こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アメリカン・スナイパー

otello2015-01-26

アメリカン・スナイパー AMERICAN SNIPER

監督 クリント・イーストウッド
出演 ブラッドリー・クーパー/シエナ・ミラー/ルーク・グライムス/ジェイク・マクドーマン/サミー・シーク
ナンバー 18
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ただの見物者かもしれない、でも母親らしき女が10歳くらいの少年に確かに爆弾を手渡した。望遠スコープの先ではいままさに自爆テロが起きようとしている。判断が遅れると犠牲者が出る。照準の中心に子供をとらえた主人公は引き金に指をかける。映画は、伝説のスナイパーと呼ばれた兵士の圧倒的な緊張にあふれた戦場体験をリアルに描き切る。そして、戦争が彼の人生にもたらした苦悩を再現し、160人もの敵の命と引き換えに失ったものは何だったのかを問う。「ハート・ロッカー」にも似た戦地にしか居場所がない男を増量したブラッドリー・クーパーが好演、感情を殺し続けてきた胸の内をスクリーンに投影する。

少年時代、厳格な父から弱きものを守る気概と銃の扱いを教わったクリスは、米国人を狙った爆弾テロを機にSEALSに志願、厳しい訓練を耐え抜いて狙撃手となる。その間、タヤと知り合い付き合い始めるが、結婚式のパーティの途中に出撃命令が下る。

米国の安全保障を脅かす者はすべて敵といった価値観を叩き込まれたクリスが、一切の疑いを持たずに殺人マシーンと化していく。ターゲットを1発で仕留めるのがクリスの流儀。遠く離れた敵のみならず、民間人を装ったテロリストも排除しなければならない。ガラス玉のような青い瞳はプレッシャーの中でも保たれる平常心を意味するが、帰国しても変わらない彼の眼差しはイラクに心を残してきたからにも思える。妻子に恵まれた暮らしに罪悪感を覚え、ひとりでも多くの同胞を救わねばという責任感が幸せをかみしめるのを拒絶する。義足の帰還兵に礼を言われた時の戸惑った表情が無事でいる自分への違和感を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて敵スナイパーを倒したクリスは除隊、傷痍軍人の相談相手となる。国への奉仕を強く願うクリスは彼らに射撃を教えて“誰かの役に立ちたい”気持ちを満たしていく。クリス自身は興奮や熱狂とは程遠い場所にいたのに、大衆は彼を英雄視し偉業を称えようとする。救った味方の数ではなく殺した敵の数を基準にして。必要な戦争、義務としての殺人、イーストウッドもまた米国人の立場からイラク戦争を振り返る。結局、誰もが傷ついただけではなかったのかと。。。

オススメ度 ★★★★

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