きな力になると教えてくれる。

監督  イ・サングン
出演  チョ・ジョンソク/ユナ
ナンバー  247
オススメ度  ★★★


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ボーダー 二つの世界

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他人と距離を取って生きてきた。胸襟を開いて語り合える相手はいなかった。なぜこれほどまでに魁偉なのか、なぜ父はいつも話をはぐらかすのか。疑問に思っていたが日常は何事もなく過ぎていく。物語は、人の羞恥心や罪悪感をかぎ分ける能力を持った女が自らのアイデンティティを探る過程を描く。己を解放できるのは全裸で森を駆け沼で水浴するときだけ。そして彼女が同類の空気をまとった男と出会ったとき、運命が始動する。恐ろしいまでに仏頂面のヒロインが彼といるときに見せるはにかんだ表情が印象的だ。現代の美的感覚からすれば醜悪な容貌を細部まで作り込んだメークは非常にリアルで、まるで元からこんな顔の俳優なのかと思わせるほどの出来栄え。彼ら抑圧された少数者が普段感じている生きづらさを象徴していた。

関税職員のティーナは旅行客の密輸品を正確に見抜く特技で摘発実績を上げていた。ある日、怪しげな男・ヴォーレの荷物を調べるが無実、ティーナはほどなくヴォーレに惹かれていく。

ヴォーレは昆虫の幼虫を集めては食べ、ティーナにも勧める。ティーナにとってヴォーレは初めて価値観を共有できる男、同棲中の男を追い出しヴォーレに部屋を貸すティーナは充実した日々を送る。ヴォーレもまた人目を忍んで暮らしてきたのだろう、邪魔する者がいないふたりの世界で彼らは生と性の喜びを満喫する。ずっと抑え込んできた感情を爆発させるかのように交合するシーンはショッキング。彼らが受けてきた迫害の歴史が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

自分たちが北方に隠棲する亜人種の生き残りであるとヴォーレから教わったティーナは、児童ポルノ犯捜査に駆り出されるうちに、ヴォーレが事件に関係していると知る。一応人間として育てられたティーナは法やモラルを破る気にはなれない。一方でヴォーレは人間への復讐を企てている。ヴォーレの同志となるべきか、彼の蛮行を止めるべきか、ティーナは岐路に立たされる。愛を貫くには成熟しすぎた、そんなティーナの哀しみが切なかった。

監督  アリ・アッバシ
出演  エバ・メランデル/エーロ・ミロノフ
ナンバー  248
オススメ度  ★★★


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http://border-movie.jp/

ブルーアワーにぶっ飛ばす

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観光名所はカッパ像と巨大獅子頭、ファミレスもコンビニも徒歩圏内にはない。母は相変わらず料理下手、父は骨董の刀を振り回し、兄はひきこもっている。物語は、多忙なCMディレクターが友人を連れて帰郷、彼女の胸によぎるさまざまな思いを描く。幼いころは夜明け前に全力疾走するほど大好きだった田舎道も、成長するにつれて嫌悪の対象になった。大人になって離れてからは二度と帰りたいとは思わなかった。残っているのはヤンキーと農業従事者だけ、ランチタイムのリストランテでも夜のスナックでも交わされるのは下品で下世話な会話ばかり。やっぱり戻るんじゃなかった、会いたい友だちもいない。そんな、故郷を捨てたヒロインの地元での居場所のなさがヒリヒリする感覚で再現されていた。

老人ホームに入っている祖母を見舞うために茨城に行くことになった砂田は親友のキヨが運転するクルマで実家に向かう。代わり映えしない風景に砂田は失望を隠せないがキヨは大喜びではしゃぎまわる。

無駄にポジティブなキヨはビデオカメラを手放さず気になる人や物にレンズを向ける。成り行き上、砂田の実家に泊る羽目になるが、なにごとにも興味を示しとりあえずは体験しようという好奇心の持ち主。東京での生活で煮詰まった砂田にとってガス抜きのような存在だ。いやむしろ田舎に来てからとんがった態度の砂田を “ダサイっすよ” とたしなめるあたり、砂田にとっての正反対の自画像といえるのではないだろうか。まだ夢と希望と期待がいっぱいだったころのスレていない自分、砂田はキヨの自由奔放さと心の柔軟さに、過去に抱いていた理想を見ているのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

