新しい靴を買わなくちゃ
監督 北川悦吏子
出演 中山美穂/向井理/桐谷美玲/綾野剛
ナンバー 248
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
おばさんになっても、結婚・離婚・出産歴があっても、子供を亡くしていても、女として現役でいたい。物語はそんな中年女性の願望、というか妄想を臆面もなく爆発させる。アートのようなしっとりとした質感で再現されたパリの街並み、イケメンの好青年との偶然の出会い、そして忘れかけていた胸の高鳴りに己の欲望を再認識していく過程は、まさに大人のおとぎ話。たまゆらの恋と分かっているからこそ素直になれる、ここまでストレートに“男が欲しい”気持ちをさらけ出すヒロインにはむしろ清々しさすら覚えた。
パリで迷子になったカメラマンのセンは、日本人向けフリーペーパーの記者・アオイと知り合う。食事を共にし、バーに行くとアオイは酔いつぶれ、アパートに送ったセンはそのままアオイの部屋の浴槽で夜を明かす。
セーヌ川、凱旋門、シャンゼリゼ、エッフェル塔、サンマルタン運河、それら名所以外の横丁にも住宅街にも石造りの建造物が歴史を感じさせるパリ。ここを訪れる異邦人はみな街の持つ魔法にかかり心をオープンにしてロマンティックな出来事を期待している。もはや手垢が付いたような展開だが、2人の間で交わされる会話のテンポが良くて決して飽きさせない。また、アオイの心理を投影するような絶妙のカメラワークは、時にブレ、時にピントが外れ、ためらいやときめき、寂しさや不安、喜びとため息といった繊細な感情を代弁する。年齢を重ねた女性だけが身にまとうことができる雰囲気を保ちつつ時々付け入るすきを見せるという、男心をくすぐる駆け引きに長けたヒロインを、中山美穂はチャーミングに演じていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
一方で、センの妹・スズメははるばる恋人に会いに行ったのに、あっさりフラれてしまう。それは若さに対する残酷な罰、映画はスズメに試練を与え、女の魅力を身に着けるにはたくさんの涙を流す必要があると訴える。恋を成就させるためには人生の経験が最大の武器、アオイとスズメの対比は、恋愛の土俵においてすでに終わっているとされてきたアラフォー女性から20代の“現役”女性への挑戦状なのだ。。。
オススメ度 ★★★