こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

陽だまりハウスでマラソンを

otello2015-01-29

陽だまりハウスでマラソンを Sein letztes Rennen

監督 キリアン・リートホーフ
出演 ディーター・ハラーフォルデン/ターチャ・サイブト/ハイケ・マカシュ/フレデリック・ラウ/カトリーン・ザース
ナンバー 16
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

もちろん職員は精一杯面倒を見ようとしてくれる。医師たちも健康に細心の注意を払ってくれる。清潔な建物と管理の行き届いた生活、気力も体力も衰え、ただ安らかな最期を望むものには申し分のない施設。しかし、弱った妻のために仕方なく入所した主人公にとっては息苦しい牢獄だ。物語は、かつての五輪マラソン金メダリストの、老体に鞭打つフルマラソンへの挑戦を描く。理解してくれるのは妻だけ、周囲の制止も聞かず嘲笑も受け流しひたすら己の道を進もうとする姿は、信念こそが人間を強くし、人生を豊かにすると訴える。加えて、個性も能力もそれぞれ違うのに高齢者とひとくくりにする管理者側の姿勢にも鋭いメスを入れる。

妻・マルゴと共に老人ホームに転居したパウルは、退屈な日課に耐えられずベルリンマラソン出場を宣言、トレーニングを開始する。だが、指導職員は規律を乱す行為とみなし、頑固な老人もルール違反と反発する。

ところが、パウルが伝説のランナーだったと知った仲間の老人たちは彼に共感を寄せ始める。慇懃だが有無を言わせない指導員や所長に対する不満、それはいつしかパウロへの期待に変わり、本当に老人たちの気持ちに寄り添おうとする反抗的な介護職員もパウロを応援するようになる。一方で、パウロの娘はそんな父に心配と安堵が入り混じった感情と、トラブルメーカーの疎ましさも抱いている。そのあたり、映画は“夢を失なわずに頑張っている老人”以上に、深刻で複雑な高齢化社会の諸問題を浮き彫りする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

登場人物は皆、善意も良識もある常識を持った人ばかり。その中でも、ルールを厳格に守ろうとする人と、フレキシブルに運用しようとする人の間で齟齬が起きる。支える側と支えられる側の、双方の思いに違いがあるのは当然。少ない予算で人手を確保できないなど事情もあるだろう、それでも生きることに貪欲な老人にはもう少し柔軟に対応してやりたいと思わせる作品だった。

オススメ度 ★★★*

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