こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

のぼうの城

otello2012-11-05

のぼうの城

監督 犬童一心 /樋口真嗣
出演 野村萬斎/佐藤浩市/山口智充/成宮寛貴
ナンバー 271
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

武士らしい威厳は微塵もなく、百姓たちと田植え麦踏みに興じる男。城代の要職に在りながら武芸よりも芸能に長け、不思議な魅力で領民から大いに慕われている。映画はそんな主人公が、所領の一大事を前に抜群のリーダーシップを発揮し、見事に難局を切り抜ける姿を描く。身分で分け隔てせず、相手の目線でものを言い、いつしか周囲を納得させてしまう奇抜な侍大将を野村萬斎が怪演、戦国時代の武士像に全く斬新な解釈を加える。その現代語を口にする変人ぶりには最初強烈な違和感を覚えるが、ストーリーの進行とともに画面に馴染み、やがて彼にしか演じ得ないのではと思わせる圧倒的な存在感を示していた。

戦国時代末期、秀吉の北条攻めに伴い、北条方の忍城に石田三成の軍勢が押し寄せる。兵力2万の石田軍に対し、成田長親率いる忍城は兵力500。だが開城を迫る石田軍に対し、長親は籠城戦で迎え撃つ。

城下全域を高い土手で囲み、一気に川を決壊させる。冒頭、秀吉軍が見せる“高松城水攻め”シーンでは、津波と見まがう巨大な奔流が城下町ごと飲み込み、天守閣を残して人も建物もすべて水に流されてしまう。VFX技術の粋を集めた、戦国時代の無慈悲さが凝縮された圧巻のプロローグに思わず前のめりになった。ところが、本題である忍城攻防戦においては、それほど奇手奇策が見られなかったのが残念。投石器や油攻めだけでなく、もっとあっと驚くような珍奇な新戦術を見せてほしかった。どうせ時代考証的なリアリティは求めていないのだから。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、忍城も三成軍の水攻めに会い、本丸以外は水没、多数の領民が避難してきたうえ、士気も低下する。大ピンチに長親は小舟の上で奇妙な舞と唄を披露して敵味方なく虜にしてしまうが、この辺りになるともはや野村萬斎の独演会。しかし、彼の所作の優雅さと滑稽さには目を見張る一方で、物語はますます現実味を失っていく。元々が知名度の低いローカルヒーロー、ならば“歴史大作”を狙わず身の丈に合った作品にしていれば、長親の個性にも共感と親しみを持てたはずだ。

オススメ度 ★★*

↓公式サイト↓