こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パリタクシー

長年住み慣れた家も人生の大半を過ごした街も今日で見納め、懐かしい場所に寄り道しながらの小さな旅は彼女の古い記憶を呼びさます。物語は、老人ホームに入居が決まった女とタクシー運転手の束の間の触れ合いを描く。92歳になるという老女は70年以上も前の出来事を昨日のことのように覚えている。初めての恋、初めてのキス、そして新たな命。波乱に満ちた生涯の出発点ともいえる出会いは彼女にとって最も美しい過去でもある。そしてその後に待ち受ける過酷な運命と、それを乗り越えたからこその現在。怒りや悲しみ、不運や貧しさで人は年を取るが、微笑むたびに若返ると語る彼女はみずみずしく年齢を重ねている。宝物のように愛せる思い出がひとつあれば、たいていの苦労は乗り越えられると彼女の笑顔は訴えていた。

タクシー運転手のシャルルはマドレーヌの送迎を頼まれる。マドレーヌはパリの中心街を抜ける道中でシャルルに身の上話を始める。それは想像を絶する打ち明け話だった。

パリを解放した米兵との間にできた子を抱えたまま結婚したマドレーヌは、夫のDVに耐えるしかなかった。まだまだ女の権利が制限されていた1950年代、シングルマザーの立場は弱い。離婚という選択肢はないに等しく、夫への不満を爆発させると社会から過剰な制裁を受ける。もちろん彼女の事情を知って声を上げる女たちはいるが、それが政治を動かすのはもっと後。マドレーヌが乗り越えてきた苦難と行動に移すエネルギーはシャルルの悩みなど吹き飛ばす。どんな状況になっても動じないマドレーヌが、シャルルの交通違反を取り締まりに来た女性警官を丸め込む手腕には舌を巻いた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

毅然とした態度を崩さないマドレーヌは、最初のうちは “年齢の割にはしっかりとしたおばあちゃん” にしか見えない。ところが昔語りをするうちに “人間味あふれる魅力的な女性” に思えてくる。シャルルの彼女に対する印象の変化はそのまま観客も共有する。経験こそが女の魅力、若い女にしか価値を見出せない日本人とは大違いだ。

監督     クリスチャン・カリオン
出演     リーヌ・ルノー/ダニー・ブーン/アリス・イザーズ
ナンバー     68
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://movies.shochiku.co.jp/paristaxi/