老人ホームでは育ての母ともいえる祖母がすっかりしなびた様子で砂田を迎える。もう死を目前にした老人、意識も体力も弱っている。それでも1日でも長く生きようとしている姿に、砂田は己の胸に去来する仕事や夫、愛人といった東京での日常とは違う時間のベクトルを感じ取る。この帰省で、成熟を受け入れる準備が砂田にはできたはずだ。

監督  箱田優子
出演  夏帆/シム・ウンギョン/渡辺大知/嶋田久作/ 伊藤沙莉/ユースケ・サンタマリア/でんでん/南果歩
ナンバー  246
オススメ度  ★★*


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http://blue-hour.jp/

マレフィセント2

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緑深い森で平和に楽しく暮らしている妖精たちは、町の人間たちから見れば得体のしれない不気味なもののけ。逆に妖精たちには人間が暴力的な怪物に思える。大きな川を挟んで隣り合う2つの世界はひとつになろうとするが、巨大な陰謀がその前に立ちふさがる。物語は、恨みと憎しみを腹に持つ女王に騙された魔女の復讐を描く。大いなる魔法をもってしても科学の力には敵わない。人間は広大な森を手に入れるためには手段は選ばない。そして、より豊かになりたいと願う彼らの強欲の前に妖精たちの楽園は崩れていく。自然と共生する妖精たちにとって、もはや人間は脅威でしかないのだ。数多のおとぎ話で語られてきた魔物や化け物を退治する冒険譚は、人間側の “正義” の一方的な押し付けであるとこの作品は訴える。

森の妖精たちの女王・オーロラは隣国の王子・フィリップにプロポーズされ大喜び。養母・マレフィセントは結婚に反対するが、オーロラの決意は固く、王宮での晩餐会の招待を渋々受け入れる。

フィリップも父王もオーロラも、人間と妖精の国境がなくなって両者が共存するのを望んでいる。だが王妃・イングリスは過去の因縁から妖精たちの森をわがものにしようと企んでいる。食卓に着いたマレフィセントに対し不愉快な発言を繰り返して挑発、狡猾にもマレフィセントを陥れようとする。怒りに燃えたマレフィセントは羽を広げ飛び立つが弱点である鉄弾を撃ち込まれる。水に落ちたマレフィセントの痛々しい姿は、「開発」の名のもとに傷つけられていく環境を象徴しているようだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

近年のディズニー映画の例にもれず主人公は女だが、ここでは敵役も女。戦場で指揮を執り兵士たちを鼓舞している。さらに妖精虐殺に直接手を下すのも女司令官だ。一方で、王や王子を始めマレフィセントの仲間の翼人種でも男は和平派が多い。もちろん戦争を望む男たちもいるが、彼らに決定権はない。マレフィセントやイングリスが忘れたやさしさや愛を、今度はオーロラが教えてやる番ではないだろうか。

監督  ヨアヒム・ローニング
出演  アンジェリーナ・ジョリー/エル・ファニング/ミシェル・ファイファー/ハリス・ディキンソン/サム・ライリー/MIYAVI
ナンバー  240
オススメ度  ★★★


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https://www.disney.co.jp/movie/maleficent2.html

空の青さを知る人よ

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恋人との未来を棒に振った姉は、自分のために地元に残った。時は流れ、姉の幸福を奪ってしまった自責の念は日に日に大きくなる。そんな時現れた “冷凍保存された” 過去。物語は、ミュージシャンを目指す女子高生と13年前の姿のまま変わらない姉の元恋人のはかない恋を描く。時間は残酷なまでに、確実に姉を老けさせている。中途半端に夢が叶ってしまった元恋人は煮え切らないまま音楽を続けている。ふたりの葛藤を見てしまった若い男女は、理想と現実のギャップに動揺を隠せない。それでも、本当に大切なものは何か、他人を思うというのはどういうことなのかを学んでいく過程は、人は決してひとりで生きているのではなく、きっと誰もが誰かに必要とされていると教えてくれる。

