こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アポカリプト

otello2007-06-18

アポカリプト APOCALYPTO

ポイント ★★★
DATE 07/6/15
THEATER 有楽町スバル座
監督 メル・ギブソン
ナンバー 115
出演 ルディ・ヤングブラッド/ダリア・ヘルナンデス/ジョナサン・ブリューワー/ラオウル・トルヒーヨ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


歴史に記されることなく、存在したことすら忘れられてしまった人々にも、日々の営みがあった。仲間と狩りをし、家族と安らぐ。それはなにものにも代えがたい貴重な時間だ。しかし、その平和を突然の暴力が襲い、自由を奪われた男は残された家族への思いだけを支えに生き抜く決心をする。絶望、不安、怒り、そして何よりも愛が男に勇気を与え走り続けるエネルギーを供給する。ただ、その物語を通じて描こうとしているテーマの主張が弱く、娯楽性にも乏しいためディテールに至るこだわりが生きてこない。


ジャングルで狩猟生活を送る部族の村がマヤ帝国の武装集団に襲われ、生き残った大人は全員捕虜となる。族長の息子・パウも捕らえられるが妻子だけは井戸に逃がす。捕虜たちはマヤの都に連れて行かれ、女は奴隷に売られ、男は神へのいけにえに捧げられる。パウは寸前に助かるが、今度は標的として兵士に追われる。


ひたすら走り続けるパウが、ハンターの本能を取り戻して追っ手をひとりずつ仕留めていく過程がスリリング。スズメバチ爆弾やカエルの毒吹き矢、さらにはケモノ用の罠に誘い込むという、ジャングルの特性を生かした戦い方は「ランボー」のようの洗練されている。しかし、相手を倒してもパウには達成感のようなものはなく、いくら異文化の人間といっても、もう少し現代人と共通した感情の発露があってもよかったはずだ。そのあたりパウに感情移入しきれなかった。


進んだ文明を持つグループが力の弱いグループを征服していくのは歴史の必定。密林の部族を制圧するマヤ人たち自身も、ヨーロッパ人から征服の対象として徹底的に破壊される運命が待ち受けていることを示唆しつつ、パウ一家が安寧を取り戻すというラストシーンは、歴史は戦争と殺戮の繰り返しで、滅びたものの名が残ることはほとんどないということを示している。今度はもっと強力な武器を持つ白人に狩られる未来が待ち受けるパウ一家に「新しい始まり」など訪れないことが分かっているだけに、かえって悲しいシーンだった。


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