こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

王妃の館

otello2015-04-23

王妃の館

監督 橋本一
出演 水谷豊/田中麗奈/吹石一恵/尾上寛之/青木崇高/中村倫也/安達祐実/山中崇史/野口かおる/緒形直人/石橋蓮司/安田成美/石丸幹二/山田瑛瑠
ナンバー 59
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

燦々と降り注ぐ陽光を大きな窓からふんだんに取り入れ、反対側の壁は鏡で埋める。闇を恐れわずかな影すら征服しようとする目くるめく空間は、地上に再現された天国のようだ。絶対王権の象徴・ヴェルサイユ宮殿の中でもひときわその主の権勢を示す巨大な回廊で語られる、歴史を生きた人々への思い。流麗なカメラワークでとらえられたワンショットはこの作品の白眉、少年のようなおかっぱ頭と珍奇なファッションに身を包んだ水谷豊の新たな魅力が爆発する。物語はパリを訪れた2組の訳ありツアーが巻き起こすドタバタ劇を描く。街の美しさのみならず、そこで繰り広げられる様々な人間模様を追うちに、いつしか本筋の登場人物よりも主人公が生み出すキャラクターの運命に惹かれていく。その予想外の展開にしばし唖然とした。

小説家の右京は新作の構想を練るためパリ高級ツアーに参加する。一方、同じホテルの部屋を利用した格安ツアーも同日に到着、ツアコンの玲子と戸川は2組が鉢合わせしないように時間をやりくりする。

ツアー客たちはそれぞれに言いづらい事情を抱えている。一緒に行動し打ち解けるにしたがって、旅の間だけの道連れだからこそ本心を打ち明ける。みな、帰国までに何かを変えたい、踏ん切りをつけたいと思っている。そんな中、右京は過去に埋もれた人々の声に耳を傾け、“創作の神が降りてくる”のを待つ。バカバカしいほどありえない設定の中、デフォルメされた妄想癖と非常識を兼ね備えた右京という作家の性格が独特の存在感を示す。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

右京が執筆中の、ルイ14世庶子の母への愛を綴ったストーリーは、日本人俳優が日本語で演じるフランスの悲劇。書き割りのようなセットの安っぽさがまた“劇中劇”の味わいを見せる。そしてパリツアーの男女は、すっかり右京が紡ぎだす世界に感化され、人間にとって愛が最も尊い感情であると気づかされていく。最後まで、どこかでまんまと騙された気分が抜けない、不思議な空気を持つ映画だった。

オススメ度 ★★*

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