年の離れた姉・あかねと暮らすあおいは、ギター練習場のお堂で高校生のまま年を取っていないしんのと出会う。しんのは13年前、あかねと別れて東京に出たはずだった。

あかねが働く市役所の町おこしに出演する演歌歌手のバックギタリストとして一応プロになった慎之介は、ぱっとしない己を恥じている。なによりあかねとはばつが悪いのか、彼女の前では素直になれない。きちんとけじめをつけたわけではなく、お互いに未練を残している。いや、本心ではずっと再会する機会を待ち望んでていた。秩父と東京、電車でたった2時間足らずの距離なのに自らは会いに行こうとはしなかった。よりを戻せばどちらかが今までの人生を捨てなければならない。まだ相手が好きなのに意地を張り合う、大人になり切れないあかねと慎之介の心情がリアルで共感を呼ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、あかねが廃坑に閉じ込められると、しんのは呪縛を破ってお堂を飛び出し、あおいと共に救出に向かう。その際、ふたりは手をつないだまま木々を飛び越え、宙を舞い、上空から落下する。「天気の子」にも同様のシーンがあったが、空や雲や風景の細密度ではハイビジョンと4Kほどの差があった。躍動感や浮遊感はけ負ていなかったけれど。。。

監督  長井龍雪
出演  吉沢亮/吉岡里帆/若山詩音/松平健/落合福嗣/大地葉/種崎敦美
ナンバー  245
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://soraaoproject.jp/

真実

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数十年のキャリアを通じて様々な女の人生を演じてきた。役になり切ってリアリティを出してきた。やがて彼女はプライベートな時間も女優であるのをやめず、いつしかどの人格が本当の自分かわからなくなってしまう。いや、都合のいい記憶のみを抽出しているのかもしれない。物語は、フランスの国民的女優が自伝を上梓、その本に翻弄される家族や近しい人々との軋轢を描く。綴られているのはきれいごとばかり、人間関係は美化され、ライバルや私生活を知る秘書には一切触れない。己の人生は賛美しても他者への思いやりはない。書かれた嘘と書かれなかった事実をについて、彼女を巡る人々の反応は様々、だが、米国に渡った娘は見抜いている。母と娘、いちばん近しい女同士の複雑に絡み合った感情がシニカルに再現されていた。

母・ファビエンヌの自伝出版祝に夫・娘と共に実家に戻ったリミュールは、その内容に驚きと不満を隠せない。愛情に満ちた母娘の描写は、リミュールにはまったく覚えのないものだった。

ほとんど家庭は顧みなかったのだろう、それどころか、慕っていたサラおばさんをファビエンヌが追い落としたことを、リミュールは恨んでいる。女優として尊敬し、いい暮らしをさせてもらって感謝しているものの、父を追い出したのは許せない。かといって絶縁するほど憎んでいるわけでもない。特別な母を持った娘だけが感じられる好感と嫌悪の相反する思い。もう成熟した大人になっているのにわだかまりは解けない。ところがファビエンヌの新たな一面を発見し、リミュールは彼女の真実に一歩近づいた気になる。血縁といえども個を尊重するドライなフランス人思考が新鮮だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で新作映画でファビエンヌは母の愛情を受けずに年老いた女に扮し、リミュールが味った “母の不在” による素直な愛の欠如を表現しなければならず、少しはリミュールの寂しさを理解する。劇的な展開はなく重大な秘密が明かされるわけでもない。それでも2人の間に漂う緊張感は母娘だからこその葛藤に満ちていた。

監督  是枝裕和
出演  カトリーヌ・ドヌーブ/ジュリエット・ビノシュ/ イーサン・ホーク/リュディビーヌ・サニエ/クレモンティーヌグルニエ/マノン・クラベル/アラン・リボル/クリスチャン・クラエ/ロジェ・バン・オール
ナンバー  244
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/shinjitsu/