ルック・オブ・サイレンス THE LOOK OF SILENCE
監督 ジョシュア・オッペンハイマー
出演
ナンバー 165
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
視力検査用のメガネをかけられた老人たちは、記憶の底から遠い過去をほじくり出される。それは、自分たちの手柄が、実は人殺しだったという事実。怒る者、弁解する者、言葉を失う者、感情のほんのわずかな変化も見逃さないように眼鏡技師は彼らを見つめる。映画は、1960代後半、インドネシアで発生した共産主義者大虐殺の実態に迫る。手を下したのはほとんどが軍に操られた民兵たち。100万人ともいわれる死者を出しながら罪に問われず安穏と余生を送る元民兵に、犠牲者の弟がインタビューする。彼らは同じ村の顔見知り同士、加害者側と遺族が50年近くも隣人として暮らしてきた気まずさを、長い長い沈黙が饒舌に物語っていた。
囚人をナタで斬りつけ川に突き落としたときの様子を自慢げに語る2人の老人は、「武勇伝」をイラスト入りの本にして出版している。そのビデオを見たアディは、無料診断を装って、存命中の元民兵や子孫に会いに行く。
老人たちに命を奪われたのはアディの兄。アディは世間話をしながら徐々に当時の事情を聞きだそうとする。老人たちにとって共産主義者の粛清はむしろ誇らしい実績、なのに遺族から直接殺害について問い詰められる。そして初めて被害者側の痛みを知る。すでに総括は済んでいる歴史、しかし“やられた側”は決して忘れない。もちろんアディは復讐を望んでいるわけではない、元民兵や彼らの家族も根は善良な人だろう。ではなぜ悲劇が起きたのか。カメラは普通の人間の心の奥に潜む、ちょっと背中を押してやるだけで暴走する“残虐な悪意”をあぶりだしていく。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
カンボジア、ルワンダ、チベット、イスラム国……。同様の出来事はその後も世界中にあふれている。殺された人数は統計でしかない。だが、アディにとって兄の死のみが真実なのだ。兄が今わの際に感じたであろう恐怖と絶望を伝えることが少しは抑止力になるかもしれない、そんな重苦しい力を持った作品だった。
オススメ度 ★★*