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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ベトナムの風に吹かれて

otello2015-07-17

ベトナムの風に吹かれて

監督 大森一樹
出演 松坂慶子/草村礼子/藤江れいな/松金よね子/柄本明/奥田瑛二
ナンバー 158
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

一語一語省略せずにはっきりと丁寧に発音する。ヒロインに扮する松坂慶子が口にする、NHKのアナウンサー以上に美しい日本語につい聞きほれてしまう。もちろん役柄上当然なのだが、彼女の落ち着いた抑揚の話し方に文部省唱歌のような懐かしさと心地よさを覚えた。物語は、ハノイ日本語教師認知症の年老いた母を移住させ、幸せな老後を送らせようと奮闘する姿を描く。まだまだ隣人との距離が近いベトナム、日本人にも分け隔てなく接してくれる懐の深さが魅力的だ。さらに、万事楽天的で、竜宮城にもたとえられる住みやすさ。一方で、今も残るベトナム戦争の傷跡と大東亜戦争の記憶。そんな、儒教美徳と経済成長のエネルギーが並列する新興国の“現在”が活写される。

新潟で暮らしていた母・シズエをハノイに引き取り、同居するみさお。ある日、大戦後ベトナムに残した妻に謝罪したいと願う元日本兵の代理でやってきた女学生を、現地妻の家に案内する。同行したシズエは戦争への思いを彼女と共有する。

自分がおかれている状況をきちんと理解できないせいで、逆にシズエはハノイでの生活に馴染む。言葉は通じなくてもご近所に見守られ、日本にいたころよりも却って生き生きしている。だが、事故での手術をきっかけに、急にワガママになる。夜中に何度も「便所行きてぇ」と叫ぶシズエをひとりでケアする肉体的精神的負担にみさおは疲れ果て、とうとうシズエをベッドに縛り付けてしまう。人情が篤くみな親切なお国柄でも、やはり他人には頼めない介護の現実がみさおに大きくのしかかる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

全共闘世代のみさおはおそらく60代半ば、シズエを無事看取ることができても日本に帰る場所はもうない。十年・二十年後、ハノイに肉親がいない彼女の面倒は誰が見るのだろう。国民的女優の追悼式で“浦島伝説”を演じるみさおは玉手箱を開ける。老いた身で異国にひとりぼっち、全編ハッピーな雰囲気の映画だけに、みさおの老後を暗示させる浦島の結末が余計に恐ろしかった。。。

オススメ度 ★★★

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