こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パリ、恋人たちの2日間

otello2008-05-23

パリ、恋人たちの2日間 2 DAYS IN PARIS


ポイント ★★★★*
DATE 08/3/5
THEATER 映画美学校
監督 ジュリー・デルピー
ナンバー 55
出演 ジュリー・デルピー/アダム・ゴールドバーグ/ダニエル・ブリュール/アルベール・デルピー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


真剣に話し合うことがお互いの理解を深めるための最大の近道とばかり、どんな他愛のない話題でも自分の意見を堂々と主張する。しかし、米仏と生まれ育った環境が違うふたりの間ではその論点が少しずつずれていて、論理的に筋道を通して白黒つけようとする米国人に対し、巧みにユーモアと皮肉でくるむフランス人。欧州に脈々と伝えられてきた修辞学の伝統を受け継ぐパリ市民の、米国人への経済的な劣等感と文化面での優越感という微妙で複雑な気質がエスプリたっぷりに描かれている。


米仏の国際カップル・ジャックとマリオンは、ベネチア旅行の帰りにパリにあるマリオンの両親を訪れる。マリオンの家族・友人を紹介されるうちに、ジャックはマリオンのことをほとんど知らなかったと気づく。


ジャックが仏語を話さないと知ると、とたんに悪口を口にするパリっ子たち。父親がフランスの豊かな食文化を紹介しようとしてもジャックの口に合わず、結局ハンバーガーをほおばるジャックは、フランス人から見れば野蛮人以外の何者でもないのだろう。また、別れた恋人同士が友人でいるという習慣にもなじめず、ジャックは昔の恋人と親しげに話をするマリオンに嫉妬する。そのあたりにも恋愛観における米仏の成熟度の違いが如実に現れる。


コンドームのサイズ、猫の餌、ベッドでの体位、人種差別や服の素材まで、身の回りのあらゆる物事が議論の対象になり、まるでそれが最大の娯楽のごとく言葉のやり取りを楽しむフランス市民文化の奥行きにジャックは驚くばかり。やがて、マリオンがジャックを傷つけまいとついた小さな嘘がばれ、ジャックはマリオンが信じられなくなり別れを決意する。それでも胸のうちを話し終えると、やっぱり相手が一番大切な人と思えてくる。長距離列車からふたりがダンスを舞うラストまで、すべてのシーンがチャーミングで、会話の隅々までウイットが行き届いている演出と脚本は洗練の極みだ。


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