ディオールと私 DIOR ET MOI
監督 フレデリック・チェン
出演 ラフ・シモンズ/マリオン・コティヤール/アナ・ウィンター/カトリーヌ・リヴィエール/フルヴィオ・リゴーニ/ピーター・ミュリエー
ナンバー 72
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
実力が評価され大抜擢されたのは素直にうれしい。だが失敗の許されないプレッシャーに押しつぶされそうにもなる。スタッフの能力は十分、あとは己の独創性と先見性、流行を生み出していく感性をいかに現場に伝え表現するか。カメラは老舗ブランドのアーティスティックディレクター就任した男の苦闘に密着する。デザイン画の選別から布地選び、現代アートとのコラボ、そしてショー会場の選定から飾り付けまで、あらゆることが彼の判断にカかっている。気心の知れたマネージャーやベテランの針子たちはプロの腕を見せてくれるが、最終決断を下すときの孤独はやっぱり他人に理解してもらえない。華やかな業界ほど舞台裏は地味で地道な作業の連続、アートとビジネスを両立させなければならない主人公の苦悩と葛藤が活写される。
クリスチャン・ディオールのデザイナーとして白羽の矢が立ったラフは早速新作に取り掛かる。与えられた時間は8週間、ディオールのレガシーを大切にしながらもチャレンジも忘れない難事業が始まる。
勤続42年のベテランを始め、アトリエには二次元の布を縫い合わせて立体にする魔法のようなテクニックを持つ針子が何人もいる。デザイナーが変わっても優秀な職人たちは残す、いや、職人を手放さないからこそ誰がデザイナーになっても水準以上の服が作れるのだろう。テクノロジーでは何も解決しない、そのすべてが手仕事の製作工程は、オートクチュールならではの人間臭さが充満していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて、ラフのイメージが徐々に具体化されていく。ゴージャスな中にもシックな味わいが花開き、モダンなのにクラシカルな香りがする、そんなオリジナリティに富んだ服に昇華していく。単に服の色や形をデザインするだけではない、それをどう見せどんな物語を持たせるか。発表の場であるコレクションまでを含めた、総合プロデューサーの手腕が必要とされるデザイナーという職業の奥深さを知った。
オススメ度 ★★*