こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ターナー、光に愛を求めて

otello2015-03-28

ターナー、光に愛を求めて Mr. Turner

監督 マイク・リー
出演 ティモシー・スポール/ドロシー・アトキンソン/マリオン・ベイリー/ポール・ジェッソン/レスリー・マンビル
ナンバー 71
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夜のとばりが降りてくる夕暮れ時の空気の変化、窓越しに見た小さな帆船、自らの体を船のマストに縛り付けて体感する荒れた冬の海。それら主人公の感覚でとらえたイメージのみならず、室内で作業し、食事をとり、討論し、睦み合う場面などのあらゆるショットが、計算されたライティングによって陰影を際立たせる。一方向から当てられた光に、照らされた部分はより明るく、影の部分はより暗さを強調され、映画自体をターナーの世界観で表現する試みはマイク・リーの丁寧な演出で見事に成功している。光とは何か、それは希望の象徴であるとともに、心の奥に潜む怒りや憎しみ、不満や恐怖を呼び覚ますもの。物語は巨匠となったターナーの後半生を再現する。説明的なセリフも胸を打つエピソードもない、それでも映像の圧倒的な力が彼の生きざまを強烈に印象付ける。

欧州スケッチ旅行から英国に戻ったターナーは、助手として働く父、家政婦のハンナと共に暮らしている。パトロンめぐりやアカデミーでの人脈づくりに忙しい毎日を過ごすと、またスケッチの旅に出る。

女性科学者から分光器で光の本質を教わり、光に対する分析と理解こそが絵画にダイナミズムとリアリズムをもたらすといち早く知ったターナー。だが、その話をアカデミーで講演しても誰も聞いていない。さらに自分を大切にしてくれた父を亡くし失意に沈んだりするが、気難しい表情を変えないため感情は読みづらい。そんな彼が展覧会で見せる赤い絵の具を使ったパフォーマンスが、ターナーもまた遊び心のある人間だと語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

海辺の宿の未亡人・ブースを愛人にし、ロンドンの別宅に囲うターナー。彼はブースの前では別名を名乗り、役人で通している。自宅はハンナに管理させたままほとんど足を向けず、成功した人生とは別の生き方をしてみたいという願望に身を浸す。19世紀半ば、まだ珍しかったカメラの前に座りブースとふたりで肖像を撮ってもらうシーンが、本当に残したかったのは芸術家の名声よりも愛の記憶だったと訴えていた。

オススメ度 ★★★*

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